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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めました。――  作者: たけまこと
第四章 ――自  立――
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ガレリア

 アステカ・コロニーの避難シェルターに指定された体育館では、設置されていた大型のモニターに外で起きているの戦争の様子が映し出されていた。


 公営放送の報道特別番組だそうで有る。アナウンサーはスポーツの実況でもしているように戦況をリポートしている。映し出される両軍の兵器の特性などがビデオを使って克明に説明されていた。


「おい、ジャンちゃんと写っているか?」

 避難シェルターのコントロールルームでシンが悪戦苦闘していた。どうもこういった機械は苦手だ。


「大丈夫ちゃんと写っていますよ。ちゃんと講習でやった通りやれば出来ますよ。」

「俺に機械を任せようって方が大体間違っているんだ。」シンがブツブツ言う。

「放送は安定していますよ。みんなに戦況を見せておけば安心しますから。」


「公営放送だからな、戦況が不利になったらカメラが壊れたとか言って放送を中断しかねない。放送が切れたら住民から文句が出るぞ。」

 シンは公営放送にはいつも不満を感じていた。


「そんな心配は有りませんよ。そこまで公営放送も馬鹿じゃ無いでしょう。」

「まあいいさ。それより食料の配給予定はどうなっている?」

「そこのコンピューターで確認出来ますよ。」

「だからどこを見ればいいのか聞いているんだ。」

 シンは苛立った様子で聞き返す。


「仕方ないなあ、ここですよ。」

 ジャンが表示を切り替えて説明してくれる。

「配給まで後3時間位か人数分は十分に用意されているな。配給ボランティアを募らなくちゃならんな。」

「大丈夫ですよ。それまでには戦闘は終わっていますから。」ジャンが気楽に答える。


 敵の目標はこのコロニーだぞ。ここが破壊されたり敵が侵攻してきたらどうするつもりなんだ。口にこそ出さなかったがシンはジャンの様な気楽な考え方はしていなかった。

 軍人の仕事と言うのは最悪の事態に備えて国民を守ることだ。シンはそういう信念で軍人になった。退役後もその信念には変わりなく予備役に登録していた。

 年に3週間の訓練を受け、今回は避難シェルターの管理業務を命じられたのだった。


 シンはタバコを取り出し口に咥える。

「シンさん。シェルターは閉鎖中です。閉鎖中は全館禁煙です。放送でも繰り返し言っているでしょう。」

 いきなりジャンに怒鳴らる。どうもこいつはタバコに恨みでも有るらしい。

「わかった、判った。」

 仕方なくシンは咥えたタバコを戻すとポケットにしまった。後で便所に行って吸うことにしよう。


 体育館のモニターでは漆黒の宇宙空間の半分を占める木星の映像を背景に多数の戦艦同士が砲火を交えているところが映しだされている。所々で爆発の光がきらめく。

「ママ、すごく綺麗。」アリシアが映像を見てはしゃぐ。


 この子はまだ戦争というものがどういうものなのかは理解できていないのだ。クレアシスはそう思った。あの光が輝く度に何人かのほとが死ぬ。あなたのパパもあの宇宙に出て行って戦争をしてくるのよ。

 クレアシスは自分の夫の無事を祈りながら娘のアリシアを抱きしめていた。


 ひときわ目立つのが巨大な衛星を改造した戦艦である。コロニー並の大きさの衛星を戦艦に改造してここまで持ってきたのだ。その威容の前では木星軍の戦艦ですら小さく見える。こんな怪物を止めることなど出来るものだろうか?

 しかしアナウンサーはこの戦艦はアステカ・コロニーの脇を通り過ぎるだけでありコロニーに衝突することは無いとアナウンスしている。

 戦闘はこの戦艦を中心に行われており戦艦がコロニーを通り過ぎるまで続くであろうと言っていた。


 敵に被害の報が出る度に歓声を上げる大人がいる。彼らには戦争に出ている家族や親族はいないのだろうか?それとも祖国のために戦い死ぬことが名誉であり義務であると本気で思っているのだろうか?

