SA 1-1
STRONG ALONE 1 ~私立徳瑛学園第一高等学校3年1組~
彼女が転校してきた翌日。元々真城君の席だったその席のみが空席となっていた。一條音葉は転校翌日に学校を休んだのである(おそらくサボりだろう)。昨日は、あれから目も合わさなかったので会話する機会すらなかった。なので、今日こそ私たちの過去に何があったのか聞いてみようと思っていたのだが、まさかの欠席だった。まぁ本人がいないのでは仕方がない。そんなに急ぐことでもないだろうし、聞いたところで「はぁ?覚えてないとかありえないし」的な言い回しで一蹴されるだろう。あぁ、面倒くさい・・・。クラス委員長としてこんなことを思うべきではないのかもしれないが、面倒くさい・・・。
そんなことを思いながら次の授業の準備をする。次の授業は、『新銃術』だ。授業を行う場所までは、少し距離があるため町営バスに乗らなければいけない。全員が体操服に着替え、バス乗り場へと移動する。乗車時間は15分ほどだが、実際徒歩で向かうと小一時間はかかる距離なのだ。
しばらくバスに揺られ、<<第3地区>>新銃術専用特別射撃場通称“トウキョウ”に到着した。みんなバスが心地よかったのか背伸びやあくびをしながら次々とバスを降りていく。爆睡をかましている2人を除いて。
瑛梨奈は、涎を垂らしながら幸せそうに寝ている。真城君は、いびきをかきながら幸せそうに寝ている。このまま寝かせておいてあげたくなるくらいの爆睡だったが、そんなことは許されない。私は二人の頬をつねり強引に起こした。真城君は2度寝をかまそうとしていたのでちょっと強めに頬を叩いた。
全員がバスから降りると、点呼を行い授業の開始を私が告げる。
それから新銃術担当の先生、杉田先生から今日の授業内容の説明が行われた。
「今日の新銃術授業は、5人1組で5チームに分かれて相手の陣地を攻め落とすチームマッチを行います。くじ引きでチームを編成した後、作戦会議をしてください。作戦会議の時間は10分間です。そのあと、各陣地に移動し試合開始となります。優勝チームには、購買部から『極!カレーパン』が贈呈されます!」
おおーーという歓声が沸きあがった。それもそのはず。購買部の人気惣菜パンランキング堂々第1位の『極!カレーパン』だ。この機を逃したら今度いつ食べられるチャンスがやってくるか知れたもんじゃない。
皆の目が殺気立っていくのが分かる・・・。これは、これまでの新銃術の中でも一際激しい試合になるだろう。そこで先生がもう一言付け足す。
「あ、最下位のチームはバスに乗せませんから~」
うおおーーーという怒号が沸きあがった。まさに天国と地獄だ。この授業はかなり広範囲を走り回るのでその後に1時間かかる道のりを徒歩で(正確には次の授業もあるので走って)校舎に戻るのは、精魂尽き果ててしまうことだろう。ドSの杉田先生・・・恐るべし。
怒号も少し収まり、私たちはチームに分かれていく。一條音葉がいない1班は4人しかいないので杉田先生が入ることになり、私は3班に入った。瑛梨奈と七瀬君は2班に、真城君は5班に入った。
私たちはすぐさま作戦会議を行う。第3班は男子2人女子3人のチーム編成だ。とりあえずリーダーから決めようかな・・・
「俺がリーダーやってやるよ」
私が提案を言い切る前に坊主頭のいかにも不良っぽい男子が割って入ってきた。
彼の名は、阿刈新丈。3年になって初めて同じクラスになったがほとんど話したことがない。そんな彼がいきなり発言するものだから私は心臓が止まるかと思った。彼は本当に高校生か?と思うほど顔が怖いのだ。
まぁ自分からリーダーをやると言ってくれたのは有難い。私としては最悪最下位だけは避けたいので作戦会議の時間を有効に使えるのは嬉しい。彼にありがとうと伝えて、今度は私の方から作戦を立案してみる。
