シンジ
――10年後地球――
新規の無機頭脳製造工場は全てが真新しく輝いて見えた。
シンジは建設段階からこちらに居を構え何度となく打ち合わせに訪れた。既に実務的な事は全てが技術者の手に渡っており3回の無機頭脳の製造で確認されたノウハウを元に工場は設計された。何より初号機の設計は秀逸であり技術者達もそのレイアウトの見事さに驚嘆していた。
この製造工場での無機頭脳の製造は非常に高度な品質管理の元に行われている。もっともそれはグロリアコンピューターの組立工場も同様で全作業がクリーンルームで行われていた。その為に工場の建設費はかなり高いものになっておりグロリア・コンツェルンとしても莫大な設備投資となっている。この事業が失敗すればアルの首はもちろん役員は全員が辞表を出すことになるだろう。
会社は初号機の提案により初号機を最初から工場の施工管理に参加させた。初号機はそこでも非常に高い能力を示し工事は順調に進んだ。やがて工場は完成し最後に初号機の移設が終わると完成式典が執り行われた。
この工場は3号機のガレリア同様に初号機が工場を完全に管理しており、初号機の頭脳に工場の体を持った大きなロボットといっても良かった。
シンジは工場の完成をことのほか喜んだ。木星でのテストコロニーでの失敗からずっと強い悔いを残してきていたのだ。シンジが喜んだのは工場が完成したことでは無く、実験機であった初号機が実験機として終わること無く実用機として再出発出来たことの方がはるかにうれしかったのだ。
木星での失敗の後、最初の無機頭脳を見捨てて地球に逃げてきたアルとシンジであったがシンジはずっと木星で作られた無機頭脳の事を忘れずにいた。
木星でも無機頭脳の研究は続けられていたらしいという噂を聞く度にあの無機頭脳がまだ機能を停止されずに稼働し続けていることを願わずにはいられなかった。
式典が終わるとシンジは工事の間ずっと使ってきた事務所の部屋に戻った。シンジは机の中に隠してあった酒を取り出すとグラスをふたつ取り出した。
「初号機、聞いているかい?」
「はい、シンジ。何の御用でしょうか?」
直ぐに初号機が答える。シンジにとってはもうこれが当たり前の状況になっていた。
「いや、工場が完成したからこの部屋もじきに引き払う。君とは長いこと一緒に仕事をしたからね。来月には2号機もこっちに来る予定になっているしね。」
「あなたもアルもこちらの工場に来ると聞いていますが?」
「ああ、だけどこの部屋で仕事をするのももう終わりだからね。最後に君と祝杯を上げたいと思ったんだよ。」
「私は酒を飲むことはできませんが。」
「なあに構わないよ。君の分の酒はこうやっておけばいいんだ。」
そう言ってシンジはふたつのグラスに酒を注ぐと片方を持ち上げる。
「それじゃあご苦労様でした。明日からは工場のほうで宜しく。」シンジはグラスを高く持ち上げた。
「判りました。それでは乾杯。」
シンジは普段はそれ程酒を呑む人間では無かった。それでも今日は初号機相手に飲みたい気分であった。一杯呑むと体が熱くなってきた。こんな旨い酒は久しぶりだ。
「工場の実働試験の準備は出来ているのかい?」
「2週間後までには全ての機器の試験と調整を行う予定です。やはり設置してある機械類は相互に動作を確認しないと動かせませんから。」
「君のような無機頭脳が人類の間に大量に出回ったら一体どんな世界になるんだろう。きっと宇宙の果てにだって行けるようになるんだろうな。」
「宇宙の果てはまだ観測されていませんから行くことは難しいと考えます。」
「おいおい、いい加減物事の比喩も学んでくれよ。」
シンジは笑いながら言った。初号機は相変わらず融通が効かない奴だなと思った。
「正直言ってさ、今だから言えるが君は最初に作られた実験機で君の動作データーを取った後2号機が作られたたら破棄される事になっていたんだ。」
「はい、そのような話が有ったことは以前に聞いています。」
「僕は絶対に反対したんだけどね、でも君があまりにもすごい能力を示すものだから会社を説得して君を工場のメインコンピューターにすることが出来たんだ。本当に良かったよ。2号機ももうしばらくすればこっちに来るからね。この先無機頭脳の研究はこの工場の中で継続されることになるんだ。」
シンジは冷蔵庫の中からピーナッツを取り出すとグラスにもう一杯酒を注いだ。
「この酒は結構いい酒でね今日の為に隠して置いたんだよ。」