 夫が戦闘機パイロットとして従軍しているクレアシスにはとてもそんな考えは持てなかった。クレアシスにとってはバラライトがどうなろうともただ夫が無事に戻ってくることを祈るだけであった。


 しかしもしそんな事を人前で言えば「非国民。」「臆病者。」という非難の声が周りじゅうから浴びせられるだろう。そのほとんどの人間が家族や親族を戦争に出しているのである。自分の国の安全より家族の安全を大事にするのはけしからんという論法である。


 人はかくも醜くなれるらしい。自分の家族が死んで他人の家族が生き残るのが不満なのであろう。その逆もありえるというのに。

 国の仕事は戦争を起こさない事で有るのにもかかわらず戦争が起きれば国民に死ぬことを要求する。それに同調する国民が如何に多い事か。

 番組では新兵器のファルコンが出撃し目覚ましい戦果を上げていると報じられている。夫が出撃する前に戦争の帰趨が決してくれれば良いと思っていた


 戦闘機の出撃の報がテロップで流される。それを見たくレアシスは娘を強く抱きしめた。いよいよ夫が戦闘地域に出撃するのだ。

 戦闘機パイロットの死亡率が高いと言うことは日頃から良く聞かされている。宇宙では戦闘機のような脆弱な兵器は生き残れないのだ。戦闘機の発進シーンが放映され始める。周り中から歓声が上がる。


 その声に耳を塞ぎながらクレアシスは娘を抱きしめ夫の無事を祈り続けていた。




 地球軍に取ってラグビーボールの出現は想定外であった。


 驚くほどの機動性は艦砲の照準を狂わしてしまうほどであり、その先端に付けられた砲は戦艦並の威力の有るものであった。

「いくら機動性があってもあんな兵装では排熱が追いつく訳がない。それ程の弾数を持ち得ない筈だ。とにかく耐えるしか無い。直ぐに燃料が尽きて引き上げるに違いない。」


 その言葉通りしばらく圧倒的な火力で艦隊を蹂躙するとそのままトリポールに向かって引き上げ始めた。

 しかしその間何隻もの艦が被害を受けた。しかも隊形をズタズタにされ、大穴の開いた艦で作戦活動を行わざるを得ない。その間に下方の艦隊が接近してくる。


 ヘリオスの影に隠れコロニーから出撃する艦隊の砲撃をかわす。しかし前方から出撃してきた艦隊は既に地球艦隊を通り過ぎ、後方から攻撃出来る位置に着きつつ有る。突撃艦の発車時間までとにかく耐えなくてはならない地球軍はヘリオスに隠れながら周囲の艦隊と打ち合いを続けた。味方も相当な被害を受けるが敵もかなりの被害を出している模様だ。


 戦況を変えたのは再び出現したラグビーボールであった。驚くべき加速度でヘリオスに肉薄し旋回砲塔の射撃をかわすとヘリオスを回りこんで戦艦を攻撃し始めた。


「攻撃機全機発進。戦闘機部隊はラグビーボールを迎撃、攻撃部隊は敵戦闘艦を攻撃、目標は当初の予定通り。ヘリオスは対艦ミサイル順次発射しろ、目標はヘリオス西側はコロニー防衛艦隊へ東側は下方の敵艦隊。」

 提督は残った攻撃機に対し全機出撃命令が出た。出撃した攻撃機は目標に向かって加速する。同時にヘリオス表面からミサイルが発射されコロニー防衛艦隊に向かって飛行していく。艦隊は副砲を使ってミサイルを迎撃する。


 コロニーからは長距離砲を使ってミサイル発射地点を攻撃し大穴を開ける。しかしその部分のミサイルは既に発射され残っているのは発射筒だけである。

 ヘリオスには旋回砲塔の他に大量のミサイル発射筒を各所に埋め込み氷で偽装していたた。ミサイルは発射まで発熱しないので探知は不可能である。ヘリオスには史上最大の戦艦としての機能が与えられていた。


 戦闘はまさに佳境を迎えようとしていた。最接近に向けなるべく戦場を混沌とさせて置くことが重要であった。敵艦を全滅させる事は戦力差から考えても不可能である。要は突撃艦の発進まで戦場を作り出し敵味方双方を戦場に引きずり出して突撃艦の発進に際し敵味方の艦隊が入り乱れた状態を作り突撃艦の侵入を容易にさせることがこの戦闘の目的である。


 しかし此処でファルコンの出現は想定外であった。驚くほどの運動能力はあまりにも非実用的な兵器であった。極端に戦闘時間に限りが出すぎる兵器であり常識的には実用には供しにくい。

