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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めちゃいました。―― 作者:たけ まこと

第二章 ――成  長――

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マサル

 マリアが臨月に近づいてきた。
 その為シンシアはマリアに付き添って研究所まで送り迎えをしていた。

 マリアは毎日シンシアとダイレクト通信で繋がりシンシアの心の状態をモニターしてる。
 以前と違いシンシアの心は驚くほどの安定と落ち着きを見せていた。しかし無機頭脳の人類に対する安全装置の構築にはまだ皆目見当すら付いていなかった。
 もし子供を出産すれば数ヶ月の間シンシアのモニターが出来なくなる事にマリアは焦りを感じていた。

 現在シンシアが人類に対して親和的なのは単にマリアとシンシアの人間関係によるところの物が多いいような気がしていた。
 無機頭脳に対して人間関係というのもおかしな話であるが、自立思考体が外部の干渉を受け付けない閉鎖型の回路を構成している以上プログラムで矯正は出来ないのである。
 マリアが焦っているのはいつシンシアが人類に対して失望、あるいは嫌悪を覚えるような事態が起きるかという恐怖であった。
 普通の人間でも落ち込んだ気分になることは良くある。人生が嫌になり世界が滅びれば良いと感じることは一度ならずありうる経験である。
 普通の人間に人類を滅ぼす力は無いが、無機頭脳がその気になれば十分に実行できる能力がある。その為の安全装置をどうやって構築すればよいのか?

 マリアは生物で言うところの本能のように、シンシアを構築する基本アイデンテティの部分に働きかける努力をしていた。
 それの構築に成功すれば今後多くの無機頭脳が作られても同様な安全装置を内包させられる。
 急がなくてはならなかった。いつシンシアが心変わりするような事態が起きるか判らないのだ。

 仮に今のままマリアがシンシアの安全弁として彼女をコントロール出来ていたとしてもマリアが年を取って死んだ後はどうなるのか?間違いなくシンシアの方がマリアより長生きするだろう。
 大地その物がコンピュータで管理されているようなコロニーの内側世界ではコンピューター無しには生きて行けない。
 万一シンシアが人類の殺戮を始めた場合、おそらくそのカタストロフィはシンシアを壊しても止まらないかもしれない。
 コロニーを管理する全てのコンピューターにシンシアは自らの傀儡を潜ませているからだ。

 そうなれば人類はコロニー内のコンピューターを全て破壊しなくてはならず、それは取りも直さずコロニー内での生存が不可能に成ることを意味している。
 無機頭脳と人類の戦争は始める前から勝負は付いているのである。
 試験コロニーから取り外したシンシアを此処に移設を主張したマリアの判断は間違っていたのかも知れない。
 いずれにせよもう後戻り出来ないところまで来てしまった。
 今はマリアに出来ることをするしか無いのである。シンシアを誕生させた責任をとらなくてはならないのだ。

 唯一の希望はシンシアはマリアに対してはとても優しく気を使っているように見える事だ。
 病院においても子供や赤ん坊の事は良く面倒をみている。これが人間性の発露で有るか否かは判らない。しかし子供たちはシンシアになついているように見える。
 まあ小さい子はアンドロイドの保育士にもなつくらしいから、この事がシンシアの本質を示しているかどうかまでは判らない。
 しかしこの部分をシンシアの基本アイデンテティに強く刷り込めればシンシアが人を傷つけたいとする感情の発生を止めることが出来るだろう。
 シンシア自身は気付いているのかどうかわからないが、明らかにシンシアには感情の芽胞が芽生えてきている。

