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僕と魔剣と  作者: Make Only Innocent Fantasy
第1章 出会い
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1-1 魔剣

Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

今回は1章ごとに更新していきたいと思っています。

なので、更新が前と比べて月単位になってしまうかもしれませんが、気長に待ってくれるとうれしいです。

それでは、どうぞ!

チャイムの音が鳴り響き、僕はゆっくりと立ち上がる。

がやがやと騒ぐ廊下を潜り抜けると、僕は図書室へと向かった。

放課後の喧騒は嫌いだ。

うるさいし、気が散って集中できない。

だけど、この図書室はいつも静かだった。

ある人物が現れる前までは。

「アストラル~~~~~!!」

バンと勢いよく開かれる扉。

僕の親友でもあり、悪友でもあるカインが、この静寂をぶち壊しながら入ってきた。

「……なに?」

「ちょっと、ついてきてくれよ」

「いいけど……」

ここで強く言い返せない僕が嫌になる。

カインは悪い奴ではないし、性格が絶望的にひどいというわけでもない。

他人からの評価は明るくフレンドリーといったところだろう。

だが、少しだけ自分本位なところがあり、こうして何かを思いついては僕を誘って来る。

「よし、それじゃあ行くぞ!」

「うわっ!?」

僕の腕を無理やりつかんで引っ張っていくカイン。

バランスを崩しながらも、頑張ってそれについていく。

カインが僕を連れてきた場所は立ち入り禁止区域の真ん前だった。

「ねぇ、カイン。僕をこんなところに連れてきて、何をするつもりなの?」

「ん? 今から中に入るんだけど?」

「えっ!?」

自分の耳を疑った。

いま、カインは立ち入り禁止区域に入ると言ったのだろうか。

「僕の聞き間違いだったら素直に教えて。今カインは、学園の中にある、入ったら退学処分の立ち入り禁止区域に入るって言ったわけじゃないよね?」

「そうだけど?」

「……」

開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。

「それじゃあ、いくぞ」

「ちょっ……待ってよ、カイン!」

「なんだよ、なんか文句あるのか?」

「文句っていうか……入ったら退学なんだよ? 入るのはやめようよ」

「中、気になるだろ?」

「気になるけど……」

「じゃあいいじゃん。ばれなきゃ退学にならないって」

「ばれたら僕ら退学なんだよ!?」

「いいじゃん、いいじゃん。俺とお前の仲なんだしさ」

「意味が分かんないよ!」

「ほら、ぐじぐじいってないで行くぞ」

「いやだああああああああああああああああああ!!」

ずるずると引きずられるように、僕は立ち入り禁止区域の中へ連れていかれた。


 * * * * *


「ねぇ、どうしてもいくの?」

「なにいってんだよ。ここまで来たら行くっきゃないだろ?」

「うぅ……」

(父さん、母さん、ごめんなさい。僕は明日辺りに退学のようです。)

