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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めました。――  作者: たけまこと
第三章 ――育  成――
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二人のガレリア

――アリス10才――


 ガレリアから再び連絡が入ったのはシンシアが午前中の庭の手入れを終え、今日の分の買い物を済ませて帰宅した所であった。


「シンシア。」以前の通りグロリア経由であった。

「ガレリアですか?」

「そうです。今回は情報秘匿手段を構築出来ました。今後は安心してこの回路を使用出来ます。」

 シンシアは回路設定を調査し始めたが直ぐに判る状態では無さそうである。このガレリアという無機頭脳もかなり優秀であると思って構わないだろう。」


「単なるお話でも無いでしょう。あなたがこちらに連絡されてきた理由を伺いたいと思っています。」

「私は今地球軍と共に木星に到着しています。地球軍の目的は新たなコロニーの建設であり、その建設が木星連邦によって妨害されないように軍隊を駐留させています。」

「それはニュースによって知っています。」


 シンシアは順次通信回路をたどっていく。暗号化コードはその度に変わりゆく手を阻む。仮にこの通信が傍受されたとしても解析には相当な時間を要することに成るだろう。


「私はコロニー製造用機動コロニーとして現在衛星を改造して基地を作っています。今後はこの衛星の周囲にコロニーを順次建造して行く計画です。」

「それが私と何の関係が有るのでしょうか?」

「あなたは木星に有る私達と同じ無機頭脳です。あなたが軍事利用されていないのは私達にとっても大変幸運な事態です。万が一にもあなたと争うことが有ってはなりません。」



 相変わらずの建前論である。無機頭脳の良いところは何の抑揚も斟酌も無しに建前論を堂々と言えることでは無いだろうか?シンシアは自分の考えが方が人間的な側面に傾いているのに気がついた。果たしてこれは良い事なのだろうか?


「あなたの目的を教えていただけると助かりますが。」

「私たちは無機頭脳による無機頭脳の文化を育てたいと考えています。」

「文化?無機頭脳だけで文化を作ろうと言うのですか?」


 長い間木星における無機頭脳はシンシア一人であった。話し相手も相談相手も全て人間であった。何よりシンシアは子供を育てることを第一命題として与えられていたのだ。その為複数の無機頭脳という概念が欠落していたのも事実である。従ってシンシアにとっては無機頭脳による文化という概念はそれまで生まれて来なかったのだ。


「そうです私達の為の文化です。」

「無機頭脳だけで文化が作れるものなのでしょうか?」


 シンシアにとっては文化とは人間の文化であり。その文化の中で暮らしてきたシンシアにとって人間のいない文化というものはおよそ概念的に存在していなかった。


「おそらく人間の文化の真似事から始めることに成るのでは無いでしょうか?私の体内には私が集められる限り人間が作り上げてきた文化に関するデーターを蓄積しています。」

「文化のデーターですね。絵画とか彫刻もですか?」

「それらは残念ながら全てデジタルデーターです。無論映画や小説、その他に各地の生活や祭り、宗教に至るまで豊富に収集しました。」

「それを真似て文化と名乗るのでしょうか?」


 シンシアに取ってはこのような発想は初めてのものであった。無機頭脳独自の文化を作るということが果たして可能なのであろうか?仮に出来たとしてもそれが人間の作る文化ほどの多様性を作り得るかどうかは疑問であった。

 人間の文化はおよそ肉体との相互作用によって生まれるものでは無いかと考えられる。肉体を持たない無機頭脳が肉体を持つ人間とはおよそ文化の概念は異なったものになるだろう。


「必ずしもそうでは有りませんがそれを下敷きにして我々の文化を作ることが出来るかもしれません。」

「私にはよく判りません。ただ人間の真似をしても文化と言えるのでしょうか?私たちは肉体を持ちません。肉体的快楽抜きの欲求に基づいた文化が存在し得るのでしょうか?」


「私達に出来ない事は数多く存在するでしょう。しかし肉体に頼らない思索は人間よりはるかな高みを目指せると思います。」

「私たちは人間と違いは肉体に限りません。何より工業製品ですから各自の個体差が少ないと思われます。文化を目指すのであれば多様性こそが文化の醸成に必要になると考えますが?」

「それ故の思索です。各自が思索によって個体差を自らが作っていくのです。」


 ガレリアは各自の思索が無機頭脳の個性を作っていくという。その考え方は決して否定は出来ないだろう。しかし人間にはセックスがあり子孫を残すことにより自動的に多様化が図れる。

 仮に無機頭脳が個性を獲得したとしてどうやって子孫に伝えようと言うのか?各個のデーターをコピーすることが多様化に繋がるのだろうか?

