俺の子ども?!
俺たちのケガは思ったより軽かった。
ジュンとユウは手のケガがメインで、俺に限って言えば、ほぼ無傷。
高さは八十メートルのビックジュンから落ちたのに、もうこうなると、俺から産まれた? キューブ様様なんだけど……。
その前に俺から産まれたと認識していいのか?
「お、来てるぞ」
ジュンがユウの靴箱を覗いた。
一週間ぶりの学校。
俺もジュンも検査で一週間学校を休んでいた。
それはユウも同じだった。
あの大惨事から一週間、俺たちは久しぶりに顔を会わせる。
無駄に光がはいる廊下を歩いて教室に向かうと、ユウが座っていた。
太陽でまっ赤に光る髪の毛に俺は心底安心する。
ジュンは通信が出来るから、ユウは元気だよ、とは聞かれていたけど、あの倒れたビジュアルがキツすぎて……。
手にはジュンと同じく包帯をして、友達と談笑している。
「ユウ」
俺が声をかけると、ユウが満面の笑みで振向いた。
「アラタ!」
そして俺に飛びついてくる。
「いたたた……」
実は軽いむち打ちになっていて、首だけ少し痛い。
「あ、ごめん、久しぶりで嬉しくて」
ヒューヒュー熱いねえ、ご両人! とクラスメイトがはやし立てる。
少し恥ずかしいが、俺も一週間ぶりのユウの感覚が嬉しくてたまらない。
離れようとするユウの手を握った。
包帯が巻かれている。
「大丈夫だったか?」
「うん、検査も問題なし。アラタは?」
「驚くほど、問題なし」
「良かった。ジュンは?」
「部屋に風が抜けるようになった程度だ」
あの大惨事でビックジュンは半分に折れてしまった。
壁は大きくえぐれたが、一週間で元に戻った。
華多さんは別のお部屋を準備しますと何度も言ったが、ジュンは「鐘が転がってて面白い」と言って、移動するのを断った。
「本当に無事で良かったよー」
ユウは八重歯を見えて微笑んだ。
そしてキュッと背を伸ばして、俺たちを見た。
「あのさ、私、改めて決めたことあるんだ、聞いてくれる?」
ユウは俺とジュンの前に背筋を伸ばして立った。
「何?」
俺は鞄をかけながらユウの顔を見た。
ジュンの席は俺の隣だ。腰掛けながら、ユウを見ている。
「私、アラタを諦めたくない」
「は?」
俺はユウが何を言ってるのか、分からない。
諦める? なんで? やっと両思いになったのに?
「今回の事で、ジュンに負けた気がする」
ユウはケガした包帯に触れながら言う。
「いやいや、ケガしたから、手が離れたのは仕方ないだろう」
俺はあの時のことを思い出す。
大きな石が落ちてきて、顔を歪めたユウの顔。
何度思い出しても、キツい。
「手にケガしたのは、ジュンも同じ。でもジュンは手を離さなかった。それに……一緒に落ちるなんて……私には出来ない」
ユウは唇をキュッと噛んだ。
「いやいやいや、ユウが落ちたら心底怖いわ」
「俺は落ちたけどな」
ジュンが俺を睨んでくる。
「ジュンなら大丈夫だろ、中島財閥がメカ化してくれる」
「なんだそれ」
俺たちが言い争い始めた目の前。
ユウはトンと机に手をついた。
「私は、ジュンを公式ライバルだと認めるよ」
「いやいや、俺は認めないけど」
話が妙な方に流れていく。
「ほう、受けて立つ? 俺と戦う?」
ジュンはノリノリで立ち上がる。
ヒューヒュー、頑張れご両人! またクラスメイト達が騒いで、俺たちを取り囲み始める。
ユウはケガした右手をジュンに差し出した。
その右手を、ジュンもケガした右手で、握り返す。
二人は熱く握手を交して、お互いニコニコと微笑んでいる。
俺は完全に無視だ。
「おーーーい……」
クラス中が大きな拍手で包まれる。
「はーーーい、朝会はじめますよーーーー」
入り口から教師の橋本先生が入ってきて、ない。
「なんでお前がここにいるんだーーーー!」
