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STRONG ALONE  作者: 坂江快斗
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SA 0-2

クラスに到着し、席に着く。私の席は、窓際の列の最後尾だ。ここからは、町の様子も眺められるし春は風が心地いい。クラス全体も見渡せるのでクラス委員長である私にとっては最高のポジションだ。

瑛梨奈のほうは、扉側の一番前なので私とは対角線上の位置にいる。

ほどなくして、担任の先生である安田次郎(通称ヤスロー)先生が入ってきた。相変わらず立派な天然パーマと無精ひげだ。歩を進め教卓に出席簿を置き自分の定位置に着くと開口一番に言い放った。


「よーしみんな席着けー。おはよう、今日はみんなに重大なお知らせがあるぞー!」


にやにやしながら早くお知らせを言いたげな先生だったが、この言い回しは、学園もの小説やドラマではテンプレート化してるので展開が読めてしまった。どうやら周りの生徒も気づいているらしく教室がざわめきだした。瑛梨奈に至っては、キラキラと目を輝かせて登場を心待ちにしている。ざわめきからだんだん騒々しくなってきたのに先生は未だにニヤニヤとしていたのでクラス委員長として場を収めることにした。


「転校生ですか?」


先生のニヤニヤが一瞬凍りつき、教室内も一瞬の静寂に包まれた。なんとなく先生には悪いことをしたなと感じてしまった。


「も-、二見ー、先言うなよー!」


先生の一言で再び盛り上がりを見せる3年1組一同。それもそうか、全く期待も予想もしていない時期に転校生がやってくるのだからみんなのテンションが上がるのも無理はないのだ。


「あっすいません、あからさますぎて逆に違うとおもったので…」


私は、自分の率直な意見をそのまま述べた。そもそもなぜ入学式から一か月がたち、ようやく新しいクラスメイト達とも仲良くなってきたこの時期に転校生が来るのだろうかと考えていると、先生は生徒紹介の段取りを踏んでいた。


「んまぁいい!そんなわけでご期待通りの転校生だ!一條、入ってこい!」


一條・・・?どっかで聞いたことがあるような、無いような・・・。

かすかに聞いたことのある苗字だったので記憶に検索をかけようとしたときガラガラッと勢いよく教室のドアが開く。そうして彼女は登場した。


「うおおおおおおお!」


クラス(主に男子たちの)異様なまでの盛り上がりは、彼女の一言で静寂へと戻る。


「ちょっと、うっさい。静かに迎えてくれよ。」


「「「・・・・・・・・・・・・・」」」


サァーーッと血の気が引いたように静かになる教室。今この瞬間まで最高に盛り上がっていたとは思えないほど教室の空気が一気に凍りついた。

そして何とも言えない気まずい空気が1組を包む。その静寂を切り裂いたのは安田先生だった。


「あ…、えーと、じゃあ、一條、自己紹介のほうを…」


そう不機嫌な彼女に告げると、腰まである赤毛のポニーテールを揺らし私たちの方へと向き直ると彼女は堂々とした口調で簡潔に自己紹介をした。


「関西エリアの瀬戸学園から転校してきました、一條音葉いちじょうおとはです。嫌いな人は、二見琉夏です。よろしく。」


クラス中が私のほうを振り向く。一條音葉と名乗った彼女は、自分がどこから来たのかを言った後に好きな食べ物でも得意な教科でも趣味その他云々でもなく、『嫌いな人は二見琉夏です』と確かに言ったのだ。


当然、私は何の事だかさっぱりわからないし聞いたことある名前だなとは思ったもののそれがこの子なのか定かではない。そもそもなぜ彼女がそんなことを宣言したのか正直意味が分からなかった。依然として彼女はこちらを睨み、クラスメイト達は私と一條音葉への視線を行ったり来たり。


そんな中、瑛梨奈はお腹と口を押えて小刻みに震えていた。もちろん体調が悪いのではない。笑いをこらえているのだろう。私が困惑していると先生は私の隣に彼女を誘導しようとしている。副委員長の七瀬紀衣ななせきい君に空き教室から机を持ってくるように頼むと彼は数分もしないうちに机を抱えて戻ってきた。


