表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅱ
16/114

弟子入り01


失敗した。失敗した。失敗した。

魔法の世界に明らかに浮かれていた。

子供でいる事を明らかに利用し過ぎていた。


弟子にして下さいなんて、軽い言葉でお願いして、傷付けてしまったのかも知れない。


きっかけは、やはり、半年ほど前、魔法が発動しなかったということ。

ミシェルさんに教えて貰った筈の魔法が発動しなかった所まで、思い出さなければならない。




あの後、様々な検討虚しく、結局、魔法が使えない理由がわからなかった。

ミシェルさんと2人で、解決しようと奮闘したものの、一度も、魔法を使えないまま一月の時間を無駄にしてしまった。


しかし、その間に、気づけたこともある。

詠唱に対して、事象が何も起きていない起きていない訳では無かったのだ。

風魔法では、微妙に風が吹いてる様なくらいの風を出すことができたし、水魔法では、手の平が湿るくらいの水分を出すことが出来た。


実際は後から師匠のエリアナさんに教えてもらった通り、魔力不足だったのだけれど、その時はそんなことも分かっていない。

詠唱とは違うことが起きしまっている。

だから、間違った魔法なのだと思い込んでしまった。


それから、なんとかしようとがむしゃらに解決策を探したが、一向に自体は好転しない。

今思えば、至極当然のことだ。

考え方が、そもそも間違っているのだから、アプローチも合っている筈がない。

結局、いろいろ挑戦した結果、唯一何とか形になった、無詠唱魔法に手を出した。


ヒントになったのは、赤子の時の微弱なパワーアシスト。

無詠唱魔法というのは、体内の中にある魔力を上手く操作して、呪文の様に、工程をこなす事で魔法を放つ事が出来る魔法だとミシェルさんの話を参考にして、俺なりの無詠唱魔法を完成させた。

無詠唱魔法と自分では思っているが、これが正しい無詠唱魔法なのかは不明のままだったりする。


これも、形にするのにかなりの時間を費やした。

子供ながらに子供生活が忙しかったってのも時間がかかった原因ではあるのだけど……。


リリーシャのお母さんも身重らしく、ほぼ毎日、幼馴染のリリーシャが家に預けられる様になり、リリーシャがいない時も、体調を崩す事が出てきた母の為に、一歳と少しの妹のクリスティーナと遊ぶという大役があったのだ……。

いや、めちゃくちゃ楽しかったんだけどさ。


子供生活をエンジョイする為には魔法にばかりかまけていられないのだ。

かける時間があるとしたら、リリーシャ達が起きる前の朝の早い時間帯だけ。

それも、体にだいぶん引っ張られてしまっているのか、朝に弱すぎたから、ほとんど時間がなかったけれど。

改めて、子供の体じゃ無理出来ないと痛いほど痛感していた。


あぁ、そうそう、話は更にずれるんだけど、この頃、妹の面倒を見ることが多かったのは、母の体調不良が大きかったりする。

母のお腹は、また大きくなってきていたのだ。


まだ、あやふやな言葉しか喋れない妹の世話がとても楽しかった僕としては嬉しいニュースだった。

今度は妹だろうか、弟だろうかと期待に胸が膨らんでしまう。

だが同時に、母は、4人(その内、5人かな)の生活のどこで、子供を授かってくるのだろうという疑問が生まれない訳ではないのだ。


変な話、水商売でもしているのかと勘繰った事もあるのだが、どうやら、きちんと1人の特定の男性を愛していて僕らはその人の子供だという事は分かった。

よっぽど、特殊な事情でもあるのか、姿を見た事が無いんだよねぇ。


気付けたのは、時折、ミシェルさんの機嫌が凄く悪い時があるからだ。

機嫌が悪くなった日は決まって、外に俺達をミシェルさんが連れ出す。

そして、そういう時は決まって、村の馬小屋に一匹、育ちの良さそうな馬が増えているのだ。


もしかしたら、家の家系はだいぶん複雑なのかもしれない。いや、元々分かってた事なんだけどさ。


……何の話だったっけ?

