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陽はまた昇る  作者: 月見陽
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魔法の国

 緑の多いこの街の景色を見つつ、ゆっくりと歩きながら友人達と談笑する。そんな一見して当り前な登校風景が実はとても幸せなのだ、ということを俺は今、身を持って体験している。そして、寝起きの全力疾走がいかに体に悪いのかも並行して経験中である。

 流れるように過ぎゆく緑。無数の線によって構築されているように感じる世界。悲鳴を上げる胃袋と足。他にも至る所から嘆き声が聞こえてくるが、いちいち反応していられる余裕はない。家を出てからずっと吐き出されている白い息は、そろそろ集まって雲にでもなるんじゃないかと思うほど。

 もう完璧なほど寝坊した。疑いの余地のないほど寝坊した。起きた瞬間にやらかした、とわかるほどの華麗な寝坊。そして現状、走っても遅刻がほぼ確定である。しかも、今日は絶対に遅刻ができない日。お約束と言われてしまえばそれまでだが、当事者にとってはこれほど絶望を身近に感じることはそうないだろう。うっかり涙が出そうになる。本音だ。誰か助けてくれ、と大声で叫びたい。いや、叫んでいた。

 しかし、現実は非情なものなのだ。そして俺は今、逃避している余裕などないのだ。というか、そんなことは許されないのだ。だから、可能な限り走って、一刻も早く辿り着かねばならない。現実を呪う暇があるのなら、その分足を動かせ、ということだ。

 速度を落とさずに住宅集合地帯の角を曲がる。我ながら神業に近いなだなんて自賛した。人間、追い込まれればなんでもできるものである。だから、この遅刻寸前の状態も回避できるかもしれない。なんて思うと、少しやる気が出てくるから不思議だ。

 そして曲った瞬間、俺の目は救いを捉えた。


 ――あれは、転移の魔方陣。


 この日、俺は久しぶりに神に感謝した。



 俺の住むこのちっぽけな国は魔法の国だ。50年前、機械人達との戦いに勝利して、独立した小国家となった。魔法人にとっては初の独立国家として世界的にその名前は有名だったりする。ただし、どちらかというと閉鎖的な感じで、魔法ゲートが通じている国以外とは殆ど交流を持っていない上、ゲートからしかこの国には入ることが出来ない。しかも入国審査はなかなか厳しいのだそうだ。しかし、先の戦争で和平が叶った機械人はわりとよくこの地に観光に来ていたりする。この数年間で一気に親睦度が深まったらしい。

 魔法人と言うのはいわゆる魔法を使って生きる人間の総称で、機械人も同様に機械を使って生きる人間のことを言う。最近、一部の国が宇宙の国と交流を持っているらしく、近々宇宙人なんてのも誕生するかもしれない。


 俺達魔法人は基本魔法の他に、皆それぞれが自分の容量にあった魔法を覚えて使うことができる。ただし、一つの魔法しか覚えることができず、一度覚えた魔法を忘れることは殆ど出来ない。魔法力の容量は一生変わることが無いため、魔法学校初等部で基礎魔法を習得の後、中等部で適性を見極めて覚えたい魔法を選択し身につけて行く。この辺までは魔法関連や生活の授業が基本だが、高等部では一般的な学術関係の授業が主になる。とは言え、戦後以降は魔法力容量の少ない人が増加し、今では戦前のような大型魔法を使える人はごく一部となってしまい、どちらかというと一般教養が全体的に主になりつつあったりする。ただし、魔法の文化は残したいため、現在機械人とともに、魔法が使える機械などの共同開発に乗り出しているのだという。

 長老曰く、魔法のオープン化を目指すのだそうだ。

 確かに、魔力というエネルギーは生産に関しては低コストかつ安全である為、この技術は近い将来世界的に必須のものとなってくるのかもしれない。そう考えると、この流れは必然なのかな、と友人は言っていた。

 俺達の生活には魔力は欠かせないものとなっている。数百年前の人類は電気というエネルギーを使っていたが、それに等しい、というか進化形と言っても過言ではない。何をするにしてもこれは必須なのである。ただ、魔力照明灯などの家魔力製品を始め、多くの魔力使用製品は、正式名称とは別に電灯などのような昔の名残とも言える名前で呼ばれることが多い。これは昔からずっと続いてきたことらしく、なんだかんだで、俺も影響を受けている。

 ちなみに、人にもともと宿るのが魔法力で、自然界に宿りエネルギー源となっているのが魔力である。どちらも魔力と呼んでしまうことが殆どだが、今更ながら紛らわしいなと思ったりする。


 俺達の国は魔法の国。こうして考えると、なんだか夢の住人のようだが実際には魔法は大したことが無い。

 戦前のような大魔法や古代魔法はとんでもないものだが、今の俺達が使える魔法はたかが知れていたりする。家魔力製品の代用に近い魔法ばかりだ。

 ないよりはマシ、というやつだろう。

 もしも、俺がとんでもない魔法使いだったなら、とっくのとうにヒーローになっている。

 そう、俺の夢はヒーローになること。

 それは今も昔も変わらない。



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