彼女一條音葉は、あからさまに嫌な顔をしている。いやいや、私もこの席がお気に入りなので譲りたくないし嫌われている以上、隣にも来てほしくないのだが・・・。まぁクラス委員長なのでここは、私が我慢して穏便に事を収めたい。ところが・・・


「え!?どうしてよ!!あっちの席も空いてるじゃない!!言ってるじゃん、二見琉夏が嫌いですって。空気読んでくださいよ、先生!」


カチンッ


私の中のタガが外れた気がした。こうも嫌い嫌いアピールを受けると人間は、落ち込むよりも怒りが沸き立つようだ。だいたい、なんなんだあの制服の着崩しは。。


制服の上着は腰に巻き、スカートは何回も折ったのだろう当然ミニスカだ。爪にはピンクのマニキュアを塗り手首にはパワーストーンなのかなんなのかわからないがブレスレットをいくつもつけている。そこまでやっといてピアスを付けてないのは穴をあけるのが怖いんだろうなと勝手な自己分析をしてみるが、なんにせよ超エリート校であるこの徳瑛学園では浮いてしまう着方だと思った。


いきなりやってきてわがまま言うなんてこの先の3年1組の平穏が脅かされかねないのでここで釘はさしておかなければならないだろうと感じた私は、彼女に対し私の話も聞くように促した。が、彼女は聞く耳を持たない。握りこぶしに汗がにじんでいく。一触即発の空気漂う中ここでも安田先生が状況を切り裂いた。


「いやーあそこは、真城の席なんだよ。すまんなぁ。というかあいつまた遅刻か!」


先生は、頭を掻きながら申し訳なさそうに一條音葉に伝えるとすかさず反論、というか異議を申し立ててきた。


「そんなの、どーでもいいから。その真城ってやつの席をこいつの隣にすればいいじゃない!」


その手があったかと言わんばかりの表情をする安田先生と1組一同。みんなの納得した表情を

見るや否や彼女は「決定ね」と言い、その席に向かって歩き出す。


このままでは、私が悪に手も足も出ず屈したように思われてしまう。それだけは避けたい。というか新参者に主導権を握られては、委員長である意味が無くなってしまうではないか。この教室問答は何としても勝利しなければ、正義が何のためにあるか知れたもんじゃない。みんながやれやれ、終わった終わったといった会話や表情をし始める中、今度は私から異議を唱えた。


「ちょっと待ちなさいよ!私の話も聞けって!好き勝手に話を進めないでよ!1万歩譲って私の事が嫌いなのは『今は』置いとくわ。」


嫌われている理由がイマイチ分からないのでとりあえず『今は』の部分を強調しておく。負けるつもりは毛頭ない。そして私は続ける。


「そもそもその席は、真城君の席でしょ。本人に確認すべきよ!」


こう話していると私が一條音葉と隣の席になりたいように聞こえてしまうからムカつく。だが今はこのわがまま転校生の思い通りにさせたくないという思いが強かった。

ふと瑛梨奈のほうをみると机に突っ伏していまだに体が小刻みに震えている。彼女なりに笑いをこらえつつ笑っているのだろう。彼女に視線を戻し、さらに私は続ける。


「それに、いきなりきて『嫌いな人は二見琉夏です』っどーゆうことよ!私とあんた初対面でしょ?」


沸々と湧き上がっていたものが私の意識とは別に吐き出されていく。女の子という生き物は、自分でいうのもなんだが恐ろしい。言い争いはするつもりなかったのに。もちろん、一條音葉は言い返してくる。


「はぁ!?覚えてないんだ?最低だね!覚えてないなら別にいいわよ!ウチは一生忘れないから」


何の事だかさっぱりわからない。『一生』という単語を使われると逆に私は、彼女に本当に悪いことをしてしまったのではないかと不安になってしまった。彼女に一生忘れられない傷を与えてしまったのかと。


ただそれほどの出来事があったとするならば覚えていないはずがない。私は成績に関してはいい方だ。記憶力もあると思う。しかし、どうにも彼女に危害を加えたような記憶は出てこないのだ。イチジョウという苗字は覚えているが、今まで壱条さんだったり、一城さんだったりいろんなイチジョウさんの名前を聞いているだけなのかもしれないので一概に<彼女と会ったことがある>とは決めつけられなかった。