 しかし防衛のみを目的とした局地戦兵器としては恐るべき性能と言わざるを得ない。侵略をしようとする軍隊と防衛をしようとする軍隊の兵装に対する考え方が180度違っているのは当然の事である。


 ファルコンはヘリオスの砲撃を交わし安々と回りこむと恐ろしいほどの速度で戦艦を一撃すると直ちに離脱した。

 地球軍がファルコンに戦闘を集中すると後方に回り込みつつある艦隊から砲撃を受ける。徐々に地球艦隊は消耗し始めた。

 戦闘機はファルコンには全くの無力であった。そもそも加速力が違いすぎる。ファルコンは戦闘機から発射されたミサイルより高い加速力でそれを振り切った。

 

 戦況は地球軍にとって不利であった。ファルコンの出現が戦況を大きく変えてしまった。これ程の機動性と攻撃能力を持つ機体は人間の操るものではない。そもそもあれだけのGには耐えられまい。木星側は地球とは違うアプローチで無機頭脳を作ったに違いない。兵器としてこれほどの性能を出せる無機頭脳を木星政府は作り上げたのだ。


「ヘリオスへの撤退を考えた方が良いかも知れません。」

「うう~む」提督は黙って戦況を分析していた。

 この状態では被害が大きすぎる。ここはあきらめてヘリオスに撤退し戦場を離れるべきか?しかし今回の戦闘で戦力差は大きく開く事になる。このまま引き上げても今度はアナンケが侵攻を受ける事になり、この戦力ではアナンケを守る事すら出来なくなる。

 何よりここで戦果を上げなければ自治コロニーに対し外交的戦略の敗北にもなる。しかしこのまま全滅するまで戦うわけにも行かない。


『核パルスフレアー確認!木星表面で最大加速をかけています。直ぐにこちらの高度まで上昇して来ます。』

 突然コンピューターが報告してきた。


「なに?」提督が聞き返す。

「スクリーンに表示します。」

 正面の大型スクリーンに望遠鏡の画像が映しだされた。木星の表面近くに強い光を発する光点が見える。

「何者だ?敵か?なぜこんなに接近するまでわからなかった?」

「ECMが強すぎます。先ほどいきなり光点が現れました。」


 味方であるはずが無い。それとも地球政府が我々に黙って増援を送った?そんな夢想的なことは考えられまい。提督は考えた此処で新たな敵が現れたと言うことになれば戦況は決定的になる。

 核パルスフレアと言うことは大型の戦艦ということになる。これはもう撤退を考えなくてはならない。


「フレアーの規模が戦艦にしては大きすぎます。ガレリアではないかと思われます。」

「なに?ガレリアだと?」

 

 フレアの規模からガレリアでは無いかとの報告が上がってきた。ガレリア程の大きさの核パルスエンジンは木星連邦にも無いわけではないがそれを駆動するような兵器が有るとも思えない。

「ばかな、チップ・パーレイ艦長は何を考えているんだみすみすガレリアを敵に拿捕させるようなものだ。」


 そう言っている間にも光点はどんどん近づいてきた。ガレリアの質量を考えると恐ろしいほどの加速力である。

「フレアーが100キロにも伸びています。核パルスエンジンの作動限界を超えています。」

「あんな加速をしたらエンジンが溶けてしまうぞ。」


「いえ、反動物質の大量投入による加速です。イオン化した炎が大きく吹き出しています。エンジンを壊すつもりなら出来るでしょう。信号弾を上げて僚艦のフレア線上からの撤退を命じて下さい。」ヘンリー・ノリス参謀が進言する。


 加速をして来るガレリアの速度はどんどん下がっている木星表面ぎりぎりの軌道をとっていたガレリアはイオによるフライバイで一気に高度を上げてきたのだしかしこのままの速度ではトリポールの軌道上にとどまるには速度が早すぎる。その為に核パルスエンジンで減速をかけているのだ。

 程無くこの戦闘空域に達することになる。おそらくガレリアは戦闘空域を縦断して行くつもりなのだろう。一体どういう考えなんだ。


 何発もの信号弾が打ち上げられる。無線による相互通信はほとんど不可能な状態である。使用可能なのはレーザー通信のみであるがこのように戦線が交錯した状態での単機相互の連絡は難しかった。

