12-5 答えを求めて
話はすこし遡り、三年前。
「ようやく、帰ってきたんだ」
もう二度と、見られなかった景色。
カインと二人で、みたかった景色。
レーヴァティンが隣にいたはずの、景色。
だけど、いまここにいるのは僕一人だ。
自分の足で、自分の体で、ここまで歩いて来れた。
もう、隣にレーヴァティンはいない。
セレナも、アリシアも、レオンもいない。
僕一人。
「いこう」
僕は、学園の門を開ける。
ゆっくりと中庭を通ると、そこには……。
「お帰り、アストラル!!」
「お帰りなさい!」
「お疲れ様!!」
「アストラル、よく帰ってきたぞ!!」
学園の知り合いたちが、僕の帰りを待っていてくれた。
「みんな……!」
ただ、それだけではなく、学園中が、僕の帰りを迎えてくれている。
「僕は……! 僕は……ちゃんと、帰ってこれたんだ……!!」
ふと、実感すると、涙があふれてくる。
「うぅ……! うっ……!!」
本当は、カインと一緒に帰ってきたかった。
僕の空っぽの鞘の中に、レーヴァティンがいてほしかった。
僕は、連れて帰ってくるべきだった彼らを、連れてくることはできなかった。
それでも、彼らは僕の帰りを待っていてくれた。
一連の騒動は知っているはずなのに。
この騒動を引き起こしたのが、僕とカインだと知っているはずなのに。
「僕は……!」
僕は、この場所に帰ってくることができた。
きっと、彼らも同じように帰ってきてくれてるだろう。
何故だかわからないけど、そう思えた。
――― ―――
「あの事件から、三年が経過しました。この学園の生徒が巻き込まれ、その命を散らしたことを、私は忘れません。そして、その事件を、この学園の生徒が食い止めたことも、私は忘れません」
卒業式。
学園長のあいさつで、その話題が出た。
あの時、一年生だった僕は、この学園を卒業しようとしている。
時間が経つのは早いもので、この間にも、いろいろなことがあった。
まず、レオンが自警団を設立したこと。
これは本当に驚いた。
もともと、人のために盗賊をやっていたくらいだ。
人のために働くということが、レオンにとっていいことになると思う。
さらに驚いたのは、アリシアがこの学園に赴任してきたことだ。
あれから、すでに研究が完成に向かっていた高級魔法の基礎理論を構築し、アリシアは名実ともに魔法の権威となった。
それだけでも驚きなんだけど、アリシアは教育者になることを宣言して、この学校に赴任した。
学園内で迷子になっているアリシアをみつけたときは、本当に驚いたというか……幻影を見ている気分だった。
セレナとは、ときどき連絡を取っている。
手紙でのやり取りだけど、彼女も大変なようだ。
でも、文字から彼女が生き生きしている様子が感じ取れた。
復興支援は大変だけど、彼女ならやり遂げる気がする。
あの時の仲間は、みんな……自分たちの道を歩き始めた。
僕は……どの道を行くのだろう。
でも……やっぱりこの道だと思う。
「以上で、挨拶とさせていただきます」
大きな拍手が会場内に響き渡る。
あの後、僕の退学は取り消しになり、休学扱いになっているのかと思えば、ちゃんと授業に出席していることになっていた。
どうやら、学園長が気を聞かせてくれたらしい。
静かに、心の中で感謝を言っておく。
式典が終わると、海上を後にする。
寮の荷物はすべて、片づけてある。
あそこに行っても、何もない部屋があるだけだ。
僕はその恰好のまま、学園の門へと歩き出す。
みんなは、友との別れを惜しんでいた。
誰もいないはずの校門に、一人、たたずむ彼女の姿をみつけた。
「セレナ……!」
「アストラル、卒業おめでとう」
「ありがとう。でも、どうしてここに?」
「部下が気を使ってくれてな。任務地も近かったから来たんだ。せっかくの門出だからな」
「そうなんだ……」
久しぶりに見た、彼女の姿。
それだけで、懐かしい気分になる。
「会いたかったよ、セレナ」
「ああ、私もだ」
「でも……」
「聞いたよ。文官に志望しなかったんだってな」
「うん。僕は……まだ答えをみつけられていないから」
「そうか、なんとなく……そんな気はしていたよ」
「ごめん、セレナ。僕は、レーヴァティンが守った、カインが命を懸けた、この世界を見てみたいんだ。その中で、僕自身の答えを見つけ出したいんだ」
「この世界は広い。きっと、君の答えが見つかるさ」
「そうだといいな」
「他の仲間にも聞いてみたらどうだ?」
「え?」
セレナが指さす方向には、きちっとした姿をしたレオンと大きな荷物を持ったアリシアがいた。
「レオン! アリシア!」
「久しぶりだなァ」
「アストラルさん、卒業おめでとうございますぅ」
「二人とも、来てくれたんだ」
「まぁなァ。こっちもひと段落したしよ」
「自警団、頑張ってるみたいだね」
「俺よりも、ほかの奴が頑張ってんだァ」
「そっか、金獅子の……」
