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僕と魔剣と  作者: Make Only Innocent Fantasy
第2章 村
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2-2 捜索

「事の始まりは、いまから3か月前になります……。あの日も今日と同じ満月の日でした。その日、はじめてあの魔物が現れました。」

「はじめて……? これまでに同じようなことがあったというのですか?」

「ええ……。あの部屋は本来、夫が使っていた部屋なのですが……その日も同じようにあの部屋で寝ていました。本当にいつもと変わらない日だったんです……でも、いつまで待っても夫が起きてこないので部屋の様子を見たら……」

「いなくなっていた訳だな? 俺の予想だが、血痕を残して」

「……はい、その通りです。窓も閉まっていて、玄関から出た様子もありませんでした。本当に忽然と姿を消してしまったんです」

「それで、旦那様は……?」

「まだ見つかっていません……」

「ふん、見つかるわけがあるまい。奴の腹の中だろうからな」

『ちょっ!? レーヴァティン! いくらなんでも!!』

(言い過ぎではあるまい、遅かれ早かれわかる事実だ。それに彼女も察している)

『でも……!』

(今はそんなことはどうでもいい。やつを倒す方が先だ)

「それで……その後は何も起こらなかったのですか?」

「2回目の……夫がいなくなって初めての満月の日……。今度は私の部屋に現れて……『次の満月の時までに贄を用意しろ、さもなければお前を食う』と」

「つまり今日……というわけか。大方、用意できなかったところに騎士と旅人が現れて思いついた、というところだろう」

「本当に申し訳ございません……」

彼女は深々と頭を下げる。

その肩はわずかに震えていた。

「ところで、レーヴァティンは正体を知っているみたいだが……」

「呪いだ。三流の魔術師が唱えた、な。今回のような呪いは”人を食らう”。さしずめ、彼女に復讐をしようとしているのだろう」

「復讐……? そんな、心当たりが……」

「人は些細なことで怒りを覚え、人を憎む。他人を言い訳にして、自分は悪くないという。そうしたやつらは人の道を外れた者であっても平気で行う。……心当たりがなくても、お前は何かしらの恨みを買ったということだ」

俺がそういうと、彼女はうつむく。

(ふん、今日はもう奴は出ない。これ以上は面倒だ)

『え、ちょっ……!』


――― ―――


「毎度毎度、いきなりすぎるよ……」

元に戻ると、小さく愚痴をこぼす。

「アストラルか……?」

「はい」

短く返事をすると、セレナはほっと溜息をした。

やっぱり、レーヴァティンの前だと緊張するのだろうか。

「話は聞きました。それで……どうしましょうか」

「ふむ……たしかにこの状況は好ましくない。速やかに場所を移した方がいいだろう」

「でも、それだと……」

「ああ、彼女の身に何が起きるかわからない。そう考えると、今は動くべきではないと思う」

(どうしよう……。せめて、呪いの解除方法が分かれば……)

『解呪の方法ならば単純だ』

(本当に!?)

『術者を殺すか、呪いの魔物を殺せばいい』

「なっ……!?」

『幸いなことに、しばらく満月はこない。術者の魔力はかなり衰えているだろう。』

「でも殺すなんて!!」

『どうにかしたいのだろう? ならば、呪者の命を切り捨てることをためらうべきではない』

「それ以外に方法はないの!? 本当は隠してるんじゃないの!?」

『いい加減にしろ。自分の都合のいい答えがあると思うな。呪いをかけるほど憎んでいる相手が二つ返事で解呪してくれるのか?』

「っ……!」

『解決の道は示した。あとはお前が選ぶだけだ』

「ちょっ! レーヴァティン!!」

レーヴァティンはうんざりしたような声でそういうと、僕の呼び掛けには答えてくれなかった。

「……術者を殺すしか道がないんだな?」

「正確には術者を殺すか、あの魔物を殺す……ということだそうです」

「だが、術者の見当はついていないんだぞ? それをどうやって……」

セレナは一人で考え込む。

まるで、術者を殺すことは前提であるように。

「そんなの……できないよっ……!!」

ぎゅっと、こぶしを握り締める。

”魔剣”はただ黙って握りしめられていた。


――― ―――


結局、部屋で寝るのは危険だという判断になり、僕らはリビングで寝ることになった。

ただ、僕はどうにもね付けることができず、壁にもたれかかりながら、窓の外を眺めていた。

(……)

殺す。

文字に書き起こすと二文字で終わる単純な言葉。

だが、それは単純とは程遠い。

人の命を奪う。

それがどんなことなのか容易に想像はつく。

殺人はいけないこと。

でも、解決するにはそれしか方法はない。

僕はどうすればいい?

レーヴァティンの言う通り、自分に都合のいい答えを求めているのだけなのだろうか。

僕には……わからない。

人を殺す以外の選択肢があるのなら、それに越したことはない。

だけど、レーヴァティンは言う。

それしか方法はないと。

僕に……選ぶことができるのか……!

現実から目をそらして、この人を見捨てる選択もできる。

だけど、僕はそれは選びたくない。

それならば、僕は……!