「てかさぁ、いねーじゃん、本人。」


関西エリアに住んでいたとは思えないほど標準語のギャル口調で真城豪太がいないことを指摘する。

私が真城君は今ズボン履き替えるために家に戻っているということを伝えると、


「へえ~そーゆう関係なんだ?」


と、誤解を招くような言い方をしてきたのでそこはバッサリと否定した。彼がどう思っているのかは知らないが私にとっての彼は一人の友人に過ぎないから。とても仲のいい友人だ。


ふと顔が赤くなってしまったが変な想像をしたわけじゃない。中学生の頃からの知り合いでよく私と瑛梨奈と真城君の三人でバカなことをやったりしたので自分が彼と恋人同士というシチュエーションを想像するとなんだかむず痒いものがあった。ふと瑛梨奈の方を見ると、机を叩いて爆笑している。クラスのみんなは、顔を赤らめていた。


「もうっ!みんな!」


どうやら誤解は解けていないようで(というか変な想像をされている気が)教室内は、再び変な空気に包まれる。あー、もう早く終わんないかな、ホームルーム・・・。そんなことを涙ながらに考えているとようやくこの教室問答に参加すべき男が教室のドアを開けたのだった。その男は高らかに挨拶をかましてきた。


「おはよっすー、おっ!ギリ遅刻じゃないんじゃね?」


時計は、すでに午前9時を回っている。余裕の遅刻だ。おそらく原口先生との戦いがあったのだろう。どんな戦いがあったのか分からないが彼の制服には砂や泥の汚れがついていた。


「いや、お前普通に遅刻だぞ。」


安田先生の一言にマジかというような表情を見せる真城君。事の顛末を説明し教室のど真ん中にある自分の席へと向かうが、そこには元々そこが自分の席であったかのように堂々と一條音葉が着席していた。いつの間に移動してたんだ、一條音葉・・・。


「あっ、あんたが真城?あんたの席、あの女の隣になったから。あんたたち付き合ってるみたいだし別に文句はないでしょ?むしろ感謝してほしいくらいだけど。」


ハア?この女は何を言ってるんだ!関東と関西はやはり相容れないのかもしれない。何よりも私の言葉は届いていなかったようだ。あー、もう疲れて反論する気も起きない・・・。というか真城君は納得してるのか・・・?


「んー、おう!ってお前誰だよ!かわいいな!てか、俺と二見はまだ付き合ってねぇぞ。」


「まだ」って何よ、真城君・・・。あなたの中ではすでに付き合う算段ができているの??しかもちゃっかり一條音葉の事をかわいいなんて言ってるし。絶対今度、透子さん(真城君の母)に会ったらこの出来事を報告してやる。そう思いながらも私は、遠い目をして呆れていた。


かわいいと言われた一條音葉は、その発言に一旦引いた後、死ねよ童貞と彼を切り捨て顔を伏せ早くも居眠りの態勢に入っていた。


「し、死ね・・・って・・・。ど、ど、ど、童貞・・・って・・・。」


「きゃははははははははははは!!」


ショックを隠し切れない様子の真城君。周りの男子たちがドンマイだの気にすんなだの励ましの声をかけていた。瑛梨奈に関しては、堪えるのをやめ机をうるさいくらいどんどんと叩き爆笑していた。あいつめ、後で脇腹をくすぐって笑えなくなるまで笑わせてやる。


「もー!!!」


朝から私の怒号が響く。3年1組、いや高校入学して以来初めての出来事だ。でも、これは私にとってとても幸せなことでもあるのだ。何気ない日常は大切にしなくてはいけない。


いつの日か私は、このひとときでさえも愛おしく思うことになる。


「そんじゃあ、出席とるぞー」


そういえばまだホームルームは終わってなかったな。先生が次々と名前を読み上げて、連絡事項を伝えたのちようやく、ようやくホームルームは終了した。一時間目は、数学だ。先ほどから隣の席になった真城君に教科書見せてと頼まれたが、この状況下で教科書を見せるために机をくっつけたら俄然誤解は確信に変わってしまいそうだったので、ごめんなさいと思いつつ、


私も忘れたふりをした。



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