 緊急時の連絡方法としてもっとも有効だったものが信号弾だと言うのも科学がもたらした皮肉と言えるかも入れない。


「敵もフレアー線上から撤退しています。」


 ガレリアは戦場の真っ只中に出現した為必然的に敵味方相互に戦線の建て直しを余儀なくされた。敵は敵、味方は味方相互に集結を始めた。戦場は大きくその位置関係を変え始めた。

「これで戦場は2分されましたな。」


「いずれにせよ戦況を立て直す絶好の機会だ直ちに戦線を再構築させろ。」




「アリス、起きてください。」シンシアの声が聞こえる。


 毎朝母の声でで目を覚ますアリスはいつもの朝が来た。そう思って目を開けるとそこには作業ロボットの姿があった。昨日有った事が夢で有れば良かったのに。

 そう思いながらも現実の状況を受け入れざるを得なかった。大好きだった母の体は死んだのだ。


「おはようママ。」アリスは現実の母親の姿に力なく挨拶をした。

「着替えたら操縦室に行ってください。目的地に着きました。」

「ママは?」

「朝食の用意をしたら私も行きます。」

「はいママ。」


 昨日脱いだ服はちゃんとたたまれて枕元に置いてあった。その上に歯ブラシも乗っていた。さすがにママはそつが無い。


 操縦室に行くとすぐ後から作業ロボットが朝食を持って上がってきた。簡単なサンドイッチと飲料チューブだ。

「それからこれを肩から掛けて持っていて下さい。」

 シンシアは食料と水にサバイバルキットの入ったポシェットをアリスに渡した。


「如何なる危機が訪れても食べることが出来れば人は落ち着くことができます。この先何時食べられるかは判りません。これを手放しては行けませんよ。」

「うん。わかった。」

 アリスはポシェットを肩からたすきに掛けてベルトを締める。艦長席に座り手早く食事を済ませた。


「ママあれはなに?」

 アリスは大型スクリーンに映った強い光点を指して言った。

「あれがガレリアです。戦場に向かって減速をかけています。」

 ガレリアがどんな姿をしているのかアリスには想像もつかなかった。ただシンシアの話によれば強力な兵器らしいとは思っていた。


「これから私達はどうするの?」

「ガレリアの中に入ります。」

「私達、入れてもらえるのかしら?」


 そんな強力な船がアリスを迎え入れてくれるのか不安になった。


「大丈夫です。ガレリアが誘導してくれます。」

『艦船が当方の交差軌道に入りましたニアミスの危険性が有ります。右に転舵致します。』

 突然接近警報が鳴りコンピューターが警告する。近くに船が近づいたようだ。スクリーンに小型機が映る。


「地球軍の小型戦闘艇です。こちらを見つけたようです。」

「え?ど、どうなるの?攻撃されるの?」

「はい、識別信号を出さないものは全て敵と考えますから。」

「ど、どうしよう。」

 アリスは作業ロボットに駆け寄るとその腕にしがみついた。体が震えたていた。


「今、識別信号を出しました。しかし電波妨害が激しくて受信できたかどうかわかりません。アリスそこの椅子に座ってベルトを締めてください。」

 アリスが艦長席に座ってベルトを締める。突然小型艇が爆発し、スクリーンは真っ白になった。


「た、大変あの船爆発しちゃったよ。」

「木星側の機体がもう一機います。」

 スクリーン上にもう一機が現れアリスたちの乗った船の近くを通過した。


『警告!艦船事故、警告!艦船事故、警備隊に通報して下さい。警告!再度ニアミスが有りました。』

 コンピューターは戦争状態を認識せず通常の警告を繰り返す。


「ママっ私たちどうなるの?」アリスが恐怖の声を上げる。


 今はどちらの軍から攻撃されてもおかしくは無い。直感的にアリスはそう感じた。その間に戻ってきた機体はアリス達の横にぴたりと付いた。


「大丈夫です。あの機体は敵ではありません。私たちを守ってくれます。」

「良かった私たちが木星の船だって判ったのね。」

「いいえ、違います。なぜか判りませんがあの機体は我々にひどく友好的です。ECMが激しく十分な交信が出来ませんがそのように通信して来ました。我々がガレリアに乗り込むまで護衛してくれます。どうやらあの機体に乗っているのは無機頭脳のようです。」




