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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅰ
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現状把握01

 ユールス暦、1724年。


 ランバルディア王国の首都ランバルデアに次ぐ、2番目の大きさを誇る都市、ガスティにて。


 この都市の領主を務めている貴族の家、ゴールディ一家で、4人兄弟の次男であるラスタが、妻のクリシアと共に待望の長男を授かる。

 一族の次の世代を担う待望の男児の出産に、ゴールディー家では、喜びに舞い踊っていた。


 だが、出産と共にその音は、驚愕に変貌する。


 金の髪を誇りとし、一族の者は基本的に黄系統。

 眩く輝くほどその血を色濃く受け継ぐとされるゴールディーの一族に産まれたのは……。

 不吉の象徴とされる銀色の髪を持った赤子だった。






 ユークラウドと名付けられた俺が、前世で自分は日本という国で生きていた中学生だったと思い出したのは、1回目の誕生日を迎えた日の翌日。

 好奇心で赤子ながらに危ないものが取り除かれた筈の本棚を揺らし、唯一残っていた本と頭が接触。

 その衝撃からなのか電流が走るように無いはずの記憶が巡った。


 それからというもの身体不相応に頭の回転が速くなり、この世界に無いはずの知識が出たり消えたり。

 自分が今いるこの世界とは違う、前世の世界を認識することとなったというのがことの始まりだ。


 まぁ、大きな物音を立てたことに気付いた、母とメイドに心配と共に胸に抱きとめられると、安心感ですぐにどうでもよくなってしまったのだけれど。


 その後、二日ほど、ボーッと思考しながら過ごしたせいで、村の唯一の医者を何度も呼ばれるほど心配された為、仕方なく動き始める事を決意。


「マーマー」


 発音器官が、成長していないのか、上手く発音することができず、そんな言葉しか出てこなかったが、初めて喋った言葉に母は涙してくれた。

 そのまま抱きとめられると心が安心し、何もかもがどうでも良くなるのだが。


 そんな経緯があったからか、考えがまとまったのはそこから一週間程先のこと。

 今の成長度合いでは、脳のスペックが足りず高度な思考を纏めるという作業がかなり難しいようだ。


 自分は、普通の世界の日本の田舎に生まれた、ごく普通の少年だった……と思う、多分。

 そして、気付いたら、一歳の赤ん坊になっていた。


 赤子の頭だからか、前世のエピソード記憶はあやふや。

 自分がどういう人間だったか、全く上手く思い出せない。

 意味記憶に関しては直ぐに思い出せるのに、記憶はまるで靄がかかっている様で、思い出そうとすると、霧をつかむような感覚に陥ってしまう。

 脳の成長度合いが関係していそうだなんて思考を巡らせてみるけど、そちらも詳しく覚えているわけじゃないから、結論は出ない。


 先に弁明しておくけれど、赤ん坊の体を乗っ取ったとかいうわけじゃない。

 前世の日本人としての知識と赤ん坊としての記憶が混在しているという説明が一番近い。

 頭に受けた衝撃で記憶喪失になり、数年過ごし、衝撃で記憶喪失が突然治った人間はの状態に近いと思うのだが、自分で言っててよくわからなくなる……。


 きちんと自分が自分であるという感覚はあるから、問題は無い……、と思う。


 ごちゃごちゃと色々と考えるけれど、この体の母、ラスタに抱きしめられると脳は幸福状態になり、考えていたことはどうでも良くなるのが厄介なところだ。


 人間である限り前世にも母が居たはずだが、自分の母はこの人だと、本能が認めてしまっている。

 まぁ、前世のことはなんも覚えてないしね。


 何とか思考を引っ張り出して、ようやく結論。

 これは所謂、生まれ変わり、転生者という奴では無いだろうか?

 よく小説やアニメにあるアレだ。


 だが、例の通り、肝心の自分が死んだ時の記憶が無い。

 自分の前世の名前すら思い出せない状況に加え、よくある神様のような存在似合った記憶も無い為、完全にノーヒント状態である。

 チートな能力や開拓展開をしようにもどうしようも出来なさそうだ。

 残念……。


 失った記憶を取り戻したいという気持ちや、普通の日本人としての生活に戻りたいという気持ちも少しくらいは無いわけじゃ無いけれど、母のクリシアの柔らかさに抱きしめられると、どうでも良くなる位だし、優先順位的にはかなり低い。


 まず、この家から出ようなんてことも思えない。

 赤子ライフ、まじ本能に従順。

 まぁ、そんな訳で、俺にはこの幸せを享受する以外の選択肢が無いのだ。


 さて、前世に思いを馳せたら今度は、今世に思いを馳せるとしよう

 俺は元の世界の事を普通の世界と呼んだ。

 それは何故か?


 これが普通の生まれ変わりであるならば、同じ世界の別の時代や国に生まれ、前世の知識を活かしつつも根本的には変わらない人生を送る。

 だが、違った。

 時代や国じゃなく、世界が。

 ここは自分の知るものと全くの別の世界、異世界なのだ。

 それも、魔法の世界。


 この世界には、魔法が存在する。

 俺の頭に本棚が倒れてきたあの日。

 怪我が無いかと心配した母、ラスタは、雇っているメイドに頼み俺に治癒の呪文・・を唱えたのだ。

 魔法を使役するための言葉、呪文である。


 癒しがうんたらとか、聞き取れたのはそれだけだったけれど。

 メイドさんの手が頭に触れ、呪文を唱え終えたところで、その部分が淡い光に包まれ、痛みが消え去ったのだ。


 魔法、それは元の世界に無かった筈の物。

 呪文を唱える事で、世界に影響を及ぼす術というのは、不思議なもので、物理と化学が常識だった世界出身の元日本人としては、かなり憧れてしまう。


 俺が導き出した結論は、思い出せるか分からない記憶や帰れるか分からない世界なんかより、目の前の魔法を習得しよう、だ。

 どうやら、自分は昨日の夕食の事思い出す暇があるなら、今日のご飯の作り方を模索した方がよくない? という楽観的な思考をする人間のようだ。

 人間、割り切ることが大切だよね。


 前世の名前とか死因とか転生してきた時の事とか割と重要な事な気もするけど、考えても思い出せないものは思い出せない。

 それより、魔法について知ろう。

 あわゆくば、習得して自在に扱ってみたい。


 早速、魔法習得の為に情報収集を行おうと思う。

 何事も情報が命だ。

 だが、いざ、行動しようとしてみるものの、この体、部屋から出る事が出来ない。

 具体的にはドアを開けれない。


 頭が急激に発達した所為で、身長の差からくる前世との体の動かし方のギャップを感じながらも、歩行して、移動できるようになったのが二日前。

 そこから、母とメイドの目を掻い潜り、ゆっくりと体を慣らし部屋を探索した結果がこれだ。

 どうやらこの部屋、元あった空き部屋を子育て部屋に変えたらしく、赤子にはかなり不便な部屋だ。

 まぁ、勝手に出られたら困るのだろうけれど……。


 かなり頑張ったと思うけど、早くも詰んだ。

 この部屋から出られないとなると、出来ることがほぼ無い。


 元々この部屋にあった筈の本棚も、記憶を取り戻した時に怪我をした所為で、危険だと撤去されてしまった。

 実のところ初手の初手からミスってしまっているのである。


 こうなればもう時間が解決するのを待つしか無い。

 はぁ、寝よっと……。

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