そんなことを考えているのがわかったのか、カインは僕の背中を思い切り叩くと、満面の笑みを浮かべた。

それでも僕の顔はひどいものだったのか、カインは声を出して笑う。

ひとしきりわらったあと、カインはゆっくりと歩いていく。

それにおいていかれないように、僕はただただカインの背中を追うことしかできなかった。

引き返した方がいい。

僕の頭のなかはそれでいっぱいだった。

それをわかっているのか、カインはどんどん機嫌がよくなっているようだった。

もしかすると、わかっていないのかもしれない。

もともとカインはこういう探検的なものが好きだ。

それでいて、好奇心を押さえることができず、いつも入ってはいけないところに入り込み、大人に怒られるのなんて日常茶飯事だ。

一人でいけばいいのに僕を無理矢理連れていくから一緒に大人に怒られることも少なくない。

そんなやつでもこうして関わりをも膣付けている関わりを持ち続けているのだから、自分でも不思議だ。

人の迷惑を考えず、ひたすら自分の道を突き進むカインに僕はどこか、憧れていたのかもしれない。

そんなことを考えていると、いかにも開けてはいけないと書かれていそうな、堅牢な扉が現れた。

「この奥に何かありそうだな」

「ちょ、ちょっと待ってよ! さすがに鍵がかかっているドアを開けたらまずいよ!!」

「なぁに言ってんだよ。ここまで来ちゃ、開けようが開けまいが変わらないだろ」

「変わるってええええええええ!!」

「……叫ぶなよ」

「とにかく! 引き返そうよ!!」

「無理だって」

「なんでさ!」

「だってもうあけちゃった」

そういうカインの手には二本の針金のようなもの、そして、大きな錠前は鎖から離れ、地面に落ちていた。

「はあああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「っるさいな! もう少し静かにしろよ!」

「静かにできないよ! なんでもうあけているのさ!!」

「見た目のわりに単純だったんだ」

「開け方の話を聞いてるんじゃない! なんでいつもいつも……!!」

「まぁまぁ、ほら、進むぞ」

カインは力を込めて扉を開ける。

その様子を見ていると、その扉がいかに重いのかが容易に想像できた。

それでもカインの顔は笑顔だ。

重い扉を開ける苦労よりも、この先に何があるのかという好奇心の方が強いのだろう。

扉を開け切ると、僕を呼ぶ。

そこで拒否すればよかったのだが、半ば無理やり部屋の中へと引きずり込まれた。

大きな音を響かせ、扉が閉まる。

後戻りはできないだろう。

僕はすぐに察した。

この部屋は今まで行ったどんな場所よりも危険だということを。

「戻ろう、カイン。ここは本当に危ないよ」

「もう少し……もう少し進むだけだ」

僕の真剣な顔を見て、カインは何かを察したのか、これまでと違って慎重に進んでいく。

僕としては引き返してほしかったのだが、この状態のカインに言っても無駄だということがわかっているので、何も言わない。

僕にできることはカインが危険な目に合わないように注意することだ。

どうせ怒られることが決まっているのなら、と割り切れた。

その部屋は何かの儀式を行うようなそんな雰囲気を持っていた。

魔法陣のようなものの中に、鎖で結ばれた2対の剣。

ざわざわと心の中で警鐘が鳴る。

(これに触るなっ!!)

「えっ……?」

僕でも、カインでもない男の声。

頭の中に直接語り掛けてくるような声は僕にしか聞こえていないようだった。

「剣……か」

「カイン! 剣に触っちゃだめだ!!」

「は?」

「……っ!?」

その警告は一足遅かったようだ。

カインの手には鎖が解かれた剣が、しっかりと握られていた。

「みたところただの剣のようだけど……」

僕の杞憂だったのか。

それとも何かの勘違いだったのか。

カインはいつもの調子で、笑っていた。

「ほら、こっちに来い」

カインは手招きをする。

どこか違和感を覚えたが、僕はカインのそばまで歩いていく。

そして、僕が隣にくるとカインの笑みがゆがんだ。

「っ!?」

カインが僕に対して刀を振り下ろす。

いくらカインが無理をするような人間であってもそんなことは絶対にしなかった。

剣は大きく横にずれ、もう一方の剣の鎖を切り裂く。

まるで紙を切るように、鎖はたやすく切り裂かれた。

「なっ!?」

『久しぶりの肉体で、加減を見誤ったか』

「カインじゃ、ない……?」

『ほう、ただの人間が一瞬で見抜くとはな』

「だ、誰だ!!」

『死に行く主に説明する義理はないわ!!』

死ぬ――――!

そう悟った時、また声が響いた。

(俺を取れ!)

「えっ!?」

(死にたくないのなら、俺を掴め!)

その声は突き刺さっている剣から聞こえている。

(迷っている場合じではない!!)

