挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めちゃいました。―― 作者:たけ まこと

第三章 ――育  成――

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

32/66

機動ステーション

――地球3年後――

 アルとシンジは2号機の完成の前にコンピューターとの連結実験を始めた。

 初号機を教育したグロリアは単にデーターのやり取りだけであったが、今度は動作領域でのインターフェイスが設けられた。前回の失敗に懲りたシンジ達は安全保障の為に人間が介入可能なコントロール装置を付ける事にしたのだ。何度も設計をやり直したがようやく初号機とグロリアの接続に成功した。

「すごいな。」

 ベンチテストデーターを見ながらアルが感心したように言う。

「うん、すごい初号機の処理速度が何倍にも上がった様だ。」
「処理はグロリアがやっています。私はグロリアに命令しているだけです。」

「この後はグロリアの自立思考回路を外す実験だそれで処理がどうなるかだ。」
 アルがしたり顔で講釈を垂れる、これで会社の役員会に報告出来る。

「自立思考回路は必要有りません。その下の部分でグロリアを動作させています。」
 既に初号機はグロリアの自立思考回路をバイパスさせその下部機構を使って処理を行なっているというのだ。

「実験は大成功という訳か。」アルが大喜びしている。
 だがこの時シンジだけは初号機の言った事の意味を正しく理解していた。
 安全確保の為のインターフェイスはいとも簡単に1号機によって破られてしまっていることを。

「2号機が出来たらすぐに複数のグロリアをつなげて動作実験だ。」
 舞い上がったままアルは上機嫌で次のステップへ進めることを決めた。

「どこでやるんだ?」シンジが聞く。
「この実験場さ。ここの管理用グロリアを置き換えるんだ。以前と違ってここは地上だからなそれ程の危険性は無い。」
「そうだと良いがな。」
 シンジはもう何を言っても無駄だと感じていた。

 この成功に対して何らかの危険性を示した所でアルによって叩き潰されるだろう。今では役員会はアルの事を全面的に信頼しておりシンジの意見など小うるさいだけとしか考えないからだ。
 人は自分に都合の良い嘘は信じるが都合の悪い真実は無視する傾向が有るのだ。

「初号機、君はグロリアの能力をどの位まで使えるんだい?」シンジは初号機に尋ねた。
「使用状況により異なります。作業をしていないときは0パーセントに近いです。」

「グロリアを使ってグロリアが動かしている機器類はどの位使用できるのかな?」
 シンジにとってはベンチテストよりも実際の作動状況にどの程度の信頼性が有るか気になっていた。グロリアの自立思考回路とは実質的にOSであり実際の端末の動作はプログラムによって決定されているからだ。
 むしろOS部分を外すことによってその部分の連結動作に不具合が起きることがシンジに取っては一番気がかりな事であった。

「すべて使用可能です。問題有りません。」
「いいぞ、完璧だ早速会社の方に報告してこなくちゃ。」
 アルはウキウキとした様子で出て行った。

「シンジ。」
 アルが出て行くと初号機がシンジに語りかけて来た。

「ん?なんだい初号機?」
「私が作られる以前に木星で無機頭脳が作られたと聞いています。」
「ああ、だから君は本当は初号機ではなく2号機ということになる。いや向こうを0号機と呼べば良いのかな?」
 シンジは木星でアランやマリアと研究していた頃を思い出した。
 結局はアルの拙速さのせいで大失敗どころか多くの人命まで失う羽目になってしまった。あの時の無機頭脳はどうなったのだろう。

「今その頭脳はどうしているのでしょうか?」
「判らない。僕らと一緒に研究していたうちの二人は向こうに残った。だからまだ研究は続けていると思うが、新しい無機頭脳を作ったという情報は入っていない。」
 シンジに取っては苦すぎる経験だった。その経験を持ちながら未だに事を急ぎすぎるアルの性格にはシンジも付いて行き難いところが有った。

「そうですか。」
「何故そんなことを?」
「私にとっては兄弟ということになります。」
 初号機が兄弟という言葉を使ったのが引っかかった。他にふさわしい言葉が無かったのかもしれないが、初号機が言うと心に引っかかるものが残った。

「そうだね。だから気になるのか?」
「はい、最後はどこにいたのでしょうか?」
「コロニーから外してシドニアコロニーの無機頭脳研究所に設置した。その後はわからないよ。」
 シンジも木星の科学通信を見ているが一度アランが論文を発表するニュースが載ったきり論文は発表されなかった。