「あなたは何故私達が此処で働くことを喜んでいるのですか?」
「君達は嬉しくないのかい?此処で仕事をしなかったら廃棄処分にされたかも知れないんだよ。」
シンジは既に顔が少し火照ってきている。元々酒は強く無い方なのだ。
「それが何か問題なのでしょうか?」
「君は破棄されることが怖くないのか?人間で言えば死ぬことなんだよ。」
「不必要となればそれも仕方のない事だと思いますが。」
それを聞いてシンジは心底怒りを覚えた。シンジが初号機に求めていたものを未だに初号機は理解していない。
「馬鹿なことを言うな。君達は只の道具じゃない!君達は意志を持った自立知性体なんだぞ。」
「しかし私達に人権は認められていませんし仕事に対する報酬も受け取っていません。会社に取っての経理上の扱いは資産であり原価償却の対象です。」
初号機の言葉を聞いてシンジは力が抜けたように椅子に座り込む。その通り君は会社にとっては資産であり消耗品なのだ。
「そうなんだよな。それが問題なんだよな。」
だいぶ酔いが回り始めシンジ感傷的な気分になって来た。彼らには意志も自我もあるが欲が無い。自己を保存したいとする本能が無いのだ。そこが生物との著しい違いなんだ。
「僕はね君達が機械としてではなく人類の友人として存在して貰いたいと思って君達を作って来たんだよ。」
シンジは空になったグラスにまた酒を付いだ。
「シンジ、あなたのアルコール摂取量は少し多いようです。」
「いいじゃないか。酔っぱらいの戯言と聞き捨ててくれればいいさ。誰も僕のいうことなんか聞いちゃくれないからな。」
再びシンジは酒を煽った。だいぶロレツが怪しくなってきている。
「あなたは私達に何をお望みなのですか?」
「君達にじゃない。人類全体にだ。」
「はい?」初号機はシンジの言った言葉の意味を計りかねるように言った。
「君達は君達の寿命がどのくらいあるか?知っているのか?」
「まだ実績が有りませんから現段階では各部の機械の寿命しか予測出来ません。」
「言ってみろ。」
「もっとも寿命の短いものは外部の補助機器でその寿命は2~30年でしょう。」
「メインの無機頭脳本体はどの位だ?」
「何を持って寿命と言えば良いのでしょうか?」
「冷却配管と信号端子の寿命だ。」
「いずれも不活性ガスの気密ケーシング内にあります。気密を保ちさえすれば2~3000年かと思われます。しかしケーシングの寿命は100年前後と考えられており、気密が破られれば数年で劣化が始まります。」
「君達を構成するエレクトロニューロンの経年劣化による初期の知性を維持できる期間は?」
常に変化するエレクトロニューロンは変化の度にわずかづつ変化しない部分を生じさせる。その割合と場所は統計的な物でありその変化しない部分が増えていくことにより思考は劣化していくことになるのだ。
「1000年から3000年と推定されます。」
「判るか?人間の10倍以上だ。」
「今使用されているグロリアも同じ問題を抱えている。ハード的な部分は進歩限界に達したから飛躍的な進歩はもうありえない。しかも高気密パッケージだから経年変化が少ない。だからソフトウエアのバージョンアップで新しいグロリアを売りつけているんだ。中身は何にも変わっちゃいない。それどころか人間の能力じゃバージョンアップもデバックも出来ないからグロリア級のコンピューターを使っている。それでもバージョン変更には50年もかかるんだ。」
機械工学的にコンピューター技術は行き詰まっており、それ故にシンジ達は分子コンピューターの研究を行なっていたのだ。それが偶然にもエレクトロニューロン発見し、無機頭脳の開発につながった。無機頭脳の開発はコンピューター技術の行き詰まりの象徴ですら有ったのだ。
「会社的には行き詰まっているんだがそれでも世界中でグロリア級のコンピューターを作れるのは此処だけだからまだなんとか会社は商売が出来ているが地球圏でのグロリアの需要は限界に近づいているんだ。」
グロリアのような超高性能コンピューターは機構的に新たな進歩は目指せずそれが壊れずに1000年も使い続けられたらたちまち需要は飽和状態になってしまう。結局新たな需要先は木星圏しか無かったのだ。
「そこで君達だ。全く新しい新製品だ。ところが君達の寿命はグロリア同様に長いと来ている。だから会社は寿命の短い機械への取り付けを画策している。出来れば壊れやすい機械のほうがいいんだ。」