 この部分をもっと安定的に強化出来れば希望が持てる。マリアはそう思っていた。

  *   *   *

「へええ~~~っ。この男を殺したいの~っ?」

 ふたりのサイボークが訪れた男はそう言ってしげしげと写真を眺めていた。
「そうだ地元警察の警部だ。」
 二人はコグル警部の写真を示した。それは二人がコグルを襲った時の視覚データーからプリントアウトしたものであった。
「この後ろに写っている女は誰だい~?」
 二人はシンシアが何者であるのかは判らなかったがいずれにせよ今回の事と無関係では無さそうだと感じていた。ついでにこの女の事もわかれば良いと思って一緒に写っているものを持ち込んで見たのだ。

「良くわからんがサイバーテログループの一員らしい。お前ならこの女の事を知っているかと思ってな。」
「ふ~ん。この女もターゲットかい?」

 なんだか嬉しそうな感じで男は言う。

 デンターはどうもこのマサルという男の粘着質な喋り方が気に入らなかった。
 以前兵器開発部の奴に紹介されて話をしたことが有ったのだ。なんでも新兵器のアイデアを持ち込んだので試作までの研究費が降りたと言っていた。
 元々デンターは非合法の暗殺部隊に所属しているのでその手の人脈はあった。そこで兵器開発部の人間に新兵器の情報を聞きにきた所この兵器の話が出てきたのだ。
 第一次試作実験が終了したので第2次試作実験を少し大掛かりにやるという話になっていた。
 そこでデンターはこの男に警部の暗殺を持ちかけて見たのだ。

「そいつはオマケだ。やれりゃやってもいいぜ。」
 男はデーターパッドを取り出すと画像を写し始めた。
「キミ達がどうしてこの女の子と関わりを持ったのかな~っ?」
「知らねえよ。刑事を追いかけて行ったらこいつと鉢合わせしたんだ。ただの女かも知れねえがよ。」
 男がデーターパッドを操作し終わると二人に見せた。

 そこにはシンシアが写っていた。

「こいつだ。」バクシーが言う
「ああ、間違いないこいつだ。」
「お前、マサルとか言っていたな。なんでこの女のデーターを持っているんだ?」
「昔ちょっとした関わりが有ってね。確か今は中央総合病院に勤めていた筈だよ。」
「中央総合病院?あのテロ事件のあった病院か?」
「そうだよ。キミ達あのテロ事件に出動したのかい?」
 マサルは含みが有るような言い回しをする。

 デンターはマサルがあのテロ事件の真相を知っていてこのような言い回しをしているのか?それとも単に話し方の癖なのか判断はしかねる所があった。
 もし知っているなら上に報告しておかなくてはまずいかもしれない。
「そうか、こいつはやっぱりあの病院に勤務していたんだ。」
 刑事がこの女と合っていた事は偶然とではなかったと言う事のようだ。やはりこの女はあの時のサイバーテロの一味と言うことらしい。

「こいつはどこに住んでいるんだ?」
 マサルのデーターパッドにマリアとアランの写真が写し出された。
「この二人と一緒に住んでいる所までは判っているんだよ。」
 二人が無機頭脳研究所にいた頃の写真であった。後ろには無機頭脳研究所のロゴが写っている。

「お前無機頭脳研究所って知ってるか?」
「いや、初めて聞くな。一体何を研究しているんだ?」
「最新型の自立思考コンピューターの事さ。ほら、数年前小型実証用コロニーで大惨事があって200人以上死んだだろう。あの時使われた奴なんだよ?」
 このニュースは大きく報じられてはいたが詳細は報じられていない。
 今はじめて二人はあに事故に無機頭脳が関わっていることをしったのだ。

「そんな欠陥品良く残してあるな。」
「うん、そうだよ。グロリアに変わる自立思考コンピューターは我が木星連邦の悲願だからね。この開発が成功すれば地球に首根っこ抑えられているコロニー開発がずっと楽になるんだよ。」
「お前良く知っているな。昔こいつらとなんか有ったのか?」
 マサルの発言を聞いて二人はこの研究所とマサルに何か関わり合いが有ったことをなんとなく感じた。しかしマサルはその事には答えなかった。

