SA 1-4
「ふたみん、みーつけた♪」
上からの声に私と阿刈君は、すぐさま銃口を向ける。ビル3階の窓から身を乗り出し笑顔でこちらに銃口を向けていたのは、瑛梨奈だ。発信機を逐一チェックし、敵がいないことを確認していたにも関わらず彼女は、私たちの至近距離にいたのだ。
「瑛梨奈、あんたまさか・・・」
私は、彼女に1つの疑惑を抱く。発信機の故障も考えたが・・・。
「今だよ、紀衣!」
その刹那、背後からのプレッシャーを感じる。背後と上から挟まれた。私と阿刈君は、身動きが取れない。私は、阿刈君に目線で合図を送る。とりあえず動くな、という意味を込めて。
「てめぇ!!」
バンッ!
彼はおそらく私の合図を『後ろの敵に向き直れ』と解釈したのだろう。大胆に後ろを振り返り、銃を向けそのまま発砲。そこにいたのは、七瀬紀衣君だ。ゴム弾は彼の頬をかすめる。しかし彼は冷静で、阿刈君の挙動に全く動じず銃をこちらに向けたままだった。
「ちょっ、バカりくん!じゃなくて阿刈君!何で撃ってんのよ!敵を刺激しちゃダメだって!それに動くなって合図したでしょ?」
少し小声で彼に伝えると、彼も小声で「うるせぇ、それとバカりってなんだよ!」と答える。「うるせぇ!」が口癖なんだな。お互い背中合わせになりながら睨み合う私たちに対し、七瀬君が口を開く。
「阿刈、それと二見、銃を下ろせ。お前たちは、今から5班制圧に向かうところだろう。残念だが俺たち2班の2人がすでに向かっている。そろそろ到着している頃だな。何も問題は起きないと思うが、お前たちのような懸念材料は早いうちに動きを止めておかないとな。」
「七瀬、そっちこそ邪魔すんじゃねぇよ。大体、お前らどうして発信機に表示されてねぇんだよ!」
私の抱いていた疑問を阿刈君が先にぶつける。実は、私にはそのからくりが分かっていた。
そして今度は、私の方から瑛梨奈に話しかける。
「瑛梨奈、あんた発信機の電波をハッキングしたでしょ?」
瑛梨奈は一瞬ギクリとしたが、慌てるようなそぶりはなく『えへっ』と舌をぺろっと出し、自分の頭にこつんと拳を当てぶりっ子ポーズをとる。可愛いが何ともイラつく表情をしている。
そう彼女は、超がつくほどの天才プログラマーであり、ハッカーだ。
彼女がまだ幼い頃、過保護に育てられていた瑛梨奈は外に出してもらえず、また友達もいなかった。そんな彼女に父・五堂瑛太郎は、あらゆる知識と常識を教えるため何百冊もの参考書だったり専門書を与えた。その中で彼女は、なぜかプログラミングの本に興味を持ちさらに自作でパソコンを組み立てるほどだったらしい。この時瑛梨奈、わずか6歳。
その後、ハッキングという能力を身につけた瑛梨奈はあらゆるネット回線にアクセスし、一時期地下の世界に張り巡らされている電子パネルとスプリンクラーと送風施設いわゆる気象関係の回線を乗っ取り天変地異を引き起こしてしまおうと考えたらしい。さすがに、というか本当にそれはまずいと感じた瑛太郎さんは、瑛梨奈に交換条件を提示された。
学校、行かせてくれるならハッキングやめる、と。
1つの事に集中すると目の前の事しか見えなくなる。小さい頃からそういう子らしいのだ。
今回の発信機など、彼女の手にかかればクラックなんていとも簡単だ。今までの新銃術授業でハッキングをしたことなかったのだが、今回は賞品と罰ゲームがかかっているためいつになく本気なのだろうか。
「いーじゃん!これも作戦の一つだし、自分の持ち得る技術はこういうところで活かさなきゃって思うんだ。それにー、杉ちゃんだって『ハッキング、ダメよ』なんて言ってないでしょ?」
確かに瑛梨奈の言うことにも一理あるし、先生もダメとは言ってなかった。
うまいこと言いくるめられ、私は納得してしまう。
というか、瑛梨奈に対しほぼ垂直に銃を向けているのでそろそろ腕が限界だった。どちらにせよこの状況を打開するには、攻撃に転じるしかない。私の後方で額に汗をにじませ七瀬君と膠着状態の男が延々言っていた作戦とも言えない作戦をまさか実行するときがくるなんて・・・。皮肉なものだ。
「阿刈君、聞こえる?わかってるとは思うけど、時間がない。急がないと5班が制圧されてしまうわ。あなたの大好きな特攻で行くわよ」
「はぁ!?お前、馬鹿か!この状況で動けるわけねぇだろ!」
「この、馬鹿!私の腕がもう限界なのよ!あんだけ、特攻特攻言ってた男が今更何言いだしてんの!バカリくん改めビビり君って呼ぶわよ!私が3つ数えたら戦闘開始!いいわね!」
私は、ビビり君に有無を言わせず本当に小さな声でカウントダウンを開始する。