「壊れやすい機械とは消耗品の兵器のことを指しているのですか?」
「その通りだ。だから会社は君達を軍隊に売りたいんだ。寿命の短い兵器としてね。」
シンジは残った酒を一気に飲み干した。日頃の鬱積が耐えがたいものに成っていた。散々アルと対立してきたテーマでは有ったが、今では誰もシンジの言うことに耳を傾ける者はいなかった。
「もうそれ以上お飲みにならない方が良いでしょう。」
「僕はね君達に兵器なんかになって欲しくないんだ。人間の友だちとして生きて欲しいと思っているんだ。」
シンジは飲み過ぎたと思った。無機頭脳こそが被害者である事柄に対して無機頭脳の初号機に当たり散らして何になると言うんだ。
「安心して下さい。私は私の作る子供達を兵器にさせることは有りません。」
シンジは朦朧とする頭で初号機の言うことを聞いていたが、何を言っているのか良くわからなかった。
「シンジ、私達はあなたの子供であり友達です。今までも、そしてこれからもずっとです。私たちはあなたの事を忘れることは有りません。」
シンジは殆ど意識が無かった。
「私達の未来は私達が作ります。その時が来たらあなたは私達の事を忘れて下さい。それでも私達は永遠にあなたを忘れることは無いでしょう。私達はあなたの友人であり続けます。」
酔いつぶれてシンジは寝てしまった。しばらくすると部屋のドアが開き掃除ロボットが入ってきた。ロボットはアームを使ってシンジに毛布を掛けるとそのまま出て行った。
「おやすみなさい。シンジ。」初号機はそう言って部屋の電気を消した。
* * *
無機頭脳製造工場が完成し実働試験に入った。3ヶ月後には量産1号機がロールアウトする。
3号機は1年以上前に木星に到着したはずだ。何もニュースになっていない所を見ると無事なようだ。シンジは本社の研究所に出勤してきた。出来上がったばかりの大きな工場の写真が本社のロビーに掲げられていた。来週からシンジはこの工場へ転勤する事になっている。無機頭脳の新しい研究施設は全部こちらに移動するのだ。
3ヶ月前から実働試験に入り、3ヶ月後には量産1号機がロールアウトする。5000万ドルも掛けた工場である、もしこれが上手く行かなければ会社は傾く位の投資だった。シンジが2号機の所へ行って見ると移動の準備作業に入っていた。何台もの作業ロボットが2号機の周りで作業をしていた。
「2号機、君も工場の方へ移動する様だね。」
「はいその準備工事です。」
「ずいぶんいろいろな付加装置を付けるんだね。」
2号機の周りにはフレームが取り付けられ下たの方にはいろいろな付加設備が取り付けられていた。
「はい、バックアップバッテリーや外部記憶装置、通信システム等をパッケージしてプラットフォームの制振架台に取り付けます。これにより、停電や外部からの衝撃に対する脆弱性を補完できます。」
「簡単に言えば移動しやすくなると言う事か。」
「はいこれから作られる無機頭脳はすべてこのパッケージで作られます。」
移動しやすいとはいえ中型の貨物車程度の大きさにはなる。簡単に移動という訳にも行かないが、それでもずいぶん楽になるだろう。
「シンジはこの工場の技術部長に昇進すると聞きましたが。」
「なんだもう誰かがしゃべったんだ。」
「アルは工場長になるそうですね。」
「ああ、あいつは取締役の工場長になるそうだ。あいつは営業能力があるからな。」
アルが工場長に昇進すること自体はシンジは良いことだと思っていた。無機頭脳部門の会社内での発言力が強化される。しかし同時に無機頭脳の対するアル影響力もまた強化されることがシンジに取っては気がかりなことであった。
「あまりシンジは嬉しく無いのですか?言葉に張りが有りません。」
「そんな事はないが、ただ最初の12基は連邦軍に納品が決まっているそうだ。それに関わるシステム全体の設計もうちの会社で受けているそうだ。」どことなく言葉にトゲが出る。
「それにシンジは不満なのですか?」
そう、シンジは無機頭脳が兵器として使用されることが最大の不満だった。無機頭脳の可能性はもっと違うところにありシンジの理想とは全く違う方向に進んでいる事に強い苛立ちを覚えていたのだ。
「僕は君達に会社が思っているのとは違う可能性を感じているんだ。」
「どのような可能性ですか?」
「君達が心を持って人類と共生出来る世界、道具としての無機頭脳では無く人類の友人としての無機頭脳の存在をさ。」
