少年中期06
雷撃が近付く。
きっと、森を満たす蝶を撃ち落としているのだろう。
残魔力を気にする様子が無く、豪快に魔法をばら撒くのは余裕の現れからか。
雷魔法、強化魔法となると妹を思い浮かべる。
妹は間違いなく天才だった。
まだ幼いものの、それでも、火力だけで言えば、あの村の誰よりも強い。
そして、目の前のこの人は、そんな妹に匹敵する程度の火力を持っている……。
もっと凄い化け物を見た後だが、だからと言って、一切油断できる相手ではない。
光の魔法を解く。
それほどまでに互いの位置は近付いていた。
やがて、互いに高速で近付き、攻撃範囲内に入る。
一見、奇襲なんて何もない直進。
ただ2台の馬車で突っ込むだけ。
急に現れた馬車に少し意表を突かれた様子の女性騎士だったが、その程度で動揺を見せることはない。
手に雷魔法を蓄え、いつでも、放てる様に構える。
その手に留まる雷だけで、どれだけそれがやばいものか分かった。
1秒が凝縮される。
右か左かどちらかに敵が乗っている。
そう考えた、女性騎士は僅かな綻びも見逃す気はない。
だからこそ、捉える。
幻惑魔法の僅かな揺らぎ。
右の馬車には誰も乗っていなかった。
気付くと同時に女騎士は反射的に動き出す。
強力な雷撃が放たれ、馬車を貫く。
「……!」
だが放たれた雷が穿ったのも、また幻覚。
馬車は霞と消え、残ったのは土塊のゴーレムだけ。
外れたと、そう思いもう一つの馬車を一目見るが、そちらは一度確認している、
念のため潰してやろうと思ってもう一度雷の魔法を貯めようとして、微かに後ろから馬車の音が聞こえた。
どちらかが正解だと、判断したのはあくまでも彼女。
ならば、作戦は、
「囮は二つ」
音がした方角は背後。
そちらを振り返っても、もう遅い。
だから、彼女は、振り返るより早く手だけ背後に向けた。
ノールックでは放たれる一撃。
それは、見てないにも関わらず、音の方角に正確に狙いをつけている。
長年の戦闘経験産み落とされる神業。
だが、それでも、馬車の歩みは止まらない。
振り向くだけでは間に合わないと思った彼女は大地を強く蹴った。
そうして地面から空中へ。
3次元的な動きを挟み敵の罠の回避を試みる。
そして、それの動きが幸いしたのか、彼女に攻撃は当たっていない。
だが、それは当たり前と言えば当たり前のこと。
宙へ飛ぶと同時にそちらを見る女性。
だが、そこには何もない。
「今だ!」
蝶の男は小さな声で合図を出す。
それは最初に女がスルーした中に何もない馬車。
僕は本体の馬車にも幻覚魔法をかけた。
それは、中に何も乗っていない様に見せるという幻覚。
完全に虚をついた。
「吹き飛べ!」
「食らえ!」
「っ!!」
「消えろ!」
「貫け!」
馬車から戦闘員5人の各々魔法が飛び、その攻撃は無防備な姿の女性騎士に全て突き刺さる。
無防備な身体に攻撃が突き刺さる。
「よしっ!」
「気を抜くな!!」
手応えを感じて喜ぶ一味に檄を飛ばす、蝶の男。
火、水、風、土、4つの基礎属性は攻撃力に、雷を含む上位属性は防御力に優れる。
特にこれだけ、魔力差があれば……その差はより顕著。
女騎士は5つの魔法に耐えきった。
ならばその先は。
腕は眩く光を放つ。
次の一撃が来る。




