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STRONG ALONE  作者: 坂江快斗
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SA 0-3

同時刻ー3年2組ー


「なんか隣のクラスが騒がしいわね」


「転校生がきてるらしいよー」


「あ、俺その子見た!結構可愛かったぜ!」


2組のクラスメートがざわつく中、私、三崎奏子みさきかなこは席に着きかばんから教科書を取り出して机の引き出しの中に入れた。入れ終わると同時にこちらの教室にも担任の先生が入ってきた。一介の教師とは思えないほどの高身長(190センチはあるだろうか)に端正な顔立ち。モデルやれよとツッコみたくなる高藤至たかふじいたる先生だ。名前まで洒落ている。いったい神は彼にいくつの産物を与えたのだろう。まぁ正直どうでもいいのだけど。


「よーし、みんな席に着けー。残念ながらこっちは何もないからなー。出席とるぞー」


皆が落胆の声を上げる中、ちょうど始業式の日に転校してきた彼の方をふっと見る。

隣の席にいる古代大貴こだいだいきと会話する彼の名は、アクロ・アルート。海外コミュニティからの転校生でかなりのニホンマニアである。日本語も流暢なのだがときどきおかしくなる。今のマイブームは、語尾を「ござる」にすること。なぜかというと今、隣で会話している古代君から、<侍が農民を守る>といった内容の映画を薦められその後どっぷりハマった影響らしい。私が彼のことをこんなによく知るのは、クラス委員長ということで彼の観察係を高藤先生に命じられたからだ。日本語が通じるのであまり苦労はないのだが彼はなかなか手強い。

一組との違いは、おそらく彼が男だったことにあるのだろう。転校生が女子だと思っていた男子たち、彼が高藤先生級のイケメンじゃないかと期待に花をさかせていた女子達は、それぞれが彼の登場の瞬間にお葬式モードに切り替わったのは、悲しくも信じがたい事実なのであった。クラスの失礼な態度に私はムッとしたのだが、当の本人は、あっけらかんとしていた。(後から聞いた話だとこれがニホン流のおもてなしだと思ったらしい。)そんな鋼鉄の心臓を持つ彼も今やクラスの人気者だ。我ながら観察係として鼻が高い。そんなことを考えていると一定のリズムで点呼していた先生の出席確認がとある名前で止まった。


「四泉彩子?なんだ?四泉は、今日も休みか?」


四泉彩子しせんさいことは、私の幼馴染で奇遇にも小・中・高ずっと同じクラスで過ごしてきた友人である。今朝彼女の方から電話がかかってきて今日は、体調が悪いから学校を休むと聞いていた私はそう先生に伝えた。


「そうか、じゃあ三崎、プリント類はお前が届けてくれるか?」


「はい、わかりました」


そう言って出席確認が再開され程なくしてホームルームが終わった。授業の準備をしているとアクロが私の方にやってきた。彼はとにかくでかい。身長は高藤先生と同じくらいあり筋骨隆々、私なんか隠れてしまうくらい大きな体をしている。そんな巨体がのしのしと狭い机の間を縫ってやってくるのだ。一種のホラーである。なにやら言いたげな顔をしていたので次の授業まで時間がなかったが聞いてあげることにしよう。


「放課後、拙者もサイコの家について行ってもよろしいでござるか?」


相変わらずのござる口調は置いといて、私はその問いに返答する。


「アクロ、別にいいけどあんた四泉さんとあまり仲良くないじゃない?話したことないでしょ?あの子結構きつく当たることあるよ?」


実際のところ四泉さんは、あまりというか全く友達が出来ない。私も協力しようかと聞くのだが『余計なお世話。あなたがいればそれでいい。』などと言う、絵にかいたようなツンデレ娘なのでアクロのようなおバカが接しようとするとおそらく機嫌を損ねるだろうと思った。彼女は気難しい性格なので体調が悪いのも相成って今日は相当気が立っているはず。できれば一人で行くのが最善策なんだけど・・・。