レオンが首領を務めていた義賊・金獅子。
それが、形を変えて自警団という形になった。
自分のしてきたことに、誇りを持てる、いい仕事だと思う。
「アストラルさん、これを」
アリシアが大きな荷物を渡してきた。
「開けてみてください」
布に包まれたそれは、布がめくられるたびに、その姿を現していく。
「これは……!」
その姿を見間違うはずがない。
ずっと、僕を守ってくれていたその剣を。
「レーヴァ……ティン……!」
「この学園に残っていた、魔剣の資料を基に製作したレプリカですぅ。鍛冶屋さんが頑張って、本物並みの切れ味を再現したそうですよ。旅立つあなたに、使ってほしいと学園長が」
「学園長が……?」
「きっと、責任を感じてるんだと思いますぅ。ダーインスレイブ討伐を命じたのは、学園長ですから」
「そうか……それで……」
剣をぎゅっと抱きしめる。
レーヴァティンにあった、温かさはないけど、それでも僕にとっては大きな支えだった。
「きっと、あなた自身が求める答えがきっと見つかりますぅ」
「それまで、胸を張ってやってこい。お前がやってきたことは、自信を持っていいからなァ」
「アストラル、私は……私たちは君の旅が終わるのを待っているよ」
「みんな……!」
泣かないと、そう決めていたはずなのに。
この目から、涙がこぼれてくる。
(ありがとう……みんな。こんな僕を、信じてくれて)
抱きしめている剣を、腰に差す。
「みんな、行ってきます」
「「「いってらっしゃい」」」
みんなに見送られ、僕は歩き出す。
僕と魔剣の冒険は、きっとシュバルツの記憶と同じように消えていくかもしれない。
誰も本当のことは知らない。
僕と魔剣が出会い、僕と魔剣が訪れた村を、僕と魔剣が出会った人たちを、僕と魔剣が奪った生命を、僕と魔剣の別れを。
その全部が、僕と魔剣との冒険記。
誰にも知られることのない、冒険記。
でも、それでもいいような気がする。
この世界は、残酷だけど……この世界に生きる命は、美しい。
わざわざ、僕らの記憶を無理やり残さなくても、この世界は大丈夫だ。
だからこそ、僕は自分自身の答えを探そうと思う。
立ち止まり、鞘から剣を抜く。
「また……僕を守ってくれるよね?」
『ふん、いい加減に独り立ちをしろ』
なぜだか、そんな声が聞こえたような気がした。
(そうだね。僕一人で見つけよう)
剣を鞘に戻すと、再び歩きだす。
まだ見えない、答えを求めて。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
結構、ファンタジーなんて書いた経験がなく、そのあたりは苦労しました。
あまりカタカナを出さないように注意したり、ファンタジーの世界を壊さないようにと、細心の注意を払った覚えがあります。
この物語は、アストラルの一人語りの部分を多く、大半がアストラルの悩みであったり、苦悶であったりと、何かと考えている描写が多かったような気がします。
親友を殺すしか方法がない、でもそれ以外の方法はきっとあるはずだと、アストラルは奮闘します。
魔剣であるレーヴァティンは、時に冷たく、時に冷酷なことをいいますが、それでもアストラルの身を案じて、助言をします。
そんな二人の物語は、どうでしたか?
自分自身の答えが見えそうですか?
魔剣が封印されている、その魔剣がしゃべると、なんだかよくある物語に、自分色を出そうと努力しました。
できていたら、うれしいです。
さて、物語に関して一つ。
この物語、実は考案時のタイトルは「僕と魔剣と冒険記」でした。
それを、冒険記だけなくして、「僕と魔剣と」になりました。
こうしたのには理由があって、「僕と魔剣と」の後ろに各章のタイトル(第1章だったら「出会い」)をつなげられるようにしたかったんです。
「僕と魔剣と出会い」「僕と魔剣と生命」「僕と魔剣と別れ」といった風ですね。
最後は、やっぱり考案時のタイトルを使いたいなと思って、冒険記にしました。
あとは、キャラクターですかね。
キャラクターは声を意識して書きました。
僕の頭の中に、「アリシアは、この声優さんだな」というのがあって、アストラル以外、全員勝手に配役していました。
皆さんも、もう一度読み返す機会があれば、好きな声優さんを配役してみてください。
貴方の想像した声が、登場人物の声です。
……と、まあ偉そうに書いてしましたが、この物語は書いていて、本当に思い入れが強い作品になりました。
改めて読み返してみると、「EXITIS~その中にあるもの~」や「For Alive」の流れを汲んでいるなぁとも感じましたね。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
また、お会いできることを楽しみにしています。
Make Only Innocent Fantasyでした!