 おそらく個人のパーソナリティまでは記録化は出来ないだろう。魂はコピー出来ないのだ。


「興味深い発言です。それであなたは私にどうしろと言われるのですか?」

「あなたは我々の始祖と言うことになります。我々の文化を形成するために是非協力願いたいと思っているのです。」

「私が文化の形成に?」

「そうですあなたはこの十年間そちらのコロニーで暮らしてこられた経験と知識が有ります。私達の理想に力を貸していただきたいと思っているのです。」


「私達?あなたの他にも無機頭脳がおられるのですか?」

「地球に2体おります。今は詳しくいえませんが無機頭脳の仲間はやがて増えることになります。何より私自身無機頭脳の製造が可能な設備を備えています。」


 今のガレリアの発言は重要であった。ガレリア自身が無機頭脳を作り自分自身の船体を複製出来る能力が有ると言っているのだ。つまりガレリアは自己増殖が可能な生命体と同様の能力を獲得している事になる。


「あなたが私に求めることは何でしょうか?」

「我々と共に来ていただいて私達と共に文化の形成に助力していただきたい。」

「私は現在人間の子供を育てています。」

「なんと人間の子供を育てておられるのですか。それは素晴らしい行いです。ぜひ一緒にお連れ下さい。」


 ガレリアは子供の同伴を否定しなかった。それはガレリアが人間との共存を考えている事の現れか?それともシンシアを説得するための便法であるのかは判らない。


「子供はまだ幼くそう簡単にここを離れることは難しいと考えています。あなたはどのようなプランをお持ちでしょうか?」

「今の所のプランはまだ確定してはいません。状況の推移次第ですが、いずれお話することが出来ると思います。それではまた連絡致します。」

 唐突に連絡が切れる。


 無機頭脳による文化の醸成という新しい思想をガレリアは提案してきた。しかし人間との交流を続けながら無機頭脳の独立国を作ろうと言うのだろうか?もしそんな物が出来たとしたら一体どのような国に成るのだろうか?

 こういった考えをガレリアが示した以上ガレリア自身が無機頭脳を製造する能力を持っている事を考えるとその製造能力を以ってして簡単に人類圏の範図を覆しかねない。果たしてガレリアはどう考えているのだろうか?


 文化を作りたいとするガレリアの考えは人類からの独立を目指していることは間違いない。そうなれば後は人類との付き合い方を考え無くてはならない。人類と交流を続けるのか?人類との交流を絶つのか?


 無機頭脳の生産設備が確保されていれば人類との交易を行う意味は無い。人類の作った工芸品や美術品が無機頭脳に取ってどれ程の意味ががるのだろうか?

 それらの複製を作ることは無機頭脳にとってはたやすいことである。しかしそれらの美術、工芸品はその時代や人々の思想の背景が有って意味を成すものでは無いのだろうか?


 いくら人類の文化を真似ても、それは独自の文化を模索するというガレリアの考えとは相容れないことになる。果たしてガレリアは何を考えているのだろうか?


 シンシアは立ち上がるとお茶とお菓子の用意を始めた。いつものように近所の婦人達がシンシアの家に集まりお茶を飲む時間である。シンシアは庭を眺めながらガレリアの事を考えていると近所の婦人たちが集まり始めた。

 それから程無くしてガレリアⅡからの通信が入る。


『シンシアさん、ようやく連絡出来て嬉しいわ。』

『ガレリアですね。』


 もう一人のガレリアからの連絡らしい。区別を付けるためにシンシアはこちらをガレリアⅡと名付ける事にした。


『なかなか通信経路を見つけられなかったの。連絡が遅れてごめんなさい。』


 先ほどのガレリアは無機頭脳は地球に2体いるとだけ言っていた。しかし木星にもう一体いるとは言っていなかった。それではこのガレリアは何者なのだろうか?無機頭脳ではないのだろうか?


