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服を買った後は細々とした日用品を買って行く。そんなに大荷物になっても困るだろうし、必要最低限のものだが、予備に買った衣服と合わせると結構な量になってしまった気もする。
「ま、必要なもんはこんなもんかな? じゃあ整備屋行くかー」
「整備屋? バイクの整備に行くの?」
「それもだが、前に頼んどいたもんが届いたらしいから、それを取り付けに行くんだよ」
「取り付け?」
「ま、行ってからのお楽しみってことで」
レジーノはそういうと止めてある宿屋に戻るぞと言ってきた。私はそれに従い、レジーノの後ろについて行く。
宿屋に着くと荷物を置いてから、二人してバイクにまたがり整備屋を目指す。
時間にして七、八分だろうか。大した時間もかからず整備屋についた。レジーノはバイクを停めると作業中だったらしい爬虫類人に声をかけた。
「レジーノ・マルティネスだが、注文していたものが届いたって連絡が宿まであったんだが」
「ああ、マルティネスさんね。届いてますよ。取り付け作業しますので、中でお待ちになりますか?」
「いや、どっかで時間潰してくるよ。どのくらい時間かかる?」
「二時間くらいいただければ」
「そうかい。じゃあ二時間後にまた来るよ。バイクよろしく頼む」
「ええ、お任せください」
レジーノは整備員とそんな話をすると、どこかのカフェで時間を潰そうと提案してきた。バイクに取り付けるもの…一体なんだろう。自分はバイクには疎いのでなかなか思いつかない。
近場の喫茶店に入ると二人してコーヒーを頼む。こうして喫茶店に入るとのも700年ぶりなのかと思うと少し懐かしい気がした。高校の時には友人とよく喫茶店でお喋りをしていたが、戦争が悪化したのはその後だったため、自然と足は遠のいてしまっていたが。
「レジーノはいつからトレジャーハンターをやっているの?」
「ん? 確か19の時からだったかな。当時は師匠……お世話になった人について回ってただけだが」
ふと思った疑問を投げかけてみると、そんな答えが帰ってきた。19歳か…その時自分は何をしていただろう。大学には進学していたが、社会情勢的に正直勉学に励むとかそんな場合ではなかった。表立っては日本は平和な方だったのだろうが、皆戦争の陰に怯えていた。その数年後には、戦争によって世界は壊滅的なダメージを負ってしまった。そうして無作為に選ばれた人間が、私のようにコールドスリープに入る権利を与えられた。
世界中の汚染されていない地域に施設を作り、千年の時を眠りの海で過ごす。だが、私のいた施設がああだった事を思うと、他の施設の人間も千年無事に過ごせる確約はなかったのだろう。
「レジーノ、ありがとね」
「なんだよ、突然」
「いや、見つけてもらえたのがレジーノでよかったなって思ってさ」
本当に幸運だったのだと思う。もし千年も経つ前にあんな壊れた施設で、他のポッドのように電力供給がうまくいかなくなっていたら自分はこの場にはいなかった。それに加え千年経ってコールドスリープが解除されたとしても、あんなボロボロの施設からここまでなんてたどり着く前に死んでいただろう。
レジーノは優しい。裏がある風でもない。純粋に700年前の人間に興味があるのだろう。彼にとっての自分にどれほどの価値があるのかはわからないが、少しでも恩を返すことができたならと思うのだ。
「レジーノ。迷惑かけちゃうかもしれないけれど、これからよろしくね」
「ははは、迷惑なんてどんどんかけてくれよ。よろしくな、エミ」
それからは、二人でこの街のことやこれから行こうとしているルートなどを話していた。気づけばもう二時間経っていたらしく、そろそろ行くか。とのレジーノの声に喫茶店を後にした。
整備屋に着くとレジーノのバイクが店先にあった。取り付けと言っていたが何を取り付けたんだろうと思うとバイクの横に人が座れる座席、サイドカーが付いていた。
「サイドカーつけてたんだ」
「荷物置く用にと思ってたんだが、ちょうど良かったな。連れが増えたからこれで快適だろ」
「いいの? 荷物置くとこなくなっちゃうんじゃ…」
「大荷物だったら抱えてもらうかもしれんが、パニアケースとトップケースで今は事足りてるから大丈夫だ」
パニアケースは車輪の横に着くケース。トップケースはテールにつけるケースの事を言うのだそうだ。他にも寝袋などあるのだろうが、二人乗りしない分のスペースがあるから大丈夫なのだろう。
「ま、これでバイクは完璧だし、明日この街をたとう。異論はないか?」
「はい! ありませんとも!」
「ははは! よし! 隣に乗っててくれ」
サイドカーに乗り込むとレジーノは整備員と話をし始めた。おそらく精算をしているのだろう。サイドカーなんて初めて乗ったが乗り心地は悪くない。これからここが自分の特等席になるのかと思うと少しワクワクした。
「んわ!」
サイドカーの座り心地を確かめていると、いきなり頭になにかを被せられた…。これは。
「ヘルメット?」
いきなり被せられたのは半球型のヘルメットのようだ。フルフェイスのヘルメットではない。
「ハーフヘルメット。ゴーグル付きのやつだ。砂埃ひどい時があるからそれにしたんだが嫌だったか?」
「ううん。ありがとうレジーノ」
「はは」
ヘルメット越しに頭を撫でられる。少し照れ臭いが、自分のものが増えていくのは嬉しいものだ。レジーノはヘルメットをかぶってはいないがゴーグルをつけている。正直カッコいいなあなんて思う。バイクにはまたがるとエンジンを蒸し、整備屋を後にした。
これから一体どうなるんだろう。なんて不安は少しはあるが、レジーノと一緒なら、大丈夫、そんな気がする。
よろしく、レジーノ。