「いやいや、カナコ。サイコとはこれから仲良くなるんでござるよ。きっかけが大事なのでござる。」


と、珍しくまともなことを言うものだから、私も押し切られしぶしぶ一緒に行くことを承諾した。四泉さん、ごめんなさい・・・。


「アクロ、そろそろ授業始まるから席に戻って。」


「イエッサー!」


そういって彼は、自分の席に戻っていった。



昼休み。

私は、今朝作ってきたお弁当を取り出し昼食に取り掛かろうとしていた。今日は、四泉さんからの電話で朝早くに目覚めた、というか起こされたので久しぶりにお弁当を作ってきたのだ。普段は、購買部で昼食を買ったり、食堂で食べたりしているのだが、私も女子だ。たまにはお弁当なんかも作る。今でこそ人が食べられるぐらいにはなったけど、作り始めたばかりの頃はアクロに「これは、お弁当型の爆弾でござるか?」と言われ、そのまま有無を言わさず完食させたこともあった。最初は下手だった料理も作り始めてみると意外と楽しいし、うまく作れると嬉しいものだ。達成感もある。四泉さんにお弁当を褒められたときは、思わず彼女を抱きしめた。相当嫌がってたけど・・・。そんな私の中でも今日のは一段とうまくできたお弁当だ。さっそく初挑戦したタコさんウインナーを食べようとしたその時、突然照明が暗くなったような気がした。あいつだ、間違いなくあいつだ。どうせウキウキな顔をしてご飯を一緒に食べようとか言ってくるに違いない。というか、私はどんだけあいつに好かれてるんだ。そして私はどんだけあいつのことを分かるようになってしまっているのか・・・。案の定あいつこと、アクロは思った通りの提案を投げかけてくる。


「カナコ、一緒に昼ご飯を食べようでござる!今日は、屋上で放課後の事について会議でござるよ!」


そうきたか・・・。まさかの屋上会議。別に教室でもいいと思うんだけど・・・。アクロは、いいからいいからと言わんばかりにニヤニヤしていた。うーん、いちいち屋上に行くのはめんどくさいなぁ。でも断る理由もないしなぁ。まぁ彼の観察係だし、仕方ない。付き合ってやるか。

私は、食べかけていたお弁当を一旦片付けてアクロと共に屋上へと向かう。


私とアクロが屋上に着いた頃には、40分ある昼休みの内の10分が過ぎていた。まずい。早いとこご飯だけは済ませたい。屋上の扉には元々鍵がかかっていたのだが、アクロが壊してしまったらしく未だに修理されていない。というか、放置されている。そのせいで屋上は解放状態になり生徒たちが勝手に利用するようになってしまっている。アクロが隣で壊した自慢をしているのを無視して扉を開けると、


「へ?」


そこには、一人の男子がいた。一人で購買部の激レアメニューである「超!焼きそばパン」を食べていた。何が「超!」なのかは、わからないが。彼は、パンを口にくわえて「なぜここに!?」という表情でこちらを見ている。いや、こちらこそ「なぜ君がここに!?」状態になっているんだけど・・・。


「おおーーー、ゴウタじゃないでござるか!丁度いいでござる!ゴウタも一緒にお昼を食べようでござる!」


「ふぁふふぉふぁん、ふぉう!ふぃふぃふぇ!ふぁふぇ?ふぃふぃふぁ、ふぃふぁふぃふぁんふぁっふぇ?」


「あ、うん…」


直訳すると『アクロじゃん、おう!いいぜ!あれ?君は、三崎さんだっけ?』と言ってるのだろう。まさかの真城豪太登場に思わず驚きが隠せない・・・。この様子だとアクロは狙ってやった訳ではなさそうだし。とりあえず私の食欲が減退していくのが分かった。これは、違う意味でまずい・・・。



「ん?カナコ、顔赤いでござる。サイコと同じ風邪でござるか?」


「違うわよ!!バカ!」


しまった・・・。みっともない所を見せてしまったんじゃないだろうか。自分でも自分の顔が熱いのが分かる。そしてこれが風邪ではないことも分かっている。私は、必死に平然を装うことに尽力する。はぁ、今日は、風がすずしいなぁ・・・。


「あんまり時間もないし、食べるなら早く食べよーぜ!ほら、三崎さんも!」


私が、我の返るとアクロはすでに真城君の隣に座り、購買部で買った「激!コロッケパン」を食べ始めていた。私も恐る恐るアクロの隣に座る。アクロの巨体を間にしているのに緊張してしまう・・・。真城君に伝わってないかな。もう、気が気ではなかった。


…そう私には気になる人がいる。それが今アクロを挟んだ隣にいる1組の真城豪太君だ。

彼とは、高校一年生の時に同じクラスだった。その当時、クラス委員長だった彼は不器用ながらも必死に自分の役割を果たそうと奔走していた。そんな姿をいつの間にか目で追いかけてる自分がいて・・・