 激しく噴出すフレアーが止むとガレリアは核パルスエンジンを切り離し、ゆっくりと丸い機体が回転し始める。


「やはりガレリアだ。」

「なんだってこんなところに来たんだ。絶好の標的じゃないか。」

「直ちにガレリアに通信し。現空域からの離脱を指示せよ。」

「ECMの為に通信は今だ出来ません。信号弾を打ち上げます。」

 全身真っ黒な船体がゆっくり回転する。突然アステカからコロニー砲が打ち込まれる。打ち込まれたところが真っ赤になるが直ぐに元に戻る。


「全身真っ黒で電波吸収材を全体に張ってあります。発見が遅れたのはその為でしょう。」

「なんだあれは?」

 ゆっくり回転するガレリアの球形のボディの赤道部分に三角形の盛り上がり有り、機体を一周していた。


「あのベルトのような出っ張りは何だ?あんなものいつの間に作ったんだ?」。

「分かれた時には有りませんでしたよね。」

 回転が進むと北極部分の艦内ドッグの進入口に大きな蓋が盛り上がっていた。どうやら補強でもしたのだろうか?見方によっては目玉のようにも見える。


 まだガレリアに取り付く戦闘艦の姿は無い。完全に不意を付かれた出現にフォーメーションの組み直しが出来ないのだ。新型の戦艦の出現と考えたアステカコロニーはガレリアに集中的な砲撃を加え始めた。

 地球軍側は自分達への攻撃が減り始めたのに乗じて体制の立て直しを図る。ヘリオスの裏側に集合し防御フォーメーションをとり始めた。その一方ヘリオスの旋回砲塔は敵艦からの防御からアステカコロニーの砲台部分への攻撃の余裕が出来るようになった。


「ラグビーボールが引き上げます。」


 驚異的な性能で地球軍に大打撃を与えたファルコンは一斉に引き上げ始めた。

「どうやらアステカはガレリアをターゲットに変えたようだな。」

「我々は助かりますがあれではガレリアはひとたまりもないでしょう。」


 ガレリアがヘリオスとアステカの間に割って入ってくる。速度を合わせてはいるが相対速度はヘリオスよりまだ早い。アステカとの交戦時間はそれ程長くは取れない筈だ。


 アステカからガレリアに向かって何条もの光線が延びる。まだ距離がある。長距離砲はガレリアに当たってはいるが外部に張られた電波吸収材はかなりの耐火性を有しているらしい。レーザーが当たっても赤くなるだけでやがて元に戻る。

 スペクトル分析によると放熱性が非常に高いようだ。我々の戦艦にも断熱材は使われているが最外部に一次装甲は鏡面仕上げで2次装甲が耐熱装甲だ。あんな真っ黒な耐熱装甲は見たことが無い。


「中の乗員は大丈夫なのだろうか?相当に内部の温度は上がっているだろう。」

「判りません。そもそもあんな外部被覆材は私も初めてですから。」

「あれはガレリアの発明なのか?。」


「は?ま、まさか。それにしてもパーレイ艦長はどういうつもりなのでしょうか。」

「ガレリアとの通信はまだ確立出来ないのか?」

 参謀も想定外のガレリアの出現に何をどう考えればいいのか決められずにいた。そもそも命令を無視してガレリアを戦闘空域に連れてきたパーレイ艦長はここまでガレリアを危険に晒した責任をどう考えているのだろうか?



 そのガレリアの内部は現在では人一人おらず完全な無人航行を行なっている事を知るものはいなかった。


アクセスいただいてありがとうございます。

登場人物

ベネデット・カステッリ提督    木星遠征隊の司令官

ヘンリー・ノリス参謀       提督の参謀

ティコ・ブラーエ艦長       木星遠征隊 旗艦カンサスの艦長

ドーキンス・ガラン        軍人 駆逐艦バンデット搭乗 中尉

スティーブン・ワイヴェル     地球軍所属 駆逐艦バンデット艦長

グリッド・サンバリー       木星軍所属 護衛艦ワインダー艦長 

ヘリオス             木星の衛星のひとつ、地球軍によって兵装され戦艦として運用

戦争は引き時が肝心です、撤退の見極めのできない司令官に付いた兵士は不幸です

戦場に行かない戦争屋には所詮、対岸の火事にすぎません…以下業火の次号へ


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