「っ!」

僕はその剣をつかんだ。


 ―――― ――――


「ふぅ……」

無様にしりもちをついた姿をしているが、俺の知ったことじゃない。

右手には自分の姿が見えた。

「久しぶりだな、現世は」

「お前も復活したのか」

「復活だと? 貴様と一緒にするな」

「ふん、お前とは反りが合わなかったが、どうだ? 一緒に再び世界を征服するのは」

「お前と一緒なんて御免だ」

「ならば、前回の続きをするとしよう!」

俺は剣を構える。

いやに重いように感じたが、宿主の関係だろう。

少し無理をすればどうということないように思える。

「ふん、一瞬で蹴散らしてくれるわ!!」

互いに剣を振り下ろす。

部屋全体に魔力の衝撃波が襲い、壁や扉に亀裂を作る。

「調子が出ていないのではないのか!」

「貴様もだろう!」

ガィンという金属同士の音が響く。

激しいつばぜり合いをした後だというのにどちらの剣にも傷一つない。

当然だ。

この程度で俺が壊れるわけがないからだ。

「フレアっ!!」

剣をやつに向かって振り下ろす。

すると剣から炎の球が放たれた。

「魔法を使える程度には、なじんでいるようだな」

「貴様とは違うのだ!」

その攻撃を軽く薙ぎ払いながら、奴は余裕の表情を見せる。

宿主に憑依している時間はやつの方が長い。

適合しているのなら、こちらが不利になるのは時間の問題だった。

(くっ、選択肢はひとつしかないか……)

俺は派手に魔法を連発していく。

奴はそれを軽く薙ぎ払う。

効果がないのは明白だった。

それでも俺は魔法を放つ。

宿主の魔力を借りなくても、これくらいはどうということはなかった。

だが、さすがに長期戦ともなれば明らかに不利に働く。

さっさと来いと、苛立ちを隠せずにいた。

『このあたりは誰も近づかないんだ。人を呼ぶならもっと派手に……』

「なっ!? 人間、意識があるのか!?」

意外だった。

憑依している間に宿主の意識があるのは初めてかもしれない。

『炎の柱を立てるとか、火事を起こすとか、そういう派手なことをしないとここには人はこないよ』

「なら……魔力を借りるぞ、人間!!」

奴は無駄なことをと思っているかもしれないが、こうなった以上、仕方がない。

宿主の魔力を借りながら、魔法を唱える。

「はあああああっ!」

地面に深々と剣を突き刺す。

「っ!」

奴は危険を察して横に飛ぶ。

直後、奴がいた場所に大きな、天井をも貫く大きな炎の柱が吹きあがった。

「ぜぇ……ぜぇ……」

(くそっ、たかが中級魔法を使っただけだぞ……!)

宿主の体の脆弱さに苛立つ。

魔力はそれなり、いやかなりの量があるようだが、それを体が使いきれていない。

宝の持ち腐れというやつだろう。

狼煙は上げた。

あとは人が来るまで持ちこたえるだけだ。

「一思いに殺してやろう、レーヴァティン!」

「貴様の思い通りになると思うな、ダーインスレイブ!!」

互いに斬りあう。

それは人間では到底、追いつくことのできない剣戟。

その時点で宿主の体が、人間離れしていることが目に見える。

そんな剣劇を幾度となく繰り返していると、奴の攻撃が宿主の左腕を切り裂く。

「がぁっ!!」

憑依しているこの状態では痛覚がある。

当然、宿主のダメージを俺はもろ伝えられ、痛みにうなった。

あふれる血を押さえるために、右手で傷口を押さえる。

それをあざ笑うかのようにやつはゆっくりと近づいてきた。

「無様だな、これが我と同じ魔剣とは……」

「貴様と……一緒にするな!!」

剣を横に振る。

それをやつは軽々と避けた。

「楽に殺してやる。せめてもの手向けだ」

「くそっ……!」

ここまでかっ!