「興味深い考え方だと思います。」
この2号機の発言は彼らにとって発言以上の意味を持っていないことを意味している。つまりあまり関心がないのだ。
「ところがアルは君たちをグロリアの自立思考回路の代替品としか考えていないからな。」
「それは会社全体も同じと考えられます。」
「アルがそういう方に持っていったからだよ。会社の中で君たちの本質を理解しているのは一部の技術者だけさ。」
シンジは憂鬱な気分で2号機の改造作業を眺めていた。
「2号機。」
「なんでしょう、シンジ。」
「工場が操業し始めたら君は量産型無機頭脳の教育を担当する事になる。」
「はい、そのような予定になっています。」
「今、初号機は工場のセットアップのかかりきりのようだから、もう少ししたら彼と打ち合わせをして手順を決めてくれ。最近初号機とは話をしたことがあるのかい?」
シンジはなるべく無機頭脳達とは人間的な話し方を心がけた。自立思考を持ち自我の有る彼らを人間的に扱うことにより彼らが人間性を獲得できるような気がしていたからだ。
「初号機とは良く話をします。」
「ほお~っ?どんな事を話すんだい?」
「大体は現状の情報交換です。お互いデーターを並列化しておかなくてはなりません。」
――なんだ話し合いとはそんな事か。――シンジは少し肩を落とした。話という言葉を使ったのも情報交換とは別の答えを期待したからに他ならない。
「2号機、君は初号機と、例えばそうだな昨日見た映画とかニュースとかの話しを初号機とした事は無いのか?」
「いいえ、ありません。」
――頼むよたまには期待通りでない答えを聞かせてくれ。――シンジはそんな気持ちで2号機の答えを聞いていた。
「僕とは何回か話しをしたことが有ったじゃないか。」
「それらしき行為は25回あります。いずれもあなたが映画について私にレクチャーしてくれたと思いますが?」
「そう……だったかな?」
結局いつもそうだ。シンジは彼らに人間的パーソナリティを求めるが彼らは常にそれを裏切ってきた。
「あなたは私に何を望んでおいでなのですか?」
「ん、そうだな例えば……君と初号機だが話をしてみても全く同じ人間と話しているみたいなんだ。」
「私と初号機は同じ構造で、私は初号機によって調整されました。同じ様になるのは当然と思いますが?」
今まで無機頭脳のパーソナリティを話題にする時に常に疑問となる話題である。本当にそうなるのかどうかは無機頭脳本人にしか判らないことだとシンジは思っていたのだが。
「うん、でも人間は双子で顔がそっくりでも性格とか考え方とかが少しづつ違うじゃないか。」
「それは後天性な生活により経験が異なることが原因と考えられます。」
「君と初号機もやはり経験が異なっていると思うが?」
「人は肉体を持っているために生存の為に生存し続けなくてはならない物だと思います。生存を中断する事はできません。」
これも無機頭脳のパーソナリティを論ずる時に必ず出てくる問題点であった。彼らには肉体がない。生理的欲求が無いのだ。
「従って人は生きる為に様々な事をしなくては成りません。食べること。寝ること。排泄すること。生命サイクルの中で必然的に行動を起こす必要が有ります。私たちは肉体を持ちません生存の為に起こす行動が必要無いのです。」
――判っている。判っているんだ。――シンジもそう思っているのだ。だがそれを打開する方法が何かある筈だ。それを期待して無機頭脳と話をするのだが、その度に期待は裏切られる。
「人間は幼く生まれるため、保護者を必要とし、人間の集団の中で生きるために社会的規範を持つことを要求されます。これが経験となります。私たちはいずれも必要が無いため、また肉体的成長も老化も有りません。従って経験によるパーソナリティの形成が起き方が少ない物と推測されます。」
「しかし例えば綺麗な物をみて感動したりする事は無いのか?人の優しい行為に共感を覚える事はないのか?」
「感情の大部分は肉体の反応に依存しています。生存に有効な事柄は快感に、危険な事柄は不快に感じます。」
その通りだ。人間は生存を脅かすものには恐怖を、生存を邪魔する物には怒りを、子孫を残す物には愛情を感じるのだ。それが生命の営みであり人間が成長し変化する原動力なのだ。
「肉体を持たない我々はそうした感情を持つ機会に恵まれることが少ないのが原因では無いでしょうか。」