「先陣を2人できって、中陣に1人伝達係を置く、後陣は2人で陣地を守る。伝達係は私が勤めたいんだけどいいかな?」
「ちょっと待て、リーダーは俺だろう?作戦の立案は俺仕切りでやらせろよ。俺の指示で動けば優勝だろ」
「はぁ!?」
しまった。思わず言葉に出てしまった。阿刈くんをはじめ、他の子たちも唖然としていた。私はすぐさまごめんなさい、ごめんなさい!と謝罪し改めて彼との話し合いを進める。
「今のはちょっとしたジョークです・・・。それよりも!何かいい提案があるって解釈でいいのよね?」
「んー、俺が後陣、残り4人で特攻。」
「阿刈君、馬鹿なの!?」
またしてもやってしまった・・・。阿刈君の表情はムッとなり他3名はおびえていた。もう一度謝るが今度はあまり聞いていない様子だ。しかし、彼の作戦はあまりにも無謀だった。
というのも、新銃術では、生徒全員に発信機が装着される。それは自分の位置を相手に伝えるためのものだ。普通は、相手に位置を知られないようにするものだが、敢えて相手に位置情報を教え、『いかに敵を欺き陣地に攻め入り制圧できるか』を見るためのものらしい。この判定は成績に大きく影響するのだ。
そこで重要になってくるのが私が務めようと提案した伝達係。敵チームの位置情報や他のチームの戦況を逐一伝えることに重点を置く役割だ。あろうことかこの男はそれすらも省こうとしたのだ。他のチームがどういう作戦を立ててくるかは分からないが、断言しよう。伝達係無き第3班は最下位確定だと。先ほどの自分の発言にフォローを入れつつ私は続ける。
「・・・今のも、場を和ませるためのジョークだったり・・・。そんなことよりも!4人特攻なんて作戦危険すぎるよ!最低でも伝達係は絶対必要!これだけは、譲れない!リーダーに一任するのも大切だけど、これはチーム戦。そんな独裁みたいなことさせるわけにはいかない!」
沈黙が私たちを包む。これは、まずい。全然フォロー出来ていなかったし、結局私も意見を押しつけているのではないか?チーム戦自体は初めての授業ではないので決して難しい訳じゃない。むしろ個人戦に比べれば楽な方だ。しかし今回に関しては、リーダーが無謀なことを言うものだから不安要素も大きい。作戦にも定石というものがある。それをしっかり踏めば最下位になることはないはずだ。そんなことを思っている間にも作戦タイムは刻一刻を過ぎていく。重苦しい空気の中、意外にも阿刈君が口を開いた。
「・・・。お前ら3人は、どうしたい?」
私は、正直に驚いた。見た目ヤンキーで先ほど『4人特攻で優勝だろ』と言い、まるで仲間の事を考えていないと思っていたその彼が、私以外の3人(男子が橋本君、女子が中川さん、畑野さん)に声をかけたのだ。3人も彼の問いかけに驚いていたが、すぐにそれぞれの意見を述べた。橋本君は、守りに3人配置することを提案。女子2人は、私の意見に賛同してくれた。その意見を聞いた阿刈君は、少しの間目を閉じ、考えをまとめた後、作戦を提示する。
「みんなの意見を俺なりに、まとめてみた。前衛は、俺が行く。中陣に二見、後陣は橋本、中川、畑野。これでいいか?」
・・・私も含めた4人は、開いた口が塞がらない。感動したのだ。こんな短時間(ものの2、3分)で人は変わるのか。いや、元々彼はこういう人なのかもしれない。私は、阿刈君に勢いで馬鹿と言ったことを素直に詫びた。それを聞いた彼は、『まぁ、リーダーだからな!』と顔をほんのり赤くして強がったように言っていた。なんだ、いい奴ではないか。私、橋本君、中川さん、畑野さんはホッと胸をなでおろした。
その後、細かい指示系統やチームの方向性ををまとめて、私たち3班の作戦会議は終了した。各班も会議が終了したようで、それぞれ“トウキョウ”に設置された陣地に向かう。私は歩きながらさっきの心境の変化を聞くべく阿刈君に話しかけた。
「どうして、独裁やめたの?やっぱり怖くなったとか?」
