魔物の巣窟(異世界組み換えでない)
働きたくないでござる!!
「おはよう、今朝も元気だね。あと、この書類の作成をお願いしたいんだけどいいかな。」
元気だろうが元気じゃなかろうが会社に行けば元気じゃなくなる。朝っぱらから元気がなくなるのはお前の持ってくるその仕事のせいだよ。全然元気じゃねえっつうの。
いくら顔では笑っていても心の中には毒があふれる。
「ありがとうね。」
俺のかぎかっこがないのに、勝手にそう言って手渡された仕事。
俺の日常が始まったのであった。
なーんてな。今の俺様は魔法使い。
そんな俺様に敵はないのだ。
渡されたデータベースに目を通す。これをまとめれば良いらしい。
早速自分のデスクに着いてパソコンを立ち上げると、しかし俺はキーボードにもマウスにも触れずに、画面を見つめた。
イメージ。外部デバイスのキーボード、マウス。それらを自らに置き換える。
データベースに記載された内容を打ち込んでいく。動かすのは目、のみ。
慣れ親しんだ引数などはひとつの文字として一気に入力。範囲指定も一瞬。
わずか数秒で書類が完成した。ついでに山積みの仕事も終わらせていく。
頭のなかでイメージしたテキストが反映されるので打ち間違えはなし。
マウスで少しずつ調整していたふきだしなんかも一瞬で思い通りの形大きさにできた。
外部デバイス:俺。最強。
積んでた仕事と押し付けられた仕事が一気に片付いた俺は、それでも尚仕事してますアピールに意味もなくエンターキーをわざとらしくターンターンと叩きながら早速魔法実験を始めるのだった。
まず、コーヒー。先ほどコンビニで購入した缶コーヒーは今日は夏日というのにあったかーいだった。あったかいんだからぁ。
こいつを冷やす。イメージは中身を凍らすイメージで。
ピキピキピキッ!
いやな音がして缶コーヒーの周りに氷が張る。失敗だ。
音で周りにバレてないか肝が冷えたがどうやら大丈夫らしい。ふぅ。
俺が冷やしたいのは肝じゃなくてコーヒーだ。
今度は中身が徐々に冷たくなっていく、いや、冷めていくイメージからだ。
集中してイメージするが、見た目に変化はない。
ダメか。諦め普通に冷やして飲もう。
「痛たっ!」
いや、普通に痛かった。手が張り付いた。
アイスを食べるときに口にアイスが張り付く感覚にそれは似ていた。
要するに冷えていた。実験は成功だ。
周りからの視線が痛い。俺はその缶コーヒーを萌え袖で持ちつつひょこひょこと休憩室へ逃げこむのだった。
かいしゃ。いや。いきたくない。