「やっぱり……できないよ……」

ぽつりと、小さくこぼす。

その声は夜空に浮かぶ月に吸い込まれて、消えていった。


――― ―――


「……! ……い! ……起きろ、アストラル!」

「うわっ!?」

突然の大声に驚いて、僕は飛び起きる。

日はすでに昇っていて、窓から光が差し込んでいた。

「長距離あるいたから疲れているのかと思って起こさないようにしていたが、さすがにもう昼だからな」

「……えっ!?」

そんなに長い時間眠っていたのか。

それじゃあ起きないと……。

そう思って、立ち上がろうと力を入れると、全身に激痛が走った。

「ぐぅぉっ!!」

「ど、どうしたんだ……?」

ひとりでに悶絶する僕を、セレナは戸惑った様子で見ている。

これはどうやら……。

「き、筋肉痛……!!」

ああ、痛い!

筋肉痛なんて久しぶりだ。

ただ、痛みに悶絶している僕を見て、セレナがぽつりと「軟弱だ……」とこぼしたのはしっかりと聞き取った。


――― ―――


「うぉ……!」

一歩進むたび、全身に激痛が走る。

長距離あるいて、ちょっと戦闘をしただけなのに……こんな状態になるなんて……。

これも学園の中で引きこもっていたつけなんだろうか……。

休み休み、なんとか歩みを進めるが……いない方がましなくらいの歩行速度だ。

「休んでいるか?」

「うぅぅぅぅ……が、頑張ります……!」

と、行ってみた者の本当はすでに限界で。

それからすぐに僕は動けなくなった。

「無理はするものじゃないぞ」

「すみません……」

「それで、何かわかったのか?」

「どうでしょう……」

僕らが村の中を歩き回っていたのには理由がある。

術者の正体を確かめる方法が一つだけあったんだ。

だけど、それは”術者がこの村にいる”という大前提のもと。

その前提が間違っていれば、術者の行方は分からずじまいだ。

『この村にいるな……。わずかだが、魔力を感じる』

(それは本当に?)

『ああ、昨日感じた魔力と似ている』

それは僕が一番望んでいない答え。

この村にいるということは……。

『今は術者を特定することだけを考えろ。それ以外の考えは邪魔だ』

「なっ……!? 邪魔って……」

『お前が思ったことはすべて俺に伝わる。集中しなければ感じ取れないほどの微弱な魔力なのだ。お前がなよなよと悩むたびにうるさいのだ』

(……ご、ごめん……)

「わかったのならば黙れ」

「……」

僕の思想の自由もあったものじゃないが、彼が術者をみつけるためには僕が黙っておくしかない。

痛む体に鞭打ちながら、村の中を歩き回る。

しばらく歩いたところで彼女をみつけた。

「あれ……」

「ああ、家の主だな。だが、あの女性はだれだ?」

彼女は仲良く女性と話していた。

「友人かご近所さんだと思いますよ。仲良さそうに話していますし……」

「いや……あれは……」

セレ場はにらみつけるような視線で女性を見る。

その顔は、僕がセレナと出会ってから初めて見る顔だった。

『少し変われ』

(え? ああ、わかったよ)


――― ―――


「女の感……というものか?」

「ああ……。女はこういうことには敏感だからな」

「なるほど。女騎士となると、さらに敏感であろうな」

「何か感じるのか?」

「ああ……微弱だが、あの女から魔力を感じる」

「ということは……」

「だが、弱すぎる……。これでは同じかどうか判断することはできないぞ」

「それではどうするんだ?」

「少しはったりをかけるぞ」

俺は”アストラルの振りをして”その女に近づく。

「こんにちは」

「もう痛みは大丈夫なんですか?」

そういえば、こいつ……軟弱だったな……。

『軟弱じゃないよ!』

と喚くうるさいやつを無視して会話を続ける。

「まだ少し痛みますが……だいぶマシに」

「治りが早いんでしょうね」

「ところで、こちらの方は?」

「私の幼馴染なんですよ」

「へぇ……そうなんですか……」

幼馴染……か。

「そういえば、昨日の件ですが……この村から魔力は感じませんし、やっぱり昨日の時点で僕が倒してしまったんでしょう。今日も出てこなかったらそういうことです。でも、そうだとしたら弱かったなぁ……」

明らかに煽るようにそういうと、「念のため、まだ調査しておきますね」といってその場を去った。

「何を話したんだ?」

「まぁ今夜を待て。俺はそろそろ戻る」


――― ―――


「ぐぅぉ……!」

戻った瞬間に走る痛み。

感覚がない奴って……ずるい。

恨みを込めて、すこし柄を握る力を強める。

ただ、それでどうなるという問題でもなく、僕は痛みをこらえながら村の中を歩き回った。

だけど、レーヴァティンは一体どういうつもりなのだろう。

騎士を助けに行ったと思えば、利用するためと言い切ったことがあるくらいだ。

今回も何かしらの理由があると思う。

そもそも魔剣が人助けをするのだろうか。

……全く想像できない。

昨日のことだって、僕がレーヴァティンを扱える主だから助けたんだと思う。

その意図を知るには、今夜を待つほかなかった。

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