5-4 見ているもの
「終わったぞ」
「おお、さすがですねぇ」
どさっと書斎の床に倒れる金獅子。
後ろからよたよたと女騎士も歩いてきた。
「……なっ!?」
女騎士がそんな声を上げるのも無理はない。
なぜならば、あの魔女がディゴールに捕まっているからだ。
「こちらの用件は果たした。それで……お前は何をしている?」
「いやぁ~あなたは、この町の現状を知ってしまいましたからねぇ~。なに、ただの人質……ですよぉ~」
「ふん、そんなものはどうだっていい。……もう一度、問おう。”お前は何をしている?”」
――― ―――
「だから……」
「貴様ではない! 黙っていろ!!」
レーヴァティンの一喝に、ヒッという声を立てるディゴール。
身体は図太いが、肝はそうでもないらしい。
「貴様はそこで、何を見ている?」
静かに、語り掛けるようにレーヴァティンは話す。
「お前はそんなところで何をしている?」
その人物は、まっすぐこちらを見つめるその人物を見た。
そこには、半透明な長い髪の人物がアストラルの横に浮いていた。
その姿こそが、その人物が見ているものだった。
「答えろ」
短く、厳しい声。
その声が向けられた人物……アリシアは震えながらも、レーヴァティンを見た。
「ぁ……!」
声をなんとか絞り出そうとしているアリシア。
レーヴァティンは、ただ静かに待っていた。
「た……す、け……!」
あと一息。
アリシアは、息を大きく吸い込んだ。
「助けてくださいっ!!」
――― ―――
「よく言ったぜェ!!」
「なっ!?」
ディゴールの顔が驚きで一杯になる。
それもそうだろう。
死んでいたと思われていた人物が生きていたとなれば。
「くっ! 動く……!」
「この俺がやらせると思っているのか?」
俺は魔法を使って、ディゴールの手を焼く。
その隙に金獅子はアリシアをディゴールの手から取り戻していた。
「これで、形勢逆転だな」
「っ……!」
「さあ、これでお前も終わりだ」
「終わり……? 私が一体、何をしたというのだ? 私が決めた税率に、領民が従っただけだろう! 何も悪いことはしていない!!」
「確かに、民は異を唱えきれていなかった。だが、それはお前が握りつぶしたからだろう」
「何を根拠に……!」
「この金獅子の襲来、実は依頼されたものらしいな。それもこの町の住民から。証拠があれば、お前のこの件も立件されるだろう。」
「なっ!?」
「お前は自分の顕示欲を満たすためだけに、理不尽な税を定めた。民のことを考えない領主など……!」
「ま、待て! 私は自分の権力を使っただけだ! それの何がいけない!!」
「自分の持つ、権力か。それは正しいんだな?」
女騎士が会話に入ってくる。
何をしようとしているのか、大体の見当はつく。
「ああ! お前もそう思うだろ!?」
「ああ……。ならば使わせてもらおう」
セレナはディゴールの前まで歩くと、手を差し伸べた。
ディゴールはすこし安心したような顔をすると、その手を取った。
だが、次の瞬間、ディゴールはセレナに押さえつけられていた。
(柔術か。そんなことも訓練するのだな)
「騎士団憲章・第8章 騎士警察権を行使させてもらうぞ、ディゴール!」
「くっ! 騎士警察権……!?」
「『騎士団長又は小隊長の承認があれば、書状が存在せずとも、犯罪の疑いがある者を逮捕することができる。』……ちゃんと明記されている騎士団の権利だ」
「だが、小隊長の承認は……!」
「私の小隊は私しか存在しないのでな。小隊長は私ということになる」
「なっ……!」
「権利の行使は悪くないといったな。ならば、これも悪くないのだろう」
「ぐぅぅぅ……!」
「これで本当に終わりだな、ディゴール。強欲の豚よ」
「私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
屋敷に、ディゴールの叫び声が響く。
だが、その声はひどく耳障りだった。
――― ―――
「ふぅ……」
少し小高い丘で、ディゴールの屋敷を見る一つの影。
その姿は、アストラルに声をかけた少女だった。
「なんとか一件落着下みたいですねぇ~」
セレナがディゴールを押さえつけている姿を確認すると、その少女は大きく伸びをした。
「さすがに……変化は疲れますね……」
バキバキと関節が鳴る音が響く。
その直後、姿はあの陽気な男の姿になっていた。
「さて、私は他の街へと向かいますか」
そして、男は姿を消す。
ただ、風だけが静かに吹いていた。
――― ―――
数日後、王都から騎士小隊が到着し、ディゴールの身柄は引き渡された。
この町は領主制の街から、王政直下の街に変わるらしい。
要は領主制ではなくなるため、王国の法律や税金が適用されるとのことだ。
これで、この町に強いられていた理不尽な税金はなくなるだろう。
「これでオレ様もおしまい、か」
金獅子は静かに空を眺める。
「いや、おしまいじゃないよ」
「あァ?」
意外という顔をしている金獅子。
それでも、僕は言葉をつづけた。
「頼みがあるんだ」
「ほう、改まって一体どうしたっていうんだよ」
「僕らと一緒に旅をしてくれないかな?」
「はァ!? 何言ってんだァ!?」
「だめ、かな? そうじゃないと僕は、君を騎士団に引き渡さないといけないんだけど……」
「くっ、この……!」
「他の二人にはすでに許可はもらってる。君の力が必要なんだ」
「その強い魔剣があれば、オレ様なんていらないと思うんだがァ?」
「確かに、そうだと思う」
「否定しねえのかよ……」
「だけど……いつまでも、レーヴァティンに頼るわけにもいかないからさ。それに、放っておくと君はまた同じことをしていそうだから」
「……はいはい、わかったよ。どのみち捕まるんだ。すこしは自由の利く方がいいからなァ」
「ありがとう、金獅子! 僕はアストラル、これからよろしく」
「オレのことは、レオンと呼んでくれ」
「わかった」
こうして、僕らの旅に新しい仲間が入った。
きっと、これからの旅はもっと大変になると思う。
だけど、ここで立ち止まるわけには行かない。
カイン……きっと、君の元まで行って見せる!