そうだ、師匠のエリアナさんに弟子入りするに至った過程の話だ。


何も分からないままに詠唱せずに魔法を組み立て続ける日々。

自分の中の魔力と対話し、様々なピースのパズルを組み立てて行く無限の作業。

あれじゃあ、上達しろっていう方が無理だ。


上手く、魔法が使えない事を相変わらずリリーシャにからかわれていたっけ。

あれ、子供ながらに傷付くんだぞぉ。

子供らしく対抗心が芽生え、ちょっとは自分も凄いんだぞという所を見せるために、組み合わせの結果を毎日見せびらかせるようになった。


人に出来ない事をやって自慢する。

我ながら、大人気ない、いや、子供だけど。


そんな事をやっていたから、バチが当たったのか、リリーシャのからかう作業がある日から、再開する事になる。

その日を境に、ピースを嵌める作業が全く進展する事がなくなったからだ。


少しの進歩が日々の拠り所だった作業が完全に行き詰まってしまって、僕自身も酷く落ち込んだ。

周りに深刻そうに写ってしまったのか、ミシェルさんだけではなく、リリーシャまでからかう事を辞めて、励まして来れたんだっけな……。


結局、ろくに魔法を使えないまま、それからの時間を過ごすことになる。

リリーシャも、ミシェルさんも周りの人が俺の周りで魔法を使うこともなくなった。

その気遣いをありがたく思う反面、その優しさに耐えきれなかった僕が僕を追い詰めていたのに気付けなかった。


楽しいはずのクリスティーナとの時間でも何処かで魔法のことを考えている自分がいる。

気付けば、無詠唱に費やしたのと同じだけの時間を無為に過ごしてしまっていた。


多分、限界だったのだ。

ふと、ミシェルが零した、この村に滞在している魔法のスペシャリストの話を聞いた翌日には、現師匠、本業、研究者のエリアナさんの元へと飛び出していた。


いきなり人の家を訪ねた挙句、弟子にして下さいだなんて口にするとは自分のことながら、凄い迷惑だと思う。

正常な判断力を失っていたのか、子供の思考で理性無しに動いてしまったのか、未だによく分かってないし。

あまり抱え込んで、自身を追い詰めない様に時折発散していかないといけないな……。


その後、弟子は断られたが、食い下がって、現状を何とかする為に魔法の使い方を教えてもらおうとしたところ、何故か魔法を見せる事になった。

更に、流れで無詠唱と詠唱魔法の両方を見せる事になり、片方ずつ披露した。

無詠唱は兎も角、詠唱魔法なんて、使おうとするの自体久し振りだったから、成功するのか、ひやひやしたけど。


そう言えば、休憩中に教えて貰った豆知識は、かなりタメになった。


で、結果なんだけれども、予想通りというか、無詠唱も酷かったけれど、詠唱魔法は人様に見せられるのを躊躇うレベルのできだった。


この実力で弟子にして下さいだなんて、よく言えたものだと思う。

だけど、弟子にして下さいと言う思いは、いつしか強くなっていた。

最初は魔法を使える様になると言う打算的な思いが強かったのが、色々な知識を知っているエリアナさんに純粋な興味を持った。


極め付けは無詠唱魔法に対するアドバイス。

噂に聞いていた通りらエリアナさんは魔法のスペシャリストで、的確なアドバイスで、使えない筈だった無詠唱を、あっと言う間に使える様にしてくれた。

詠唱の呪文の回数を変えて良いなんて知識は知らない物だった。


それだけに、彼女に告げられた俺が正しく魔法を使えない理由も衝撃だったのだけれど。

僕が魔法を使えない理由は、魔力を体内から体外に放出する門、通称魔力門が小さいというものだった。

そして、追い討ちのように魔力門が大きくならない事を告げられる。


どうやら、僕には魔法を上手く使う適正が全く無いらしい。

散々期待していただけに酷い仕打ちだと思ったが、エリアナさんがいうなら事実なのだろう。


だが、それなら、それで、諦めが付くという物。

魔法なんて、元から無かったような物に現を抜かさないで、元気に子供生活を謳歌すれば良いのだ。


決めたら、楽になった、なった気がした。

少なくとも、心にゆとりが生まれた。


そして、今日の自分の態度がとても失礼に思えてきて恥ずかしかった。

急いで、謝罪の言葉を口にしたが、気を悪くしてしまったかもしれない。


そんな自分の姿が、エリアナさんの目には、どう見えたのだろうか?

最初にあれだけ渋っていた筈のエリアナさんが俺に手を差し出してくれていたのだ。

師匠は無理だが、教えを請うのは許すと。


気付くと、その手を掴んでいた。

結局、その好意に甘えてしまったのだ。

諦めた筈の事を一瞬で覆してしまった。


どうやら、僕は、本当は諦めようとしてなんかいなかったらしい。

もしかしたら、それを彼女に……、いや、師匠に見透かされたのかもしれない。


こうして、僕は師匠の弟子になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