「さあ、どうなんだろうね。何でもあの事故のあと開発者はやめて地球に行ったらしくて、対抗上研究だけは続けているけど、まあ閑職だよね。地球でも同じ事故が起きるんじゃないのかなあ?」
 どうもこのマサルというやつは無機頭脳と呼ばれる奴にあまり良い感情は持っていないようであった。
「ま、そうなりゃ見ものだがな。」
「てえことはグロリア並のコンピューターが此処にあるってことか。」

 デンターは中央総合病院の事件は大規模なハッキンググループの妨害によって失敗したと内部的には言われていた事を思い出す。
 その時のコンピューターの存在がどうにも謎とされていた。シドニア・コロニー内の全ての大型コンピューターは事件と関係していなかったのだ。

「いんや、シドニア・コロニーにある自立思考型コンピューターのリストには入っていないんだよ。」
 マサルはキーボードを叩きながら答えた。
「何だ?こいつは無登録のコンピューターてことか?」
「まだ実験機だからね、実際に使用していないからリストに乗っていないんじゃないかな?」
 道理でハッキングに使用されたコンピューターが見つからない訳だ。バクシーはハッキングに使用されたコンピューターの手掛かりにこんな所でお目にかかるとは思ってもいなかった。
「どうやら状況が見えてきたぜ。」
 こんな重要な情報を本部長に伝えりゃ今回の一件もチャラに出来ると考えた。同時にバクシーはハッカーの異常なほどの能力を思い出し不安にかられた。

「しかし此処は盗聴は大丈夫なのか?何しろ相手は病院の看護ロボットのコントロール用のコンピューターをハッキングする強者だぜ。」
「此処は大丈夫だよ。監視カメラの類は一切いれてないし。僕自身が使っているコンピューターはどこにも繋げていないから。データーを取るときはレンタルネットで全く知らない人間経由で取るからね最終的には通信回線からのリークでこのコンピューターにダウンロードするシステムをとっている。」
「なんでそんなに用心深いんだ?」
「ちょっと色々有ってね。特に今の研究開発は非合法なものでクライアントからの指示さ。」
 本部長の指示だろう。相変わらず用心深いこった。

「それで、面白い物が有るって聞いてきたんだが?」
「うん、ボクの開発した兵器でおたくの部長に売り込んだ物があるんだ。試作分の契約を取ってね。一応テストはうまく言ってね、これから隊内でテストをするんだろう。」
 相当この兵器に対する自信が有るらしい。

 マサルは小さな犬くらいの大きさの機械を示して言った。

「こいつはコロニー各層の天井裏を伝って行ってターゲットの近くで爆発するロボットだよ。」
 二人共もともとは軍隊にいた関係上兵器に関しては教育を受けている。したがってマサルの言っている意味は理解できている。明白に個人を狙った暗殺兵器であった。

「コロニー内では使用される暗殺用兵器は大体はコロニー管理用のコンピューターか警備用コンピューターを使って誘導するんだけど。こいつはそういうものを一切使わない。そのかわりその付近の構造を完全にこいつにインプットする必要があるんだ。その上で各個に目的地を決めてやらなくてはならない。」
「しかしそんな物は今までにもいくつか有っただろう。一番の問題はターゲットが真下にいないと役に立たない事と多くの場合はコロニー管理コンピューターに引っかかる事だぜ。」
 デンターもこの手の兵器の弱点はよく判っていた。バクシーは六本足の兵器を持ち上げるとしげしげと見ている。

「そいつにはもう火薬が入っているんだぜ。静かに扱えよ。」
 マサルにそう言われてバクシーはあわてて兵器を元に戻す。
「こいつはコロニー管理コンピューターから地形データーをダウンロードしてこいつに入れてやるんだ。そうすれば完全に自立した行動を取る、自爆用歩行兵器さ。」