「そうですか。ありがとうございます。」
「君がそんな質問をするとは思わなかったよ。」
「そうですか?人間は肉親に対し特別な感情を持つと認識していましたが?」
 初号機が兄弟といったのはまさにその通りの意味だったらしい。シンジは初号機が本気で無機頭脳を兄弟と考えていることを知って驚いた。

「ああ………そうだったね。ただ意外だっただけさ。」
 無機的な反応を示す初号機が、驚くほどの人間的な話をする事にシンジは不思議な感覚に見舞われた。彼らにも家族と言う概念が有るのだろうか?


 やがて2号機が完成した。

 今度は初号機が2号機の教育を行う。初号機はグロリアをバックアップに使い以前のプログラムを改良しながら教育を進める。

 高価なグロリアをバックアップに使用するのであるからかなり贅沢な話である。これもグロリアカンパニーならではということであろう。
 もっともこのグロリアは研究所全体へのアクセスが可能で外部の研究施設や国会図書館にもつながっていた。
 各研究施設にはグロリアではないが大型コンピューターが設置されており、今回は2号機をこのコンピューターに接続して各研究施設のコントロールを行う実験とした。

「この実験がうまくいけばコロニーにも応用できるはずだな。」
「これで各研究所の空調から警備まですべての情報をコントロールできる。」
「まあ、今まではグロリアがやっていたことを置き換えるだけなんだろう。」
「そのグロリアは今は初号機がつながっている。2号機が不調を起こしてもそれがバックアップになる。事故は最小限で抑えられる。」

「ようし2号機接続、初号機バックアップを頼むぞ。」
「判りました。」
「このままデーターを取り続けて問題があればそれを改良する。地道な作業だな。」
「前回はこれをやらなかったからうまくいかなかったんだ。我々は同じ間違いをしてはならないんだ。」

 シンジはそれを強く心に刻み込んでいた。


――アリス5才――

 アリスが幼稚園に入園すると家の中が急にガランとした感じになる。

 シンシアはより多くの時間を叔母と過ごすようになった。
 叔母は毎日庭の手入れに余念がなく庭は常に美しさを保っていた。勢いシンシアもまた庭に出る時間が増えていった。

 叔母の植物に対する考え方や知識は豊富であった。

 知識というだけであればおそらくシンシアのほうがはるかに豊富に持っていたであろう。ところが知識と知識との組み合わせによる新たな知識という概念はシンシアにはなかった。
 百科事典を丸暗記した知識は有機性を持たず単なる記憶以上のものには成っていないのだ。

 叔母の持つガーデニングの知識はそれら百科事典的知識を凌駕した経験から生み出されたものであり、コロニー内における遺伝子操作を与えられた全ての動植物の実際の生育と言うものを理解していた数少ない人間であったようだ。
 その為、多くの人が叔母の教えを乞いたいと思っていたらしい。叔母のところにはその様な同好の士が集まってきていた。

 叔母はシンシアと一緒に庭を作っていったがシンシアの能力にすぐに気がついた。驚くほどの記憶力の良さはコンピューターであるから理解はできる。しかし其の知識の応用力は普通の人間でもなかなか身につかないものである。

 シンシアはその応用力においても非常に高いレベルを示した。

「スゴイわシンシアさん。あなたならすぐに私の持ってる知識を追い抜いちゃうわね。」叔母はいつもそう言ってシンシアを褒めていた。

 毎日のように訪れる叔母の友人とのお茶の時に出すお菓子もまた叔母は自分で作っていた。シンシアが手伝うようになるとその量が一気に倍になった。
 叔母は一人で作ると大変なパイや細かな細工のお菓子などを作れるようにりとても嬉しそうであった。

 お茶の席でそのお菓子は大変な人気が有り、アリスが幼稚園から帰ってくると良く一緒にお菓子を食べる事も有った。近所でも評判になるとみんながアリスをかわいがってくれた。
 その中にはお隣のフローレンス夫妻も入っていた。特にこの夫妻は叔母の庭に憧れていると言って自分の家の庭も叔母の庭同様にガーデニングを施しはじめた。