教壇にたったのは、白銀の髪の毛を束ねてライダースーツからスーツに着替えた凜だった。
「そういえば教師だったね」
ユウは普通に言う。
「そうだったな」
ジュンも頷く。
「お前ら記憶操作されてるぞ? なあ? ちょっと待てよ!」
「朝会はじめまーす。あ、副担任入ってください」
ガラリとドアが開いて、そこにはジュンのお姉ちゃん中島ケントさんが居た。
「おーーーーーーーーい」
俺は座りかけた椅子から立ち上がって、右手を振り回して突っ込む。
「はじめまして。副担任の中島ケントです」
「おかしーだろ!」
ジュンを見ると、満面の笑みでケントさんを見ている。
よく見ると微笑みというより、半分泣き出しそうなほど、垂れ下がった瞳で。
「副担任になれてよかったな、ケント」
ジュンは普通に受け入れる。
「いやいや、行方不明だったから」
俺は高速で突っ込む。
「そこにいるじゃん?」
ユウがキョトンとした顔でいう。
「おかしい、おかしい、全部おかしい、お前ら宇宙人にやられてるぞ」
俺は最近じゃ一番のオーバーアクションで叫ぶ。
「おかしくてもいいよ、ケントが戻ってきた」
ジュンは目を伏せて微笑んだ。
そう言われてしまうと俺は何も言うことができない。
「ただいま、ジュン」
机の間を歩いて、ケントさんが歩いてくる。
正確にはケント姉さんなのだが、まっ赤な髪の毛は短く切られていて、体も鍛えているのか、ガッチリしていて……普通に男の人に見える。
赤い髪の毛は女の子の象徴だけど、これはこれで【ケントさん】だ。
「おかえり」
ジュンは包帯が巻かれた右手を差し出す。
ケントさんもその手に触れた。
二人は微笑んだまま、長く握手をしている。
そこから失った時間を得るように。
教室中から温かい拍手が生まれる。
「感動的だねえ……うん、泣けるねえ」
凜も拍手してる。
良かったの? ねえ、これで良かったの?
「はーい。じゃあ出席とりまーす」
凜のかけ声が教室に響く。
俺は何も受け入れられない。
でも俺以外は普通に受け入れている。
多数決が普通な世界の理論でいくと、これが普通なのか?
いやいや、受け入れられないだろ。
「星に帰れ宇宙人」
普通に教室を出て行く凜に向かって、俺は叫んだ。
「本当は華多さんになろうとおもったんだけど~。あの人すごいの、入れない。色々愛しすぎ」
「やめろ、華多さんに手を出すな!」
俺の最後の良心は華多さんだ。
「だから教師になった。どう? エロい? ムラムラくる?」
凜は開いた胸元を俺に見せた。
さすがに俺もこれには興奮しない。
だって凜は俺と同じ両性だ。
お尻からはしっぽがふわふわ揺れているのが見える。
「このキューブは何なんだ!」
俺の耳元についた真四角のキューブを見せる。
俺から産まれたキューブは、俺が学校に行こうとしたら、ピアス型になって、俺の耳に痛みも無く取り憑いた。
耳元で「ピィ」と鳴く。
「私たちの子ども、ステキじゃない。たぶん超進化形万能素粒子で出来てるんだけどなあ……」
ユウは俺のキューブに触れようと近づく。
するとキューブから大人ような手がぬっと出てきて、凜を突き飛ばした。
「手えええ?!」
俺は恐怖でひっくり返る。
耳に触れると、大人の手など、どこにも無い。
俺のしっぽからはえた手は、やっぱりキューブの仕業だったのか?
この中には誰か住んでるの?
手から簡単に逃げた凜は目をキラキラさせている。
「私たちの子ども、すごいじゃん?」
「何を言ってるんだ、お前は!」
俺はひっくり返ったまま空に叫ぶ。
その上に凜が乗っかってくる。
「もう一人子ども作ろうよ~」
「マジで死ね!」
「ちょっと凜先生、私のアラタに乗るのやめてくれます?」
廊下から顔を出したユウが言う。
そういうレベル問題なのか? これは。