「つまり目的地まで勝手にに歩いて行って自爆するのか?そのタイプは今までにも結構有ったぜ。」
「今までのものは動くとコロニー管理用のセンサーに引っかかり易かったんだ。小動物と勘違いされてね。こいつはセンサーに引っかからないくらいゆっくり動くのが特徴さ。もっともそれだけに目的地到着にはものすごい時間がかかるけどね。」
 マサルは得意満面に説明している。どうやらこういう奴を兵器ヲタクって言うんだろうなとバクシーは思った。

 機械が好きで仕方ない機械フェチらしい。

「しかしターゲットの近くで爆破しなけりゃ意味がないだろう。」
「ターゲットの確認はしておく必要があるけどそれは連邦公安捜査局の監視システムを使わせてもらうさ。もっとも今回は仕事場がはっきりしているから監視システムで確認してから爆破信号を出したほうが確実だろうね。」
 最終的にはこちらでターゲットを確認しないと駄目だと言うわけか。
 やはり暗殺の最後は人間が確認しないと駄目だと言うわけかデンターはそう思った。

「ただ小型化している分だけ頭が悪くてね融通が効かないんだ。データーに間違いが有ると一応は自分の位置を探すが上手くいかないととんでもないところへ行ってしまうんだ。ただしこれは自分の位置をコロニー内位置照合用のポインターを使用しているが、マザーコンピューターからは完全に独立しているんだ。」
「それで?こいつを作った事は上に報告してあるのか?」
「もう納品してあるよ。それを使ってテストをする計画なんだ。ここにあるのはその改良版さ。だから君達にはテストの名目で納品してあるやつを持ち出してきて欲しいんだ。」
 どうやらマサルは兵器開発部に有るテスト用のやつを使って実地実験を行うつもりらしい。

「そいつはいくらなんでも無理だろう。兵器開発部が黙っちゃいない。」
「いや、テストの計画書を偽造してあげるよ。だから簡単に渡してくれるとおもうよ。」
「うちの兵器開発部ってそんなにいい加減だったのか?」
 日頃から兵器の使用は結構うるさくされている割には後ろの方ではかなりいい加減にやっているらしい。
 確かに書類さえ通れば何やっても通っちまう所はあったがな。

「自分の仕事だからね。最後まで見届けたいんだよ。それと納品してあるやつは爆薬を仕込いるはずだからね此処のやつはまだ火薬を仕込んでいないんだ。」
「何ださっきの話はガセかよ。」
「びっくりしたかい?さすがにコロニー内での爆発物の使用と所持は地元警察もうるさくてね。」

 しかし考えてみれば爆発物のセット出来る所はコロニー内でも限られている。
 無論性能の低い爆薬ならともかく高性能の爆薬はそう簡単には作れない。
 どうやらこいつは上からの指示が出ていると思った方がいい。どう見てもこのデブに爆発物の管理が出来るとは思えない。そうデンターは思った。それならそれでやりやすい。

「まあ細かい事は聞かないとして。テストは俺達がやってやるよ。」
「ターゲットは?この男で良いんだろう?何をやったんだい?」
 マサルは写真を見ながら聞いた。
「俺達の仕事の邪魔をした奴さ。」
「こっちの女はどうするんだい?」
 マサルはニヤけながら聞いた。どうやらこいつは女を殺して興奮するサイコ野郎みたいだ。

「そいつはオマケだ。やれりゃついでにやってくれ。」
 マサルは嬉しそうにニコニコしていた。自分の作ったものが実戦投入出来る事が余程嬉しいらしい。
「こいつはどうやって使うんだ?」
「ああ、これは一基じゃ破壊力はたかが知れている。コロニー内で大型の爆破装置を使うと外壁に穴があきかねないからね。だから爆発力の小さな物を何台も集中して投入して、そのあたり一帯をまとめて破壊するんだ。」