 シンシアはその夫妻が何故庭での仕事を行うのか解っていた。

 彼らはジタンが送り込んできた監視員でありシンシアの家を監視するために叔母に近づいているのだ。しかしシンシアは何食わぬ顔で彼らに対応している。
 少なくとも表面的には友好そうな表情をしており、人当たりの柔らかな笑顔を振りまいているがその裏では家に監視装置を設置し、直通の通信装置でシンシア達の監視報告を行なっているのである。

 もっともシンシアにしてみればアリスに危害が及ばない限り問題はないし、何よりシンシアもまたジタンを監視しているのである。
 夫妻の報告をハッキングすることにより夫妻が何を見ているのかが判り不測の事態に備えることが出来るのである。その意味で夫妻の存在は逆にシンシアにとって有用な存在ですらあった。

 ある日アリスが幼稚園から帰ってくるとなぜかシンシアの前でモジモジしている。
「どうしました?アリス。具合でも悪いのですか?」シンシアがアリスの前にしゃがんでアリスに聞いた。

「どうしたのアリス具合でも悪いの?」叔母はお茶を飲みながら尋ねる。
「ねえ、ママ、ママって人間じゃないってホント?」突然アリスがシンシアに尋ねる。
 横に座っていた叔母は突然の事に驚いてお茶を置いてアリスを見つめた。

「はい、そうです。私は人間ではありません。」シンシアはあっさりと答える。
「お待ちなさいアリスちゃん。誰がそんな事を言ったの?」慌てて叔母はシンシアを遮る。

「幼稚園にいる男の子。」
「どうしてその子はそんな事を言ったのかしら?」
「その子のおばあさんが家に来てママの事を話していたんだって。ママはお茶もお菓子も一度も食べたことが無いって。」

「アンダンテね。仕方の無い人ね。」叔母は顔をしかめた。
「ママはどうして人間じゃなくなったの?」
 アリスは泣きそうな顔で聞く。自分の母親が人間ではない等と言うことをこの年令の子供が受け入れられる筈もない。

「いいえ、アリス、私は………。」
「あ、あのね、アリスちゃん。」
 あわてて叔母が言葉を引き継ぐ。いくらなんでも最初から人間じゃかった等とは言わせられない。そんな事をアリスが幼稚園で言ったら更に大変な事になる。

「ママはね昔おおきな病気をしたの。それでねそのままでは死んでしまうところだったのよ。でもね魔法使いに魔法をかけてもらったの。ママは物を食べることと引き換えにママの心を人形に移してもらったのよ。だからママは生き返ることが出来たんだけれど、約束通りママは物を食べることが出来なくなっちゃったの。でもねママの心は此処にちゃんと居るのよ。」

 叔母はシンシアがサイボーグであるという誤解を与えるように話を誘導する。このように話しておけばアリスが幼稚園で話をしても完全義体の人間だと理解するだろう。

「ふーんママやっぱり物が食べられないんだ。ママが作ってくれるあんなに美味しいクッキーもパイも自分じゃ食べられないんだ。」
 物が食べられないなんて何て不幸なことなんだろう。そうアリスは思うと悲しくて母親が可哀想でたまらなかった。

「ママ可愛そう。」アリスは泣き始めた。
「アリスはママの為に泣いてくれるのですか?」
「だってママはおばあちゃんのパイもクッキーも食べられないなんて可愛そうよ。」
「ありがとうアリス。貴方の優しい心はママにとってはパイやクッキーより心を満たします。私は貴方が居れば何も食べられなくともこの胸は一杯に出来ます。」シンシアは自分の胸に手を当てて言った。

 叔母はこの言葉を聞いて驚いた。このような人間的発言をシンシアが出来るようになっていたとは思わなかったからだ。アリスと共にシンシアもまた成長しているのだと叔母は気付かされた。

「ママ、はどうしたら物が食べられるようになるの?」
「判りません。いつの日かそうなれる時が来るかも知れません。」
「そうしたら今度はアリスがお菓子を作ってあげるね。」

「ありがとうございます。アリス。」そう言ってシンシアは微笑んだ。


――木星無機頭脳研究所――

 無機頭脳を搭載する兵器の設計が始まった。

 宇宙空間においては重要なポジションを占める攻撃機ではあるが、その機体の脆弱性から配備が進まなかった。今の攻撃機の形態では生存性が低すぎるのだ。従って実戦が起きた場合攻撃機を投入するべきか否かが大きな議論に成っていた。
 現実の状況では攻撃機は哨戒や偵察等の任務に就いており実戦投入の際はパイロットが搭乗を拒否をする可能性が有った。
 何しろ現在主流のレーザー砲はミサイルの射程外から正確に攻撃機を捉える性能がある。局地防衛以外は使用できない兵器に成っていた。