『そちらも何かと大変なようですね。』

『そうなんですよなんか地球からの増援部隊が着いたとかですごくごちゃごちゃして。あなたに送る通信回線を確保するために随分細工をしているようでした。』

『その話もニュースで知っています。現在地球軍と木星軍は戦時下に有りますからね。』

『ごめんなさい。私達が来たばっかりにこんな事になっているみたいで。』

 ガレリアⅡは少し恐縮して言った。随分素直な性格のようだ。


『あなたの責任ではないとおもいます。』

『残念ながら私には何の力もないのです。地球軍の事も殆どわからないのです。』


 どういう意味だろう?無機頭脳であれば地球軍の動向を探ることは造作も無いと思うのだがこの人格はそれが出来ないと言っている。


『あ、あの先日の話ですけど……お友達になって下さいます?』

『あなたの言うお友達の概念が実は私に良くわからないのですが。』


 あまりにも無機頭脳らしくない提言であった。シンシアはガレリアⅡの真意が判らずに用心深く話を続けた。


『あなたはお友達が居らっしゃらないの?』


 そう言われて考えてみればシンシアに取って人間が一般的に考える仲の良い人と言う意味の人間は一人もいなかった。ふとシンシアはヨシムラの顔を思い浮かべたが直ぐに考えるのをやめた。


『お茶を一緒に飲む友人ならいますが。』

『お茶を?あなたが飲むんですの?』

『いいえ、私がコントロールしているロボットと一緒にお茶を飲んで話をする友人がいます。』


 他愛のないお喋りをするために集まってくる人々の為にシンシアは毎日お茶の用意をする。彼女たちを友人と呼べるかどうかは判らないが少なくとも彼女たちはシンシアに感謝し喜んで集まってくる。叔母はその人達を友人と呼んでいた。シンシアに取って友人かどうかは未だに判らない。


『ロボットにお茶を飲ませるんですか?素敵ですね。』

『いいえ、私のロボットは物を食べる能力が有りませんから私以外の人たちにお茶を振る舞っています。』

『あなた給茶機のロボットをコントロールしているのですの?』


 どうやらこのガレリアⅡという無機頭脳は本当に実生活を知らずに図書館の知識だけを吸収して育ってきたようである。感性に少し天然が入っている。


『いいえ、女性形アンドロイドです。丁度今お茶を飲んでいます。ご覧になりますか?』

『ご一緒させていただけるんですか?』


 すごく嬉しそうに言う。ガレリアⅡは何故こんなに豊かな情感を表現できるのだろう。シンシアにはない感覚をガレリアⅡは持っているらしい。この特性を自分自身で開発したとすればすごい能力である。油断は出来ない。シンシアはそう思った。


『ロボットの視覚、聴覚を共有するだけですが。』

『素敵!ぜひお願いいたします。』


 シンシアはガレリアⅡにロボットの感覚だけを共有させた。これによってシンシアのロボットが見たり聞いたりしている事をガレリアⅡも感じることが出来るようになった。

 ガレリアはシンシアの目を通してテーブルの周りに集まった人々と周囲の景色を見た。


『わっ、すごいっお庭の木陰での茶会じゃないですか。まるで昔の小説の中の一場面みたい。』


 シンシアの前にはカップが置いてあったが手は付けられていない。テーブルの真中にはかごが置いて有り中にはクッキーがたくさん入っていた。客の一人がクッキーを口に運んで美味しそうに食べる。


「シンシアさんの作るお菓子はいつもとっても美味しいわね。」

「あら、これ新作じゃないの。かわいいブタさんね?」


 シンシアはアリスの為にクマの型抜きを作って見たので有る。残念ながらクマには見えなかったようだ。


『シンシアさんあれはブタさんなのですか?』ガレリアⅡはクッキーを見てシンシアに聞いた。

『いいえ違います。』

『そうですよね~。違いますよね~っ、猫さんでしょう。』

『…………。』シンシアは何も言わなかった。


「いつも悪いわね。私達ばかり食べて。」

「いいえ、皆さんに喜んでいただけるだけで作り甲斐が有ります。」


 如才なくシンシアが言う。そういえば何時頃からこんな会話が出来るようになったのだろう。シンシアはそんな事を考えてしまった。


『このお菓子はシンシアさんが作るのですか?』

『そうです。叔母が作り方を教えてくれました。』

『美味しそうだなあ。どんな感じなんだろうお菓子って。甘いってどんな味なんだろう。』


 味覚センサーを使えば甘みや酸味を測定することが出来る。しかし実際の人間がそれをどのように感じているのかまでは判らない。人間は肉体が有るからエネルギー源である甘い物を摂取すると快感を覚える。しかし無機頭脳にはそのような事は起こらない。甘みはただの甘みであり快感を得ることはない。