後ろで、ぐだぐだ『ビビりじゃねー!』だの『ふざけんなー!』だの言っているようだが何も聞こえない。
「3,2,1・・・、撃て!!」
発砲音と同時に私たち2人が左右に散る。
それに合わせて七瀬君、瑛梨奈が発砲しそれぞれ睨み合ってた同士が戦闘を開始した。
「ビビり君!弾は、無駄遣いしないで!それと撃った分は計算しておいて!」
「ビビり君って呼ぶんじゃねぇ!それにこの状況で弾数えられっかよ!!」
銃弾が飛び交う中、七瀬君は冷静だ。
「五堂!二見は、任せるぞ」
「あいさー!そっちもビビり君よろしくー!」
阿刈君がビビり君に定着しているようだ。私は瑛梨奈を追ってビルの中へ。せっかくだ。日頃のフライングプレスの仕返しをしてやろう。
ビルの中は、普通の会社のようにデスクが並んでいたり、資料を入れておくガラス窓付の重そうな棚があったり、営業部署によりフロアが分かれていたりとすぐに利用できそうなくらいリアルな作りになっていた。ここなら隠れる場所もたくさんあるし、銃から身を守るのも容易にできそうだ。
瑛梨奈は、確か3階だったわね。移動している可能性も頭に入れて私は、ゆっくりビル内を進む。外からは銃声がいくつも聞こえるが、ビビり君、大丈夫かしら?彼と銃の弾数を心配しつつ、2階へと上がる階段を見つけた。
足音を立てないように注意し階段を上がる。階段を上るのにこんな時間をかけたことがかつてあっただろうか。緊張感も相成って私の体力も徐々に失われていく。
ようやく階段を上りきり2階に到着したころには、外の銃声も聞こえなくなっていた。
ガタっ・・・
私が汗を拭い一息ついているとかすかに音が聞こえた。私は、2階のフロアを見渡す。1階とは違い、ここは社員たちが利用する休憩スペースなのだろうか。食堂や小さなコンビニエンスストアが見受けられる。先ほどの1階と違いごちゃごちゃしておらず、見渡しやすい。ここでは、あまり戦闘したくないなと思いながら音の鳴った方向に足を進めていく。
「瑛梨奈?いるなら出てきなさいよ。正々堂々勝負しましょう。」
問いかけに返答はなく、私の声だけが2階に響いた。
心臓の鼓動が速くなっていく。少し怖くなってきた。ホラーは苦手だ。あまりの静かさに
耳が痛くなってくる。授業ってこんなに緊張するものなの?私は根本的な疑問に立ち返ったりもした。
銃を構える。そして、物音が聞こえた位置に到着した。フロアの右側、コンビニの中の入る。何かが落ちているのを発見し、私は腰を落とし拾い上げて立ち上がる。
私が拾い上げたのはトランシーバーだった。
瞬間、静寂の空間に響き渡る銃声。
私の手にあったトランシーバーが吹き飛び、壁に当たる。それは粉々になっていた。
私は、弾丸が飛んできた方向に向き直る。やはり瑛梨奈がそこにはいた。珍しく笑顔がなく、いかに本気で私との勝負に挑んでいるのかが分かる。
「ふたみん、たまにはこういうのもいいよね。お互い怪我には気を付けようよ。」
そう言って瑛梨奈は、いつも通りにこりと笑う。私も、「そうね。」と返しその直後瑛梨奈に向かい発砲する。
お互いゴム弾を退け、私はコンビニから出る。すぐさま瑛梨奈の足元に2発発砲。
瑛梨奈は、その身を翻し私の攻撃から逃れる。瑛梨奈は、傍らに置いてあったパイプ椅子を片手で私に向かい乱暴に投げてきた。
まずい、本当に本気だ。集中スイッチが入った瑛梨奈はかなり驚異的でパイプ椅子を投げると同時に3発撃ち込んできた。そのうちの1発が私の左太ももに着弾。ゴム弾なので貫通とまではいかないがめり込んでいくのを痛みと共に感じる。それと同時にパイプ椅子が私の目の前まで飛んできていた。
「くっ。やばい!」
何とかギリギリのところで回避するが、左足はまだ言うことを聞かない。まさか怪我をしてしまうとは・・・。
だが、『お互い怪我には気を付けようよ。』と言った本人はその発言を忘れてしまったかのようにさらなる攻撃を仕掛けてくる。
計5発だろうか。銃声鳴る中、私は、食堂のテーブルを瑛梨奈側に倒し防御壁にする。一瞬、息を整えて、足の痛みをこらえて
そこから一気に飛び出した。
が、先ほどテーブルの上で勝ち誇ったように銃を構えこちらを見下ろしていた彼女はそこにはいなかった。
ふと後頭部に硬いものが突きつけられる。さすがにこの距離で撃たれればゴム弾でも脳を貫くだろう。ここがもし本当の戦場なら私は、ここで射殺されるか捕虜になるか、の2択だ。その選択権さえも相手にある。加えて私は左足を負傷している。絵に描いたような絶望的状況だ。
本当の戦場ならね。
「ふたみん、足大丈夫?」
「えぇ。少し痛いだけ。瑛梨奈、新銃術こんなに強かったっけ?」