「やっぱりカナコ、顔赤いでござるよ?大丈夫でござるか?」

「あ、ほんとだ。季節の変わり目だしなー。三崎さん、大丈夫?戻った方がいいんじゃない?」


ついつい昔の事を思い出しているとポッと顔が熱くなっていることに気付いた。そして彼らにも気づかれたことでさらに体中が熱くなる。額からは、じわりと汗が出てきている。私は、大丈夫だからと慌てて言うと二人とも「そっか」と納得し再び食事を再開した。危なかった・・・。緊張するとはいえ、真城君と会話するチャンスだ。彼と会話するのは、別に初めての事じゃない。


~回想~


「ねえ、三崎さん。このプリントみんなに配っといてくれる?」

「え・・・、うん・・・わかった。了解・・・」


~回想終了~


これ、会話か!?何でもないただの応答じゃないか?思い返してみるとちゃんと話したことあったっけ?

意識しだしてからはまともに彼の目をみて話せていない。2年生からは、クラスも変わってしまったので会話どころか校内でたまに見かける程度になっていたんだよなぁ。

そう考えると今日は、これから彼と接する機会が増えるかもしれないチャンスが巡ってきたのかも。私は、一時間目が始まる前にアクロが言っていた言葉を思い出す。『キッカケが大事なのでござる』。まさに今じゃないか。よし、楽に、自然に話しかければきっと大丈夫だ。私は、深呼吸をし気持ちを安定させて真城君に話しかけようと試みた。


「あの・・・、まし・・」

「そういえばさ、三崎さんってあの四泉彩子っていう人と仲いいの?」


私の勇気を振り絞った問いかけは、見事に被せられてしまったけどこの際どうでもいいと思った。向こうから話しかけてくれるなんて・・・。緊張が少しだけ和らいだ。そうだ、向こうはきっと何とも思ってないはずだし私が変な態度とってると逆に距離を取られるかもしれない。ここは、自然に、自然に。


「う…うん。小学生の時に知り合ったんだ。その頃はお互いあまり友達もいなかったし…。彼女、ずっと1人で居たから声かけたんだ。それが始まりかな。」


それから私が四泉さんとの思い出をいくつか話すと彼は、意外だなぁという感想を述べて四泉さんがそんな人物だとは、思わなかったと言った。人は、見かけによらないということなのだろう。彼女は外見に関してはお人形さんのように整っているのでそれが近寄りがたい理由になっているのかもしれない。校内でも高嶺の花と言われているのをよく耳にする。美人で、無口で、無愛想。まさにミステリアスという言葉がお似合いだ。四泉さんの話をしているとついつい時間を忘れそうになる。お昼休みももうすぐ終わりだ。そういえば私、なんで屋上に来たんだっけ?そうだ、アクロと放課後の事で会議するとかなんとかだった。でももう時間もないし、別に会議するほどの事でもないし・・・。ふと横をみると二人が楽しそうに会話している。どんな事話してるんだろう?


「サイコに拙者が話しかけると無視するでござるよ」


「アクロは、フランクすぎるんだよ」


「拙者はフランクという名前ではないでござるよ」


「お前本当に海外コミュニティからきたのか?てか、本当に外人か?」


「生粋の日本男児になりたいでござる!」


「そうか、道のりは険しいな…」


いいなぁ、アクロ・・・。あんな会話、私だってしてみたい。漫才調になるのは嫌だけど。

そんな二人の他愛のない会話をドキドキしながら聞いていると、昼休み終了のチャイムが鳴る。二人とも『やばい!』といってなぜか猛ダッシュで教室に戻っていった。結局、アクロとは会議も出来ず(これはどうでもいい)、真城君とも思ったほど話せず(これはショックだ・・・)、自信作のお弁当も食べられなかった。しょうがない、晩御飯にするとしよう。


1人になり、屋上に立ち尽くす。少しだけ冷たい風が私を包む。さっきまで汗ばむほど熱くなっていたのでこの風は心地いい。そんな中で私は、四泉さんの事を思い出す。真城君に思い出を語ったので私も当時の事をいろいろと思い出した。楽しい思い出も、悲しい思い出も、彼女との思い出は、全部大切な思い出だ。四泉さんに出会えたから今の自分がある。私は、自信を持ってそう言い切れる。そんなことを思っていると何だか早くプリントを届けに行きたくなってきた。さて、午後も授業頑張りますか。


重たいままの弁当箱を持ち、屋上を後にした。


…そういえば四泉さん最近休みがちだなぁ…


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