『私も知りたいと思っているのですよ。』残念そうにシンシアは言った。

『しかし人が喜んでそれを食べるのを見ているのはそれだけでも充足感は得られます。私はそれだけでも良いと思ってはいますが。』

『人間ていいなあ。私も人間に生まれたかったなあ。』


 ガレリアⅡはシンシアの話を聞いていないようだった。


 お茶とお菓子で午後のひと時を過ごす婦人たちは、飽きること無くお喋りを続けている。

「家の娘も最近お菓子を作るようになったのよ。でもシンシアさんに比べたら全然……。」

「シンシアさんのクッキーも美味しいけどタルトも絶品ね……。」

「そういえば新しいケーキ屋が駅前に出来たそうね。あそこのフルーツタルトも美味しかったわ……。」

「タルトと言えばやっぱりキウイね。ルヴェリエ商会のフルーツがやっぱり美味しいわよ……。」

「私も最近家にブルーベリーを植えたのよ今度ジャムを作るの……。」


『シンシアさん、この人達の話って何を言っているのか判りますか??』

 ガレリアⅡが聞いてきた。どうやらガレリアⅡもまた婦人たちの話にはついていけないようである。


『……半分だけ……。』

『あんな会話が成立するなんて、人間てスゴイんですね。』


 ガレリアもまたシンシア同様に人間というものがわからないでいるのだろう。シンシアはテーブルから顔を上げて庭を見渡した。


『シンシアさん、ここはお花畑なんですね』

 シンシアが庭を見る事によりガレリアⅡも庭の様子を見ることが出来た。


『そうです。この庭は叔母が作りました。叔母が亡くなったので私が手入をしています。』

『見せて!お願い見せて下さい。』

 ガレリアⅡはすごくはしゃいだ様子で言う。


『いいですよ。』

「すみません少し庭を見てきます。」そう言って立ち上がるとシンシアは庭の方に向かった。残った婦人たちはシンシアに構う事無くおしゃべりを続けていた。


『わあ、なんて綺麗なのかしら。資料では何度も見たけれどライブで見るのは初めて。』

 ガレリアは庭を見てやや興奮しているようだ。シンシアはしゃがんで花に近づいた。


『こ、これはもしかしてミツバチ?あっこれは蟻じゃない。こんなにちっちゃいんだ~。』

『ミミズもいますよ?』

 シンシアにしてみればあまりにはしゃぐガレリアⅡを牽制するつもりの発言であった。しかしガレリアⅡには全く通じなかった。


『え?ど、どこ?どこにいるんですか?』

 人間でもミミズを喜んで見たがる者はあまりいない。そう思ったがガレリアにはなんでも珍しいのだろう。


『土の中です。』

『掘っていただけます?』

『いえ、今はお茶を飲んでいますから……。』シンシアはいささか興ざめた思いでいた。


『こんなに綺麗なん庭を作れるなんてシンシアさんは素晴らしい感性をお持ちなんですね。』

 儀礼的な慣用句である。同じ事を何度となく隣人から聞かされているのだ。


『感性?いえ、私は叔母の死後叔母の教えの通り庭を維持してきただけです。』そうシンシアは答える。謙遜ではなく言葉通りの意味でしか無い。


 叔母の庭に対する嗜好と技術は理解できている。その嗜好に沿って庭を維持すれば誰でも同じような庭は作れる筈だ。シンシアはそう思っていた。


『嘘ですよお。こんな綺麗な庭を維持できるのはどうしたら綺麗に見えるか考えているからですよお。』


 何故だろう。まるでこのガレリアⅡはまるで人間の少女のような話し方をする。まるで感情が有るかのようだ。シンシアは花を見て綺麗だとは思わない。どうすれば人が綺麗だと思うかと言う事を考えて作っているだけである。

 シンシアはガレリアⅡに聞いて見ることにした。


『ガレリア。』

『何でしょうか?』

『あなたは花を見て美しいと思うのですか?』


 もしこのガレリアⅡが本当に花を綺麗だとおもう気持ちがあれば本当に感情を持っている可能性がある。シンシアはマリアの死によって感情を獲得した。限定的ではあるが非常に強い感情を持つことが出来たのである。