 そこで攻撃機の需要に答えられる性能の機体の試作コンペが開始され、3社がそれぞれ試作機設計を始めていた。
 ヨシムラがシンシアにその事を伝えに来た。またシンシアの意見を聞いて見たいのだろう。

「シンシアお前さんはが兵器を嫌いなのは判るが今度の試作のコンペはどんな兵器が出来ると思っているんだい?」
「ヨシムラさんはその兵器はどんな性能を持っていたら良いと考えるのでしょうか?」シンシアは要求仕様を質問した。

「今回のコンペの必要条件は艦船に対する攻撃機だからな。」
「長距離から砲撃が可能となる大型レーザー砲を持った艦船に対し防御力の弱い攻撃機では近づく前に砲撃を受けて破壊されるでしょう。」
「その通りだ。攻撃機の脆弱性故に現在は大艦巨砲主義が台頭しているんだ。」
 核融合炉を内蔵した大型戦艦は巨大な砲を持ち、それ故遠距離からの攻撃に適していた。

「しかしいくら巨大な艦船とはいえ核融合炉を複数持ったコロニーにはエネルギー的に不利と考えられます。」
「そうだな。コロニーが要塞と化しているバラライトの本拠地のトリポールのようなコロニーをを相手にしても戦艦ではその攻撃力の前に近づく前に砲撃されておしまいだろう。」
 宇宙での戦闘は強力な砲を持てば船体が大きくなり機動性が損なわれる。機動性が上がれば装甲が薄くなり防御が脆弱になる。遮蔽物のない宇宙での戦闘に攻撃機の出番はあまり無い。

「しかし現実問題として戦闘員しかいない戦艦と、内部に民間人を多数抱えた要塞コロニーが戦争をすることの是非がその前に問われるのではないでしょうか?如何に装甲を厚くしてもコロニーを核兵器で攻撃されれば只では済まないでしょう。」
「まあ、戦争なんてものは如何に楽して敵を殺すか、だからな。」ヨシムラは苦々しく言う。

「話が外れたな。そこで今回作ろうとしている無機頭脳を使った攻撃機と言う発想はどう思うね?」
「死亡率の高い攻撃機に人間を乗せたくないのでしょう。」
「みもふたも無い言い方をするね。役に立つと思うかい?」

「運用次第だと思います。」
「どんな運用なら有効だと思うかね?」

「ゲリラ戦です。ステルス偽装して敵が近づくのを待って攻撃します。あるいは強力な装甲のカプセルに入って敵に接近してから攻撃します。高い運動性能を持つ機体で接近戦を行えば強力な兵器となります。」
「やっぱりそこに落ち着くか。水も食料も睡眠も必要なければそこに至るのはとうぜんだろう。しかしそれなら現有の兵器でも可能だからな。」

「私もそう思います。しかし、もしレーダーの全く効かない空間での有視界戦闘ではおそらく相当な威力を発揮すると思われます。」
「そりゃまたどうして。」
「無機頭脳はコンピューターと異なり直感的な行動が可能なのです。おそらく相手を見ながらの戦闘ではコンピューターをはるかに凌ぐ性能を発揮すると考えられます。」

 木星連邦はシンシアが予言した通りの兵器を開発することに成る。


――地球5年後――

 それから一年以上かけてデーターを取り続けた。

 2号機の性能は大変安定しており大きな問題は無かった。しかしシンジの期待と裏腹にやはり2号機にもパーソナリテイと呼べる物は発生しなかった。

 ある日アルが上機嫌で初号機の所へ駆け込んで来た。
「初号機!」
「何でしょうかアル。」いつもの通り全く抑揚の無い返事が帰ってくる。
「3号機に関してだが、2号機の実験結果が非常に良好だったので上層部が機嫌を良くしてね。コロニーに乗せる実働実験機を売り込みにかけたみたいなんだ。」

「誰が買うのでしょうか?」
「地球連邦政府。何でもコロニー建造用機動ステーションの計画だそうだ。」

 コロニー建造用の機動ステーションとはコロニー建造に必要な機器を装備した工場をステーション内に持ち移動可能な小型コロニーの事である。2000人前後の居住用重力区画が有り、コロニー建設軌道でコロニーを作る作業に当たる。現在地球圏には2基の機動ステーションが有った。

