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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
襲撃Ⅰ
105/114

少年中期01

 暗い。

 肌感覚でなんとなく辺りが夜だと言うことは分かるけど、僕の視界が暗いのはそれが理由では無い。


 目隠しに軽い拘束具。

 馬車の揺れを感じながら、最終目的地点に想いを馳せる。


「……売られてゆくよ〜」

「……チッ!」


 思わず浮かんだ歌詞を呟くと、目の前にいる誰かさんが、舌打ちするのが分かった。

 こんにちは誰かさん、私の名前はユークラウド、貴方のお名前h……ぐべっ!


「次喋ったら、殺す」


 ボディーにきつい一発を貰い、床に倒れ思わずゴホゴホと咳込んでしまう。

 幼い身体では単純な暴力に晒されたとき、解決手段がない。


 現実逃避の為に第三者的な視点で自分を見つめ、次は今の一撃で体調を崩したことにするか、なんて嫌がらせを夢想するが、やめる。

 そんなことをしたところで状況が好転する訳じゃない。

 冷静に状況を振り返ろう。


 村を襲ってきた大柄の男との交渉の結果、村から略奪されたのは僕一人となった。

 そして、景品そのままに馬車に収容され、村を襲った死にかけの馬鹿どもの治療をすることに。


 また、例の如く発動の遅い、効果の薄い僕の回復魔法だったが、直接見る事によって最低限の治療を施すことができ、事前に気絶した振りをしている間に長い詠唱と共に発動していた銀の蝶と併用する事で何とか一命を取り留めさせる事に成功した。

 相手の集団にも治癒魔法の使い手が居たことも幸い?し、どうにか大半の団員は復帰している。

 いや、まぁ、これを潜り抜けないといけない可能性がある俺にとっては不幸なんだけどさ。


 ちなみに、ネタバラシすると、脅しに使った銀の蝶には毒を付与する特性なんか全くなく、回復と幻惑魔法を込めただけの代物だ。

 長い詠唱時間を確保してもらった妹と幼なじみには悪いけど、あの時間で俺が完成させた魔法は落とし穴と銀の蝶の2つだけ。

 それをもとに大立ち回りだなんて、足掻くだけの場面で、大分無茶をしたものだ。


 もし、ハッタリが上手く行かなければ、相手の団員何人かを地面に埋め、3人で落とし穴に篭って篭城戦だったり、切り札の魔石を使ったりしなければならなかっただろう。

そうならなかったのは幸運か不幸か。


 味方の助けを待つ手も無かったわけじゃないが、僕1人で済む方があの場では確実だと判断した。

 今回の実戦で分かったことだが、やはり、魔法の発動が遅いというのは実戦では致命的過ぎる……。


 部の悪い賭けを仕掛けたのはそんな理由だ。

 ちょっと、確かめたかった事もあるしね。


 まぁ、そんなこんなで現在に至ると。

 それでこんな、丁重・・な扱いされるとは思ってなかったけどな!


 心の中で文句を垂れるが、ここは大人しくした方がいい。

 ちょうど蹴られて、身体が倒れてしまったし、疲れを癒す為軽く睡眠を取ることにした。

 そう決めると、疲れていたのか意識はすぐに現世を離れていく。


 夢の中で、知らない、懐かしい誰かに会った気がした。




「起きろ」


 ぐべっ。


 腹を軽く蹴られながら起こされるなんていう初めて体験するおはようの挨拶。

 クリス、リリ、ミシェルさん、母さんといった面子を思い浮かべながら、自身の恵まれていた境遇に想いを馳せる。


 さっきから感傷にちょくちょく浸るのは、身体相応に状況に絶望し、ノスタルジーに浸っているのだろうか?


 辺りでは、ここが目的地とばかりに、ゴソゴソと複数の足音が聞こえてくる。

 さて、さて、一体どうなるのか。


「出ろっ」


 そう言って目隠しを取られて檻の様な馬車から外へと誘導される。


 辺りを不快に思われない程度に軽く見渡すと、自分を見張っていた男はよく見ると回復魔法で多少治療してやった奴だと言う事に気付き、恩知らずめと心の中で毒付く。

 まぁ、妹に半殺しにされてたからマッチポンプかも知れないけど。


 視線を気取られないように前を見ると、そこは山の中腹辺りで、遠くには街のような物が見えた。

 初めて見る街にこんな機会じゃなければなぁと、内心で悪態を付くが、振り返って良いものか分からないので取り敢えず街をぼーっと見る。


「よう……」


 突然声をかけられ、少し身体がびくっとなる。

 この声は、今日戦っていた蝶の男の物。

 いつの間にか見張りは切り替わったらしい。


「お前と妹にはしてやられたからな」


 そのまま、軽い調子で肩に手を置かれると、身体がどこかゾワゾワとした。

 軽い調子の男が手を離すと、身体には炎の蝶が3匹ぐらいまとわりついている。


 うへぇ、と、思わず出そうになった嫌そうな声を、どうにか出さずに済んだ僕偉い。

 見ると、辺りにも沢山の蝶が浮かんでいて、外に出されたものの簡単には逃げられそうにはなかった。


「あっちだ」


 男に指を刺された方向を見ると、町外れに小さな小屋が見える。

 そこには豆粒程しかない大柄の男と、数人の仲間の背中が見えた。


 それと、対峙する2人の女性。

 遠目でも分かる気品と魔力。


「あれが、今回の依頼人だ」


 蝶の男が告げたのは黒幕の正体だった。

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