彼の顔を覗き込むようにそして少し煽るように聞いてみた。すると、彼は顔の近さに慌てふためき取り乱した様子で私の問いに答える。
「はぁ?全然そんなんじゃねえし!つーかビビってんのは二見の方なんじゃねぇの?俺1人でも敵陣地制圧できるしな。お前らは、陣地守ってればいいんだよ。俺だって、最下位マラソンなんてぜってー勘弁だし、どうせやるなら優勝狙いたいし、負けるのは嫌いだ。」
強がっているようにも見えたが彼のまっすぐな表情は、芯の強さを感じた。彼は野球部でもうすぐ地区予選も控えている。負けたら終わりの夏の大会。負けるのが嫌なのはそういった理由もあっての事かもしれない。この作戦も彼なりに反省し改めてチームの事を考えての配置なのだろう。ただ、1人での前衛は危険なので私も中陣から出来る限りのサポートをすると伝えた。大会前の選手に怪我をさせるわけにはいかないし。
「別にサポートもいらねえけど、好きにしろよ。リーダーは、俺だからな!」
「はいはい。」
阿刈君のリーダーポジションに対する確固たるこだわりを聞いて笑う私たち。本人は『うるせぇ!』と言っているが、案外いいチームなのかもしれない。そうこうしているうちに私たちの陣地に到着した。
第3地区“トウキョウ”は四方2キロ平方メートルの縮小スケールでかつて地上にあったというビル群を再現しており各班の陣地には半径100メートルのサークルが描かれている。そしてその中心部分には王様を模した的(身長50cmほどの人形)が置いてありそれを撃ち抜けば制圧完了だ。撃ち抜いたと同時にブザーが鳴り、各人に制圧情報が流れるようになっている。サークルには色があり1班が赤、2班が白、3班が青、4班が黄色、5班が緑。生徒それぞれのリストバンドにも同じ色がついていてそれによりどの班の陣地なのかが判別できる。
なんせこれだけ広大な施設だ。大抵は1チームのみ生き残る完全勝利はなくタイムアップになるのだが、毎回確実に2チームは王様を打ち抜かれている。どのチームも1チームを制圧できれば合格点だ。そのくらいこのチーム戦は、時間と体力を費やす。こんなハードゲームをした後に最下位は、学校まで走らされるのだ。これは、私の推測でしかないがおそらくみな第一に制圧しようとしている所は決まっているだろう。予想がついているので私たちは敢えてその班を狙わない。私たちの狙いは・・・。
そこで杉田先生による放送が流れ始めた。
「よーし、みんな陣地に着いたようね!制限時間は、1時間!より多くの陣地を制圧したチームが優勝だよ!みんな覚えているとは思うけど、優勝チームには購買部人気惣菜パンランキング第1位の『極!カレーパン』の贈呈、最下位は学園までマラソンでーす!そしてそして先生がいる第1班を“奇跡的”に制圧できた班には、特別賞として先月≪第5地区・アソビ≫にグランドオープンしたレジャーランド、『SUPER SEAランド アソビ』に先生と行ける権利を差し上げちゃいまーす!みんな、本気で制圧しに来てね!」
何ということだ。杉田先生はみんなの作戦を知ってか知らずか、闘争心をさらに高める発言をしたのだ。確かに『アソビ』にオープンしたそれは、クラスでも話題になっていて私も気にはなっていた。アソビは、地区そのものがレジャー施設でそこに行けば1日が退屈せずに過ごせる。というか1日では遊びつくせないのだ。そんな夢の国に杉田先生と行けるオプションまでついているものだから男子たち盛り上がっているのだろう。トウキョウには、『うおおおおお』という野太い声がこだまする。こちらは、阿刈君以外の子たちが盛り上がっていた。彼は、あまり興味がないようだ。
「それじゃあー、みんな、準備はいい?3年1組、新銃術チームマッチ、レディーゴー!!」
その高らかな宣言と共に、壮絶な戦いの火蓋が切って落とされた。