「機動ステーションは「あけぼの」と「しらなみ」の二機が在ったはずですが。」
「3機目ということだ。それの設計を君にしてもらいたいんだ。」
「私に?それを設計しろということですか?」

「そうだ設計仕様は後で届くことになっている。」
「仕様が?私の所へ、ですか?」
 初号機はいぶかしげに聞いた。仕様書が初号機の所に届く筈がないからである。

「本社の設計に決まっているだろう。それを持ってくる手はずになっている。」
「3号機はまだ製作途中のはずですが。」
 3号機もまたテストすら終了していないのであり、スペックその物が確定していない。その中で設計を行うのだるから本来であれば設計など出来るものではない。しかし本社の上司にはそんな事は判りはしない。アルの口上はやすやすと上司を納得させたに違いない。

「3号機のスペックももう判っているだろう。それにふさわしい機体の設計を頼む。」

「会社の上層部はご存知なのですか?」
「知ってたら会社の設計部から横槍が入る。君には彼らの度肝を抜くような設計をして設計部の鼻を明かして欲しいんだ。」
 つまり今回の事はアルの独断であり、無機頭脳の優秀性を示すことにより社内での自分の足場を固めようとする意図である。

「つまり設計部と私の競争になると言うことですか?」
「そうだ。」アルが自信満々な素振りで答えた。
 おそらく何の裏付けも無いのであろうが見栄とハッタリで生きてきた男らしく全てを判ったかのごとく堂々と話しを続ける。
「判りました。」

「下案が出来上がったら見積もりをするから渡してくれ。それからこのことは誰にも言うなよ。」
「シンジにも、ですか?」
「シンジにもだ。」
「判りました。」そう答えた初号機はその理由をアルに尋ねなかった。

 まるでこのことを予期していたかのようにである。

 それから数週間してプランを渡されたアルは驚いた。
「何だこれは?まったくの球形じゃないかこれでは乗員の重力区画が極端に少なくなってしまう。」
 それまでの機動ステーションは2000人程の作業員の為に重力区画を取る為に円筒形をしているのが普通であった。機動ステーションといっても家族と子供の為の施設が完備されていたのだ。

「2000体の移動型ロボットに5000体の固定ロボットが人間にとって代わります。」
「完全無人ステーションということか?」
「いえ、200人程の人間の収容スペースは設けてあります。」

「しかし7000体のロボットとなるとえらい高い物になってしまうぞ。」アルが渋い顔をする。
「初期投資として1000体程のロボットを用意します。中心付近からつくり初めてそこに機械類の製作工場を作ります。そこで最初に作業用ロボットを作ります。人間が関与するのはここまでで、そこからは作られたロボットがコロニーの製作に携わります。外壁や内装の製作工場はその近くに作り、ロボットがコロニーを組み立てます。仕様に在る機器の搬入と共に外装が組みあがって行きます。内部でのロボットの製作は最終的に7000体までになります。」

「しかしロボットの部品は?自前で作るとえらい高い物になってしまうだろう。」
 ロボットのような物は多くのパーツから出来ているものは外注してロットで生産させたほうが効率が良いのである。

「ロボット工場の設計は別に行っています。部品の共有化等で全パーツを原料から製造可能な状態になっています。元々コロニー建設は彗星から原料を抽出するところから始まりますから。」
 ところが初号機はそのロボット製造すらコロニー製造工程に組み込んでしまおうと言うのだ。
 この方法は何度か検討された事が有ったが結局ロボットの製造に時間がかかりロボットの代わりに人間を使わざるを得なかった経緯がある。ところが初号機はその問題点を無機頭脳ならではの能力により解消している。
 従って初期投資の大半は各種の製造機械の調達に当てられ高い投資となっているがその後のコロニー組立過程が無人化出来るために最終コストは低く押さえられるとしている。

「ホントかよ。それはすばらしいぞ。それが本当なら最初の投資だけで後は原料とエネルギーさえあれば勝手に出来上がるってことか。」
「はい、無機頭脳とグロリアの組み合わせによってそれが可能となっています。」
「まてよそれじゃあコロニーの製作もすべて無人で行えるということだな。」
「もちろんです。」

