SA 1-5
飛び散ったガラス。5班陣地にはたった今、枠だけとなった窓から涼しい風が吹く。
そこにいたのは、阿刈新丈。全力疾走してきたのだろう、息遣いが荒いそいつは、状況を理解すると王を守る俺に向けて銃を構える。
「覚悟しやがれ・・・、5班。ってあれ?豪太じゃねぇか!お前、どうしてこんなとこに?」
それは、俺の方が聞きたい質問なのだが・・・。
「お前こそ!てか、カレーパン返せ!!」
昨日の今日だ。この際、食べ物の恨みがどれだけ恐ろしいかこの男に教えてやる。
「カレーパン?あぁ、昨日のか。お前金持ってなかったんだろ?俺は、金を持っていてそれでカレーパンを買った。お前に恨まれる筋合いねぇんだけど。」
そうくるか。くそっ!言い返せない・・・!確かに俺の逆恨みかもしれん。だがしかし!ここで引いたら、俺は・・・
「ちょっと!私らの事忘れてもらっちゃ困るぞ!真城豪太、そして阿刈新丈!」
俺の思考に横やりを入れてきたのは竹原だ。そういえば2班の2人の事すっかり忘れていた。ただいまの状況を整理してみる。
俺は、王様を抱きしめるように守り、それに向けて阿刈新丈が銃を向けている。そして彼に向けて
銃を向けているのが笹野、俺に向けているのが竹原。うーん、なかなかカオスな状況だな。なんだかんだで武器を持っていない俺が圧倒的に不利な状況が続いているという・・・。
「な、なぁ待ってくれって。俺の話を聞いてくれ。お前らのどっちかは、5班陣地が獲得できるの確定だろ。だからさ、ここは穏便にお前らが話し合えって。ジャンケンとかでもいいと思うぞ。ほら、そうすれば平等かつ貴重なゴム弾も使わずに済む。犠牲になるのは俺1人はっはー!・・・・・な?」
自分で提案しておいて悲しくなる。しかし、不意に現れた阿刈新丈が救世主でないとわかった時点で5班の運命は決まっていたのだ。せめて二見が来てくれよ・・・。
相変わらず向けられている拳銃。4人が距離を離しながらも一直線に並んでいるため3丁の銃が俺に向けられている錯覚に陥る。まぁ、どうせ最終的に撃たれるの俺だし、関係ないか・・・。
久々にネガティブな感情が押し寄せる。銃で撃たれたら痛いし、負ければカレーパン食べられないし、最下位になったらマラソンだし、昨日スーパーの特売日じゃなかったし、そういえば早起きしたのに母ちゃんに怒られたな、俺。さらに言えばズボン間違えて遅刻したよな、俺。はぁ、俺ってどんだけ運に見放されてんだよ・・・。俺が、そんなことばかり考えていると残りの3人が何やら揉めだしていた。どうやらジャンケンは、お気に召さないようだ。とりあえず食べ物の恨みもあるから笹野、お前が新丈を撃ってくれ・・・。
「いいか、真城豪太、阿刈新丈!ここは戦場だ。たとえ授業であろうとも戦場であるここでは、そんな甘い考えは捨てろ。特に真城豪太!お前には、こちらとしても無駄な犠牲は出したくないから王からどけと言った。しかし、お前はその譲歩を無下にし、あろうことか反逆に出ようとしたよな。私も決めたことがあるのだ。真城豪太、お前を撃つ!」
「あっあの・・・、阿刈君・・・、私たちはどうしましょう・・・?」
「うるせぇ!そんなもん知るか!俺は急いでんだよ!あいつが来ちまう!」
何やら次元が違うとんちんかんが1人、ついていけてない多分いい子が1人、狂犬1匹と言ったところだな。ん?あいつ?誰の事だ?まさか、新丈と同じ3班と言えば二見か!?でも『来ちまう』って言ってるし・・・。と、その時だ。
「そこまでだ、お前ら!」
鋭く眼光尖らせ金髪の前髪を揺らし先ほど壊れた窓枠の外から歩いてくる男、七瀬紀衣。見たところ銃口を俺に向けている。この時点で俺が食らわなきゃいけない弾数が新丈に銃を向けている笹野抜きで考えて39発。でも一応、笹野入れとくか。
はい、52発。真城豪太死亡のお知らせ~。
いや待てよ、多分紀衣と新丈は何発か打っている可能性あるよな。多く見積もって40発ってとこかな。うん、どっちにしろ終わりだな、俺。
「阿刈、お前さすがに足が速いな。サッカー部に入らないか?」
「それ、今やる会話じゃねぇだろ!俺、野球部入ってるし!畜生、うまく撒いたと思っていたのに・・・。」
「遅いぞ、七瀬君!でも、君が来たことによって第2班の勝利が確定したわね。ね、笹野さん!」
「えっ?あっはい・・・。そう、ですね・・・。」
笹野さん、若干引いてるよな!?
「豪太、ついでに阿刈。もう諦めろ。陣地を明け渡せ。お前らは友達だ。怪我させたくない。」
「ちょっ、七瀬君!そんな甘い考えは、」
竹原が言い終わる前に紀衣が続ける。
「これは、授業だ。たとえ相手を撃ってもいいというルールがあろうとも俺は傷つけることはしたくない。」
「いや、お前さっき殺す気満々で俺に発砲しまくってたじゃねぇか!」
「そんなことはない!現にお前怪我してないだろ!当てないように撃つのは気を使うんだぞ。」
こいつら、さっきまで戦ってたってことか。俺は、思考を巡らせる。4人があーだこーだ言い合いしてくれてるのは助かる。この数秒が俺にとっての希望になる。
そうして1つの答えが導き出された。しかし、これは俺1人で行うことが出来ない。どれだけ考えても阿刈新丈の協力が必要だったのだ。そして、5班陣地の犠牲も。すでに俺の脳内では、『生きる!』という選択しかなかった。さよなら、極!カレーパン・・・。生きてさえいればいつかまた会えるよね・・・。
500円玉を常備することを心に決め、2班に聞かれてもいいくらいの声で俺は新丈に話を持ちかける。
何より、生きるために!
「なぁ、新丈。」
「あっ?なんだよ?」
「5班の陣地、お前ら3班にやるから今は俺と王様を助けてくれ。」
「乗った!」
話がはやい男で助かる。勝つことが出来ればカレーパンの恨みはこの際水に流してやらんこともない。あわよくばこれから始まる銃撃戦の中でくたばってくれ、新丈・・・!
戦いに入ってからは、本当に早かった。
まず、俺に2班からの総攻撃。何発か定かじゃないが10発は背中に受けた。死ぬかと思った。
一応俺を守るように新丈が応戦。しかし、弾が2発しか入って無かったらしくその発砲も明後日の方向へ。
しかし、己の肉体で彼は抵抗を続ける。銃が入っていたアタッシェケースを振り回したり盾にしたり、その姿はまさに野人だった。そんな野人モードの新丈を止めたのは、意外にも笹野さんだった。新丈が襲いかかろうとしたとき『きゃあーーー』という悲鳴と共に見事な金的をお見舞い。男としての彼は、死んだと思った。
そして、3丁の銃が再び俺に向けられる。
第5班、第2班の七瀬、竹原、笹野の3名により制圧完了。
俺は、生きている。生きているって素晴らしい事だと再認識できた、とてもいい授業でした・・・。