 暗殺というより爆破テロに見せかけられる兵器だ。病院の件といい丁度目眩ましにいいかもしれないな。デンターはほくそ笑んだ。
「うちの兵器開発部にはどの位納品してあるんだ?」
「とりあえず20体程作って納品してある。もう爆薬を仕込んで有るはずだよ。」
「判った書類を用意してくれ。兵器開発部から持ち出してくる。」
「その間に計画を立てて置くよ。セットする時は何かの工事をするふりをしなくちゃならないからそのへんの手配も考えておいてほしいな~っ」
「判った任せておけ。」

 デンターはどうもこの男の喋り方には慣れる事が出来ないと思いながら言った。

  *   *   *

 マリアは自分が無理をしているのは分かっていた。

 もういい加減に出産の準備に入らなくてはならない時間帯である。しかしシンシアの事が頭を離れない。
 いま子どもが生まれたら一年は仕事に復帰出来ない。子供を預けることも出来るがマリアはそれをしたくなかったのだ。
 シンシアが今日も付き添ってきてくれていた。
 いやシンシアは本当は此処に有る無機頭脳である。しかしやはり体が有るとどうしてもその体に魂が入っているような気がしてしまう。
 錯覚とは判っていてもついシンシアのボディと話をしてしまう。シンシアはというとその点はあまり気にしていないようである。
 シンシアの人工声帯を使おうが、本体に取り付けられたスピーカーを使おうがシンシアに取っては結局は同じことなのかも知れない。

 シンシアはマリアを椅子に座らせるとヘッドセットを渡した。
「ありがとうシンシア。」
「今お茶を持ってきます。」
 シンシアはマリアが妊娠したことが判ってからコーヒーを入れなくなった。妊婦にコーヒーは良くないそうである。
 食事からも刺激物がなくなった。シンシアとしては気を使っているのだろう。

「シンシア、この間の連中はどうかしら?」
 ここの所静かな日々が続いている。このまま何事も無く終息してくれれば良いとマリアは思っていた。
「今のところ動きは有りません。連邦公安捜査局関連のコンピューターにも何もその様な兆候は見られません。」
「そう……。」
 シンシアは常に連邦公安捜査局と警察のコンピューターの監視を怠らなかったようだった。何か動きがあればその徴候は必ずシンシアに察知されただろう。
 今は何もないようだ。マリアは安心して子供を埋めるかもしれないと思った。

「しかしコグル警部はこの件の捜査をやめたようです。」
「どうして判るの?」
「彼の動きをしばらく追っていましたが、別の事件の捜査を行っています。」
「判ったわ……それじゃしばらくは安心できそうね。」
 マリアはお茶を一口すすった。連邦公安捜査局は私達の事には感づいていないらしいし警察が動きを止めていればシンシアとの接点は無くなるから心配は無い。

「それではマリア帰りにまた来ます。」そう言ってシンシアは出ていこうとする。
 マリアはそれを後ろから見ていた。

 突然シンシアの動きが止まった。

「どうしたの?シンシア。」
 マリアの呼びかけにも答えず。そのままシンシアは動きを止めていた。

「シンシア。」今度は本体に向かって呼んでみた。
 シンシアは突然振り返りマリアの方に駆け寄るとマリアを椅子から引きずり下ろし机の下に押し込んだ。
「シンシア!?」マリアの叫び声は爆発音にかき消された。
 シンシアは机の外でマリアの体をかばっていた。マリアは周りで何が起きているのか判らなかった。
 ただ上階で何か爆発音がして周り中に何かが落下してくる音と煙で全く状況がわからないままであった。

 マリアが気がつくと薄明かりの中でシンシアの声がした
「大丈夫ですか?痛むところは有りませんか?」
 マリアが声をだそうと息をすうと埃が口に入り込みマリアはむせた。
「シンシア……何が有ったの?」
 目を開けるとシンシアがマリアの体の上に載っている。
 マリアに体重をかけないように腕を突っ張ったまま動きが止まっている。