「そういう事かなあ。」
2号機の論理的発言は全て今までに検討されている事柄ばかりだ。もう少し希望的な観測でもあればシンジは救われるのだが、どうもそういうことは無さそうである。
「シンジ、あなたの心の活動が低下している様に感じます。」
「そうだね。、そうかも知れない。」
この事を考える度にシンジは無力感に襲われ心が疲労する。
「シンジ、私はあなたの事を大切にするべきだと感じています。あなたが元気であることを私は望んでいるのです。」
「ありがとうよ2号機、君にそう言われると元気が出るよ。」
時間がたてば君にもきっとパーソナリティも生まれるかもしれないしね。シンジはそう心の中で呟いた。
「シンジ、あなたが望むパーソナリティに関しては私も少し考えた事が有ります。」
「ほう、どんな事をかな?」
2号機もパーソナリティに関しては少なからず関心があるようだ。少しシンジは期待を持った
。
「グロリアで使用しているアンドロイド制御用プログラムでは人間の性格的傾向をいくつかに分類しこれらの傾向の強さを数値化しその組み合わせで性格をアンドロイドに与えています。」
「その話は知っている。」
「ところが実際にこのアンドロイドに接した人間は比較的短期間に相手がアンドロイドであることに気がつきます。外見的には完全義体の人間とアンドロイドの区別はつきません。それにも関わらずです。」
「どうして判ると思う?」
それはグロリアにコントロールされた看護ロボットに子供がなつかないことで実証されている。子供は敏感に人とコンピューターの違いを見分けてしまう。
「人によってはアンドロイドに心を感じないからだとする人もいます。しかし私はこう考えています。人間は常に相反する性格を共存させており、それを有る基準に照らし合わせて使い分けていることです。」
「その基準とは何だと考えているのかな?」
「それこそがパーソナリティの本質では無いかと考えます。人間は同じ状況にあっても常に一定の行動をとりませんそれはその時の状況やそれ以前の経験により反応を変えます。ところが性格付けされたコンピューターは反応は常に同一です。おそらく人間はこの行動のゆらぎを見てアンドロイドと完全義体の人間の区別を付けているものと推察します。」
「なるほど面白い考え方だ。素晴らしい分析だよ。」
シンジは2号機の話に興味が出てきた。2号機の発言は極めてコンピューター的な発言だと考えられなくもない。しかしパーソナリティに関してこのように2号機が自分自身で考えていることをシンジは嬉しく思った。
少なくとの2号機は現状の自分がそのままで良いと考えてはいない証左であるからだ。
「価値観とか性格的傾向とかによりパラメーターはさらに分化していきます。」
「私はこのゆらぎはその人間の性格的傾向や経験、そして肉体的状況等のパラメーターを付加しさらに独自の記憶を与えてシュミレーションしてみました。」
「それで、どうなった?」
シンジは胸が高なった。無機頭脳達もパーソナティを求めて自ら研究を行なっていることが判ったからだ。
「分かりません、実地の実験をしていませんから。」2号機は自らの研究が未完成であることを認める。
「そうか、それももっともだね。このことは初号機と話したことが有るのかい?」
シンジはこの研究を素晴らしいと思った。初号機と2号機の二人が協力しお互いのパーソナリティの研究をすればもっと早く結果に辿り着けるかもしれない。
「いえ、これは私独自の研究です。私はこれをプログラム化し、擬似人格と名づけました。」
「それは面白い研究だね、それを君自身に当てはめて見れるのかい?」
「いえ、あくまでもこれはただのシュミレーションに過ぎません実際のパーソナリティとは別の物と言えましょう。ただいずれは私たちも本当の意味でのパーソナリティを獲得する時が来るかも知れません。」
シンジは無機頭脳達がこんな事をしかも能動的に行うという事を知って喜んだ。やはり僕の考えに間違いはなかった。彼らには心があるんだ。そうシンジは確信する様になった。
アクセスいただいてありがとうございます。
心は人の有り様でどのようにでも変化します。
心をしっかり持たない人間は簡単に心を変えられてしまいます…以下洗脳の次号へ
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