弟子入り05
「ユークラウド」
冷たい声だった。
まだまだ短い付き合いだが、師匠が僕の名前を略さずちゃんと言ってるのは、怒っている証だ。
あの後、リリーシャと何とか仲直りする事が出来たのだけれど、一難去って、また一難。
師匠の所へいつものように魔石を持って行ったら突然の事に冷や汗が止まらない。
しかし、どれだ、一体、どのやらかしにについて怒ってるんだ。
そんなことを考えていたら、師匠にジト目をされてしまった。
そのまま、ジト目から、ため息を吐くコンボを決めて師匠は……。
「私は、無詠唱魔法について否定派だと言いました。なのに持ってくる魔石を無詠唱で作っていますね」
何故、自分が怒っているかを告げた。
話は僕が師匠に言われて、魔力を注いで持ってくる用に言われた魔石に関してだった。
僕は、師匠に作って来るように言われた魔石を横着して、師匠の嫌いな無詠唱魔法で持ってきているのだ。
「少しくらいならと、見逃していましたが、ここ最近の魔石は全て無詠唱魔法で作られています。これは流石に看過できませんよ?」
「うぅ……すいません。師匠……」
バレないと思ってやってたら、思いっきりバレてた。
師匠は詠唱で作って来る様に言ってたから、これは、僕が全面的に悪い。
しかも、師匠は何度か甘い顔をしてくれたのに気付けなかった。
頭を下げて謝罪の意を表明する。
その様子に師匠は「しょうがないですね」といつもの様に許しをくれた。
「ちなみに、理由はやはり…………」
「はい、一度に体外に放出する魔力が少ないので、呪文の詠唱を省略しました……」
理由は、僕の体の魔力を放出する器官が小さく、発動がとても遅く詠唱するととても長くなるという事、ただ一点。
何度も魔力を取り出す詠唱をするのが面倒なのだ。
「あれのせいで、定期的に魔力を体外に放出する節を繰り返さないといけないんです!魔石を溜まる時間ってそもそも長いですし、日常生活に支障が……」
と、つい、悪いのはこちらなのに声を荒げてしまう。
改めて「すいませんでした師匠」と告げると、師匠は何かを考え込み始めた。
こういう時の師匠は色々と考えており長くなる時もあるので、住宅、兼、研究所の掃除をするのがベストだ。
そう思い、箒に手をかけたところで、今日は早く解決策が思いついたのか、師匠が提案を行って来る。
「ちょうど良いです。良い機会なので無詠唱魔法のメリット、デメリット。後はユートのその問題を解決する繰り返し詠唱を教えましょうか」
「繰り返し詠唱ですか?」
「そうです」
師匠が先にレクチャーしてくれたのは、繰り返し詠唱について。
理由は、魔石を作るのに必要だからだそうだ。
「本来、あまり使う事は無いのですが、詠唱の特定の節によって起こす現象を指定回数繰り返す事が出来るようになる詠唱文です」
と言う事らしい。
この節を使えば、詠唱を少し増やすだけで、特定の行動、僕の場合魔力を増やすと言う詠唱の節を何度も唱えなくても、体から魔力を放出することが出来る。
あまり使われない理由は、詠唱を省略できたとしても、工程の数は変わらない為、繰り返し文を使う時間だけ、魔法が発動するまでの時間が増えてしまうからだそうだ。
更に繰り返し文を付け足すのに、有用な詠唱の連続回数は4回かららしいが、魔法の詠唱でそんなに連続して詠唱を重ねる事は無いらしい。
他にも使われない理由は多々あるらしいが、純度を求める魔石を作るという作業を行う為に使う文としては最適らしい。
これを使えば、魔石作りがうんと楽になる。
ん……待てよ?
「そんな便利なものあるのなら最初から教えてくれれば良いのに……」
ジト目で師匠を見ると、ウッとたじろぐ。
「……ユートが無詠唱魔法なんて高度な物を使っていたから、知ってるものと、完全に失念していました」
すいませんと、頭を下げる師匠。
そこで、頭を下げられると横着していたのは自分なのだから申し訳ない気持ちになってしまう。
二人とも落ち込んでいることに気付いたのか師匠は一つ咳払いをして場の空気を整える。
「では、おあいこと言うことにしておきましょう」
そう言って、頰をかく師匠。
不器用な形の仲直りだった。
「ありがとうございます!師匠」
「はい。………………どさくさに紛れて師匠と呼ばないで下さい」
チェ……。




