SA 0-4
ー放課後ー
私とアクロは、先生からプリント類を受け取り学校を出ると四泉さんの家に向かった。
彼女の家は学校から電車で約10分、そこから歩いて20分ほどのところにあるマンションだ。そこは首都エリアの中でも結構なお金持ちたちが住むことを許される≪第4地区・クロガネ≫という高級住宅街なのだが、彼女はそこに一人で住んでいる。長年一緒にいるが家族のことは教えてくれないのだ。よく『あんたたち、本当に友達なの?奏子が一方的にそう思ってるだけなんじゃないの?』なんてことを言われるが、別に四泉さんが話したくないことなら聞く必要も無いって思っているし、話したくなればいつか話してくれるだろう。私たちの友人関係はそういうものだ。四泉さんからして一方的なものだとしても、私は彼女を放っておくことができない。1人にしてはいけない気がするんだ。余計なお世話かもしれないけど・・・。今は、とにかく彼女の体調が心配だった。
電車を降りて駅を出るとそこは高層ビルが立ち並び、私たちの高校がある≪第2地区・フタバ≫とは、別次元の街だ。まさに都会という表現がふさわしい。アクロは、初めて来たらしく口がふさがっていなかった。ビルを見上げながら歩いているので通行人からは、クスクスと笑い声が聞こえる。一緒に歩いている私が恥ずかしい。ただでさえ目立つアクロだ。それだけいちいち興味を持っていたら笑われるのも仕方ないけど、とりあえず静かにして・・・。上を見るアクロの傍ら、俯き歩く私。
四泉さんの家に着いた頃は、辺りは夕焼けに包まれていた。
「ここがサイコの家でござるか。ずいぶんと高いマンションでござるな。何階でござる?」
いい加減ござる口調がくどい気もするが、私が最上階と言うとアクロは妙にテンションが上がっていた。まぁ景色は最高だけど。私は、ロックを外してもらうためインターホンで彼女の部屋番号を押し、
呼び出す。しばらくして四泉さんが応答してくれた。
「どなたかしら?あら?その声は、三崎さん?何かアルバイトでも始めたの?宅配ピザを頼んだ覚えはないし、新聞の勧誘ならいつもお断りしてますわ」
いやいや、私さっき『家に行くね』ってメールしたじゃない?小ボケを入れてくるのが彼女らしいけど。
改めて私とアクロがプリントを持ってきたことを伝えて玄関ロビーのロックを外すよう頼むと、仕方ないわねとつぶやき、程なくして開錠された。エレベーターに乗り込み最上階へと向かう。20秒もたたないうちに到着し、一番端にある彼女の部屋の前に着くとプリントを取り出して再び四泉さんを呼び出した。ちなみにアクロは、景色に夢中だ。
ガチャリ
扉が開くとそこには、金髪のショートヘアで背が小さい、黒いドレスを着たお人形さんのように可愛らしい女の子が出てきた。
「三崎さん、こんばんは。そちらの方は、アクロさんでしたわね。こんばんは。」
相変わらず貴婦人のような挨拶だ。つい今まで景色に夢中だったアクロも四泉さんの方を振り向く。
「ご体調の方はいかがですかな、ミセス。」
こちらは何やらよくわからない挨拶をしている。もう少しちゃんと日本語を教えなければ・・・。
四泉さんは、怪訝そうな表情で「たった今悪化していますわ」とアクロに言い放つ。さすがのアクロもそんなことを言われるとショックを隠しきれないようで落ち込んだ様子で私に助けを求めてきた。
「カナコ、拙者嫌われてるのでござるか?。」
「今さらよね~、それ。」
完全に落ち込んでしまったアクロを尻目に私は、今日の目的であるプリントを四泉さんに渡した。
彼女はプリントを受け取ると笑顔で「ありがとう」と言った。そこで私はある疑問を抱く。
「それはそうと、休んだ割には結構元気そうじゃない?」
「ええ。風邪はひいていないのだから当たり前ですわ。ただ学校に行く気分じゃなかったから口実として風邪をひいたと言っただけですの。」
早朝5時に電話がかかってきたことにもやや怒りを覚えたが、今の発言には呆れて何も言えなかった。
実際彼女は、体が弱いほうだ。中学時代もだが、高校に入ってからもよく休んでいた。
しかし、最近は仮病を使うことも増えたため彼女の容体というものがいまいちよくわからなくなってきている。だがしかし、嘘をつくのはいかがなものか。友達としてもなかなかつらい。心配するこっちの身にもなれっての!
「でも、心配してくれるのはうれしいわ。わざわざ遠いところまでありがとう。」
本当にそう思っているのか疑うが、段々と日も落ちてきているので今日はもう帰ることにしよう。別れ際、明日は必ず来なさいと釘を刺しておく。彼女は微笑みながら「善処しますわ」と言い、私たちを見送る。1人どよーんと落ち込んでいたアクロの肩を叩き、帰ることを伝えるとあっけらかんとした表情で四泉さんに、
「なにわともあれ、元気でよかったでござるよ!」
と伝えた。四泉さんも「一応感謝していますわ」とだけ言い、また微笑む。
「おお、これがニホンで流行ってるツンデレというやつでござるな!」
アクロが呆れている私たちをよそにまた何かを語りだしていた。いつまでもここでアクロの語りを聞いていると近所にも迷惑なので彼の制服の裾を引っ張りながら私はエレベーターのある方向を向く。
「それじゃあ、また明日『学校』でね」
「強調しなくてもわかってますわよ、お二人とも気を付けてお帰りになって。」
「それでは!でござる!」
それぞれ別れの挨拶を告げると、私とアクロは歩き出す。数メートル歩いたところで不意に四泉さんから呼び止められた。急に呼ばれたので驚いたが、彼女は一言だけ私に向かって言った。
「本当にいつもありがとう。それだけですわ。」
そう思うならあまり仮病は使っちゃだめよとだけ彼女に伝えて再び歩き出す。私たちがエレベーターに乗り込むまで四泉さんは、こちらを見ていた。そして微笑みながら手を振る。私とアクロもそれに応じて手を振り、マンションを後にした。そのまままっすぐ駅に向かい、私たちはそれぞれの地区へと帰るのだった・・・。
・・・・・・・・・・。
また明日・・・か。素敵な言葉ですわ。明日はちゃんと登校しようかしら。
あまり心配をかけるのも、ね。
今日も1日が終わる。この世界の1日が。次々と街に灯る明かりを眺めながら私は思う。
あなただけは、私が・・・。
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数百年前、地上の世界ではとても大きな戦争が起きた。
大気は汚染され、大地からは草木が消え失せた。動物たちもほとんどの種が絶滅した。
そんな絶望の世界でわずかに生き残った人類は、地下に居住の場を移転させた。
もともと戦争用に建設されていた巨大な核シェルターをさらに開拓し、新たなる世界を構築した。戦争終結から200年程の時を経て人々は「地下の世界」を作り上げたのだ。地下の世界は、アリの巣のように張り巡らされ、大きく分けて8つのコミュニティ(国)が建設された。
現在、「地下の世界」にある全てのコミュニティを管理しているのが「世界復興の会」だ。
8つのコミュニティから一人ずつ代表が集い、世界の情勢を常に見守り安定させている。
そして彼らは、全世界共通の「ある条約」を打ち立てたのだった・・・。




