12-3 魔法の可能性
「うぅ~~~先生の話を聞いてくださいですぅ!!」
子供が騒ぐ教室で、子供と同じくらいの背丈の教師が、教鞭をとっていた。
それは、魔法の権威とも呼ばれるくらいその名を知らしめたアリシアだった。
「うぅ……先生、怒りますよ!」
「……!?」
ぴしっと、教室中にひやっとした感覚が走る。
それは、アリシアが魔法を使ったわけではない。
子供たちが、その言葉を聞いて凍り付いたのだ。
(うぅ……やっぱり、トラウマになってしまってますぅ……)
それは、アリシアが王立学園・初等部に赴任した日のことだった。
* * * * * *
「きょ、今日からこのクラスの担任になります、アリシアですぅ! よ、よろしくお願いします!!」
アリシアが頭を下げると、教室中で笑いが起きた。
「あれが先生? 俺と同じくらいじゃね?」
「本当……小さい……」
「チビだ! チビ!!」
子供は無邪気に、思い思いの言葉を述べる。
アリシアは、何がそんなに面白いのか、わからずに戸惑っていた。
「えっと……それでは、点呼をとります。アイシャさん」
それから、一人ずつ名前を呼びあげる。
事件は、その時に起きた。
「おりゃ!」
アリシアに向かって、生徒の一人が初級魔法を放った。
「……!?」
アリシアは、最初驚いたが、すぐに守護魔法を発動して、それを防ぐ。
「おお~~~」
生徒の口から感嘆の声が漏れたが、アリシアの目は据わっていた。
「今、魔法を放ったのは……ディオス君ですね?」
「へへん、どんなもんだ!」
「どんなもん? あの程度の初級魔法のことですか?」
さすがに、アリシアの口調が変わったことに気がついたのか、ディオス君は少したじろぐ。
「そ、そうだよ。先生だって、魔法使ったじゃん」
「そうですね。あのまま魔法を避けていれば、ほかに被害が出ましたから」
ディオス君は、アリシアの目を見てしまう。
その、冷たい、冷酷な、教師の顔をしたアリシアの目を。
「っ……」
半泣きになりながらも、ディオス君はこらえる。
そこでみんな察した。
(ああ、この先生……本気で怒ってるんだな)
中には、ディオス君に憐れむ視線を贈る生徒もいた。
その視線に、ディオス君は気づかない。
「ディオス君、魔法がどんなものか、教えてあげますよ。みんなも、校庭に出てください」
アリシアの指示に従い、みな校庭へと向かう。
そして、アリシアは二列に生徒を並ばせると、その前に立った。
「いいですか? 魔法とは、便利な物であり、同時に、危険な物であります。例えば……」
アリシアが、指をさす。
詠唱も何もしていないのに、その場所が突然爆発した。
「これが人に当たっていたら、どうなりますか? ディオス君」
「……」
「答えられませんか? なら、別の魔法を見せてあげますよ」
アリシアが、指を空にあげると、吹雪が吹き荒れる。
「これは高級魔法の一つです。このまま魔法が続けば、人の体温は低下し、そのまま死に至ります」
アリシアは、指を下ろす。
するとすぐに、魔法はやんだ。
「いいですか? 魔法を人に向けるということは、こういうことです。あなたがやったことの意味がわかりましたか?」
「……」
「わかりましたか? と聞いているんです。返事をしなさい」
「は、……はい……」
もう、涙を流しながら返事をするディオス君。
その少年の頭を、アリシアは優しくなでた。
「でも……魔法には無限の可能性がありますぅ。ちゃんとした使い方をして、人のためになることをしてくださいね」
にこっと微笑むアリシア。
しかし、その顔を見ても、生徒は笑みを全く浮かべなかった。
* * * * * *
(やっぱり……実力行使は失敗でした……)
あの時、かっとなってしまったとはいえ、ああするべきではなかったと、彼女は反省する。
「それでは、席についてくださいね。授業を始めますぅ」
おとなしく席に着いた生徒に、申し訳なさそうな顔を浮かべながら、アリシアは魔法の授業を開始する。
その顔には、確かな笑みが浮かんでいた。