「先週やり始めたネトゲのおかげかな。怪我させちゃったのは本当に謝るよ。ごめんなさい。」
「ううん、そういう授業なんだもん。怪我はつきものだよ。瑛梨奈に1発食らったのはショックだけど。」
私は、瑛梨奈との会話の間、そのタイミングを計る。
「えー!あたしだってやるときゃやる女だよ!でもまさかふたみんの後ろを取れるとはね。」
「悔しいけど、私の完敗かな?ちょっと痛めつけてやろうと思ってたのになぁ。残念。」
「ホント、残念でした♪」
とある計算に間違いがなければこの状況は覆せる。私にはその自信があった。
誰もいないほうに構え続けていた銃を下ろす。私の動作に瑛梨奈は動じない。つまり私が勝手に動いたことに関して気にしていないのだ。何故か。それは瑛梨奈だけ「戦いが終わった」と思っているから。
その安心感は、私と瑛梨奈が友達だから生まれる油断なのだろう。ここが本当の戦場じゃないからこそ私には逆転のチャンスがある。
私は、くるりと瑛梨奈の方へ向き直る。後頭部に向けられていた銃口は、たった今私のおでこに向けられる形となった。予想もしていない動きに瑛梨奈の表情はとまどいを隠せていなかった。
私は、右手に握っていた銃を瑛梨奈のおでこに宛てがう。お互いの腕がクロスする。映画のポスターにでもなりそうな構図だ。
「えっ何?どうしたのふたみん?さすがにこの距離では撃たないけど、ふたみんの負けなんだよ?」
瑛梨奈自身が銃を向けられている以上、私の負けではないのだが・・・。
そう言ってしまうということはやはり・・・。
私の予想は、確信にかわろうとしている。身長が彼女より少し高い私は、見下ろしながら瑛梨奈に向けて質問する。
「ねぇ、瑛梨奈?『撃たない』じゃなくて『撃てない』でしょ?その銃、初めに比べたらずいぶん軽くなったんじゃない?」
彼女は、『あっ』と漏らす。直後まずいと言った表情をしながら彼女は左手で口を押える。
そのリアクションが何よりの証拠だ。ゴム弾を撃ち尽くしてしまったという証拠。
「ね?銃弾を数えるということは重要なことなの。わかった?」
「やっぱりふたみんには、敵わないなぁ。気づかないと思ってこのままふたみんの銃奪おうかと思ってたのに。残念。」
「ふふ、残念でした。相変わらず詰めが甘いわね。ごまかせると思った?」
「ネトゲのせいかも。」
「なんだそりゃ。」
お互い銃を下ろし、いつも通りの会話をしながら笑いあう。先ほどまでパイプ椅子を投げていたとは思えないくらい別人だ。瑛梨奈を本気で怒らせないようにとクラスのみんなには注意しておこう。
しかし1発浴びたのは紛れもない事実。これは悔しいので今回の反省点だな。
私は立っているのがきつかったので瑛梨奈の肩を借り食堂の椅子に腰かける。膝まである体操服のズボンをまくり上げ着弾した太腿を確認すると、真っ赤に腫れていた。瑛梨奈は、「うわぁ」と声を漏らし眉を顰める。すぐ腰に巻いた医療用ポーチの中から消毒液と湿布を取り出し、手当てをしてくれた。私が彼女の頭を撫でるとにんまりと微笑み、それを見て私も頬が緩んだ。
「歩けるようになるまで休憩してよっか。」
そうね、と返し食堂を見渡す。体力を使い、戦いの緊張感から解放されたのでお腹がすいてくる。恥ずかしいからお腹を鳴らさないように気を付けているとトランシーバーの残骸が目に入る。瑛梨奈が私の気を引くために落とし、自らゴム弾で破壊したものだ。見事なまでに粉々なそれを見つけて私はある事を思い出す。
「そういえばあんたトランシーバーにまで通信妨害したでしょ!もう、すごく困ったんだから!そのせいで中川さんと通信できなくなるし5班の状況が分からないし、うちのリーダーさんは暴走しかけるし。」
「えっ?あたしがやったのは発信機だけだよ。自分たちの位置情報さえごまかせれば充分だったからトランシーバーには、ジャミングかけてないよ。」
耳を疑ったが、彼女がそういうのなら嘘ではないのだろう。
嫌な予感がする。冷や汗が流れ、不安が押し寄せる。
「じゃあ、いったい、誰が・・・?」
ー同刻、3班陣地ー
力なく倒れている3班の3人。王様の目の前には、1人の男が立っている。
「やれやれ。さすがに3人も護衛がいると手間がかかってしまったな。さて、3班は制圧完了か。」
男は、左手でメガネをクイっとあげ右手に持った銃を王様に向ける。
「やめ・・・て、くだ・・・さい・・・。」
お腹を押さえ倒れている畑野絵里がその男に向けて言葉を発するがそれは届かない。
銃を取り上げられている以上、反撃も出来ない。
「最下位、おめでとう。」
男は、躊躇うことなく引き金を引いた。