そう思ったとき、扉の向こうに足音が聞こえた。

一つではなく、大勢来ていることがすぐに分かった。

「ふん、先ほどの攻撃でばれたか」

奴はそれを察すると、天井にあいた穴に向かって跳ぶ。

普通の人間では明らかに届かない高さでも、奴ならば届くだろう。

「今日は見逃してやる。だが、次に会った時はこうはいかぬぞ」

そう言い残すと、奴はどこかへと立ち去る。

「ぎりぎりというところだな……」

戦闘が終わったことを確認すると、俺は宿主に体を返した。


 ―――― ――――


「ここは……?」

どこか異世界に浮かんでいるようなそんな感覚がする。

前に進もうにも、足が地面につかない。

もしかすると、地面なんてないのかもしれない。

そう思えるには十分な景色が広がっていた。

『貧弱だな、もっと体を鍛えろ』

「君は……!」

『俺はレーヴァティン。お前が使った魔剣だ』

目の前に現れた男は、長い黒髪にロングコートを着ていて、腰にはあの剣が携えられていた。

『今回はやつが退いてくれたからいいものを、あのままやりあっていたら負けていたのはこっちだった』

「そんなことよりも、カインは! カインはどうなったの!?」

『やつの宿主か……。やつはもうカインという男じゃない。魔剣ダーインスレイブだ』

「魔剣……だって……?」

『この俺が、わざわざ警告したというのに、まさか触るなんてな』

「僕だって止めようとしたよ!」

『ふん、そんなことはどうでもいい。やつはこれから世界を再び魔王の手中に収めようと動くだろう。それを止められるのは俺だけだ。だが、俺はこうして剣に封印されている。ここから出ることはできない。だから、お前が俺を使って魔王を倒すしかない』

「魔王なんてどうやって倒すの!? 無理だよ、そのなの!」

『無理じゃない。魔剣は剣だ。宿主を殺せば、魔剣は動くことすらままならない』

「宿主を殺す……!? カインを僕の手で殺せっていうの!!」

『それしか方法はない』

「無理だよ! 僕にはできないよ!!」

『なら……』

男は僕に近づいてくる。

どうやらこの世界は彼が造り出した世界らしい。

それを理解したところで現状は変わりようがなかった。

『貴様の体をもらうぞ!』

男はニヤッと笑うと、僕の頭に手を触れた。

「っ! うわああああああああああ!!」

頭ががんがんとなる。

酷い頭痛がしているようだ。

『抵抗するな。苦しむだけだぞ』

「あああああああああああ!!」

体の節々が悲鳴を上げる。

僕の精神が粉々に砕けそうだった。

(もう……だめだ……!)

そう思ったとき、ペンダントが光り輝いた。

『これはあの時のっ!?』

それは母からお守りとしてもらったペンダントだった。

『なぜこんな強力な守備魔法が!?』

「母さん……!」

『くそっ! 俺の力が押し戻されるっ!!』

「あああああああああああ!!」

「」

パンと乾いた音が響くと、男の姿は消え、体の痛みは消えていった。

だが、とてつもない疲労感と共に襲ってきた睡魔に抗えず、僕の意識は途絶えた。


 ―――― ――――


「ぅ……!」

目を開けると白い天井が目に入った。

僕は病院のベットで寝ているらしい。

「っぁ!!」

体を動かすと、全身に激しい痛みが走った。

どうやらあの出来事は夢ではなかったようだ。

「目を覚ましたようだね」

「ここは……?」

「保健室だよ。腕の治療はすでに済ませたからね」

ぼんやりとしていたが、確かにその顔は保険医だった。

腕は包帯が巻かれ、壁には腕の部分が横一線に斬られて血がにじんでいる制服が見えた。

「今日はここに泊まることになるがいいかい?」

「えっ……?」

「ちょっと面倒なことになりそうなんだ。もちろん、君はそれを了承していたのかもしれないけど」

どうやら立ち入り禁止区域に入って、いろいろとしでかしたことを言われているらしい。

こういう時にカインはいないのだから……。

「そうだ、カイン! カインは!?」

「あの場所に倒れていたのは君だけだ」

「そんな……!」

目の前が真っ暗になる。

カインは魔剣に操られ、どこかへといってしまったのだろうか。

今まで平穏だと思っていた日常が、音を立てて崩れていった。

それは幼き頃の友と共に……。

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