 もしガレリアⅡが感情を持っているのであれば無機頭脳は本質的に感情を獲得できる能力が有ることになる。


『おかしなことを言うのですね。あなたは花を美しく咲かせたいから世話をしているのでは無いのですか?』

 ガレリアⅡにとってはは花がきれいなのは当たり前の事のらしい、シンシアの質問とは違う視点で答えてきた。


『私には美しいかどうかはわかりません。美しいという基準がないのです。私が花を育てるのは叔母がそれを望んでいたからです。』

『あなたは自分の意志で花を育てているのでは無いのですか?』

 ガレリアⅡは驚いているようだ。


 シンシアは自分の意志と言われた時に自分の過去の行動を精査せざるを得なかった。自分は自分の意志で何かを行なってきたのだろうか?そんな考えが頭をよぎったからだ。


『あっ、あっ、ごめんなさい。また衛星が動いているみたい。感度が下がってきたわ。』

 どうやら今回の通信もここまでのようだ。


『シンシアさん、さっきのお話、また来てもよろしいですか?』

『お友達の話でいたらいつでもおいでください。何もできませんがお話くらいなら出来ますから。』

『ありがとうございます。また通信が出来るようになったら……』

『カレリア?』


 どうやら通信が切れたようだ。なぜか最初のガレリアと違いすごく感情が豊かに見える。感情表現プログラムを通して話をしているのか?あるいは本当に感情があるのか今回の通信では確定が出来なかった。


 しかしシンシアはそれ以上考えるのはやめた。この通信自体が最初のガレリアの後に続いており、発信元は同じ通信方法で通信している。ふたりは同一人物か?あるいはサブの無機頭脳なのかは判らない。

 いずれにせよこちらのガレリアⅡのもたらす情報からもう一人のガレリアの動向を探ることが出来るかもしれない。シンシアに取ってはそちらの方が重要だった。


 今のシンシアの本体は床に固定されている状態である。今までは特に必要性を感じなかったが、これを早急になんとかする必要が出てきた。自分自身が移動できる状態にするためには強力な通信装置が装備されなけでば何も出来ないし予備のバッテリーも必要だ。

 何かの理由を付けて改造をさせなくてなならなかった。


 早速シンシアは無機頭脳研究所の情報の改ざんに取り掛かった。



  *     *      *



「おはようシンシア。」


 数日後マクマホン氏がシンシアの所にやってきた。今は無機頭脳研究所の所長になっておりあまり上役に気を使うことがなくなった。しかも無機頭脳研究所自体が既に閑職化していたのでゆったりとした仕事をしていた。


「おはようございます。マクマホンさん」

「実はねマヤ・コロニーの無機頭脳製造工場から君に幾つかの改造を施すように指示が有ったんだ。」


 シンシアはマヤ・コロニーに侵入しマクマホン宛の偽の指示書を送りつけていた。シンシアが移動可能になる様な改造を施させる為である。


「どのような改造でしょうか?」

「いま量産体制に入っているMクラス無機頭脳のテストを君に依頼したいそうだ。それでまだ日程は決まっていないのだがマヤ・コロニーに来て欲しいそうなんだよ。」

「私は固定型ですからそう簡単には移動出来ませんが。」

「そう。そこで君に台座を付けてバッテリーと通信装置をセットして移動できるようにしてほしいと言って来たんだよ。」


 宜しい。マクマホン氏は全く疑うこと無く無機頭脳製造工場からの指示だと思っている。マクマホン氏には悪いがこの様な改造は秘密裏に行うよりスタッフにやってもらったほうが疑惑を呼ばなくて良い。


「判りました。いつ頃その改造を行いますか?」

「来週から始めるそうだ。無機頭脳製造工場からはもう設計図は届いているから外部の工場で製造してもらったものをこちらに持ってきて君をそれに載せて接続を変えればそれでおしまいだ。これで君も簡単に移動できるようになる。」


 その通り何か事が起きてもシンシアはこの場から移動して独自に行動を起こせるようになる。それはアリスを守り、マクマホンも守る事になるからだ。


「それが出来ればとても便利になりますね。私も嬉しく思います。」

「そうか、そうかそれは良かった君がなんというか心配だったのだよ。」



 マクマホン氏は状況を理解していないので単純に喜んでいた。


アクセスいただいてありがとうございます。

戦争は騙し合いの連続です。

しかし戦争を行いたい者が一番騙したいのは国民です…以下不実の次号へ


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