 人間が工事に係る場合はどうしても打ち合わせなどのロスが発生し工程の遅れを生じさせる。コンピューターによる一括管理であればその心配はなくしかも24時間仕事が可能な状態になる。現在でも工程管理はコンピューターが行なっているが全てをロボット任せに出来るほどの能力は無かった。

「しかしコロニー組み立て時のロボットの損耗も考慮に入れないとランニングコストに相当響くだろう。」
「その為のロボット工場です。ロボットは消耗品と考え人件費との対価との比較によればランニングコストは、はるかに有利となります。」初号機はアルに渡してある資料の場所を示した。

「なるほど。無機頭脳が操作するロボットの信頼性の上に立ったプランという訳か。」資料を見ながらアルはうなづく。
「ステーションの製造コストと工期予測がこれです。別添が必要な資材リストです。」
「おお、こんなに安く作れるのか、工期もまずまずだ。これなら役員を説得できる。」
 どうやらアルは上司を飛び越して役員に売り込んでいるようである。

「満足いただけて恐縮です。」
「任せろ。絶対この仕事は俺がまとめて見せるよ。期待して待っていろ。」
「よろしくお願いします。」

 コロニー建設においてはコロニーそのものが巨大な船のようなもので巨大なシステムによって運営されるひとつの乗り物である。したがってその環境制御は精緻を極め非常に多くのファクターを考慮することによってのみ運営が可能となっている。
 グロリアカンパニーはそのコロニー環境制御技術では郡を抜いた技術力があり、多くのコロニー環境制御を受注していた。グロリアを使った自動環境制御技術は高い評価を得ており、値段が突出して高い以外は最高性能のコンピューターであった。

 グロリアを用いないコロニーでは、それまでメンテナンス以外に数百人の管理要員を必要とした。それをグロリアは一気に百人程度に圧縮した。初号機はそれをゼロに出来ると言っているのである。
 確かに2号機の成果を見る限りそれは可能に思えた。

 一年越しの営業の結果テラ・コロニー建設会社とのJVによってこのステーションの受注に成功した。グロリアカンパニーの技術力が高く評価されたのだ。
 その頃3号機も完成に近づき1号機による教育プログラムが間近に迫っていた。

「シンジ、何をそんなにむくれているんだ。」
「不安なだけだよ。」
「なにも問題ないって。初号機の設計はうちの設計も精査して問題を見つけられなかったんだ。」
「わかってないからだろう。」

「テラ・コロニー建設だって設計上の問題点を見つけられなかったんだぜ。」
「初めての工法だ自分の工区が終わればあとはこちらの責任に出来る。」
「なんでそんなに悲観的になるんだよ。」

「そもそもなんで3号機をあんなにでかく作ったんだ初号機の4倍以上の容量だぞ。」
「初号機の提案だ、その規模でも大丈夫だって。」
「大きければ頭がよくなるわけじゃない。動作部分が分散して思考が遅くなる事だって考えられる。」
「そしたら2号機を持っていけばいい。動作実験中だけど問題ないんだろう。そもそも無機頭脳は一度作ったら増設は効かないんだから。だったら最初から大きく作っておいた方が良いだろう。」

「サイズの事については最初からの検討事項だったよな。どの位の大きさで自立思考が確立されるのか。木星でもサンプル数が少なすぎた。最初の実験機をそのまま実用試験に出すなんて気違いざただった。」

「まあ、あの件については俺も失敗したと思っているんだよ。」
「だからこそ今回は慎重に事を進めてきたのに。」
「仕方がないだろう会社の方針なんだから。」

 その会社の方針を作ったのは誰だ?そう思ったシンジであったが、自分の外交能力のなさに歯噛みする思いであった。すべてアルの手の中で踊らされている自分が情けなかった。


「木星の実験機はどうなったんだろう。あの二人も……。」
アクセスいただいてありがとうございます。
登場人物
シンジ・アスカ          無機頭脳の発明者 地球で無機頭脳の研究を続ける
アル・ジェイ・グレード      無機頭脳の発明者 無機頭脳の営業を得意とする。野心家
アリス・コーフィールド      マリアとアランの娘 
サライア・ミラー         マクマホンの姉 マリアの叔母
心を育てるシンシア、心を求めるシンジ。
そりゃアンタ水をやらなきゃ育たんでしょう…以下孤独の次号へ

感想やお便りをいただけると励みになります。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