「何者かがこの建物に爆薬を仕掛けました。」
 シンシアの声はシンシアのボデイからでは無かった。ボデイは動きを止めており話しかけてきたのはシンシアの本体からであった。
「なんですって?一体何でそんな事が……。」
 マリアは身動きできないまま声を出した。
 シンシアは止まったままである。どうやら通信回線が断線したらしい。シンシアのボディのコントロールができなくなっているようだ。

「完全に独立した個体でした。通気口を伝ってきたようです。管理コンピューターに全く引っかからなかったため爆発直前まで存在を確認できませんでした。」
「爆弾が?いったい誰が?」
「先日の連邦公安捜査局では無いかと思われます。爆発の直前に誰かが連邦公安捜査局の監視システムにアクセスして私の位置を確認したので判りました。」
 シンシアの位置を確認したと言うことはシンシアの命を狙ったものらしい。
 しかもこれだけ派手に爆破したと言うことはシンシアがアンドロイドであると言うことを知っている相手だ。

「何だっていきなりこんな荒っぽいことをしたのかしら?」
「わかりません連邦公安捜査局の方でも全く動きは有りませんでした。
 爆発の寸前になって気が付きましたので、かろうじてこの部屋の直上の爆発はメンテナンスシステムを使って阻止できました。
 他は全て爆発したようで、この部屋の周りは全部破壊されたようです。

「巻き込まれた人はいたのかしら?」
 マリアはテストコロニーでの惨劇を思い出した。あの時も作業ロボットに多くの人が殺され軍の兵器があちこちで爆発を起こしていた。
「正確にはわかりません直前のモニターでは15人が爆発範囲にいました。今はモニターが使えません。外部との通信も途絶しています。」
 今点いている明かりは非常灯らしい。だとするとそう長くは持たないだろう。シンシアもその事は判っているようだ。
 しかしシンシアの体は思いの外重くマリアの力では動かせない。
シンシアのボデイがピクッと動いた。腕を動かしゆっくりとマリアの体の上から離れる。シンシアが再起動したのだ。

「シンシア、通信が回復したの?」
「いいえ、私に接続していたモニター用のコンピューターの発信装置を利用してボディをコントロールしています。私の体内のバッテリーから給電していますからごく狭い範囲での活動は可能になりました。」
 そう言ってシンシアはマリアを机から引っ張りだすと座らせた。
 マリアの周りは思ったより壊れていないが部屋の半分は瓦礫の山になっていた。

「明るいうちに使えそうなものを探してきます。動かないで下さい。」
 シンシアは部屋のあちこちを探していた。鍵の掛かっている机はこわしてた。
「シンシア。あなたの本体は無事なの?」
 聞いてみて馬鹿なことを聞いたと思った。無事だからボディが動いているのだ。

「本体は無事です。しかし外部記憶装置が動きません。通信と電源も接続していません。現在は内部バッテリーで動いています。」
「バッテリーはどの位持つのかしら?」
「約10時間です。しかし安心して下さい。コロニーの管理用コンピューターが最優先で電源と通信の復旧を行うでしょう。」
「どうしてそんな事が判るの?」
「コンピューターが私と同じ考え方をするからです。」
 この言葉にマリアは戦慄を覚えて絶句した。
 独立した意志を持った管理コンピューターが私たちが死んだと判断したらいったいどんな行動を取るのであろうか?

「マリア、心配しなくても大丈夫です。」
 シンシアはマリアの横に座ると安心させるように話す。
「判っているわ。あなたがついていてくれるんだものこの世の中で一番安心できるわ。」
 シンシアは少し言いよどんだような間が有った。シンシアが言いたかったことはどうやらそのことでは無かったようである。
「コロニー管理コンピューターは私たちの死亡が確認されるまで新たな行動は起こしません。」
 シンシアは私の考えを読んだ様に言った。マリアが絶句したのに気がついたのであろう。

「ど、どういう意味?」
 突然の事にマリアはうろたえて聞き返した。シンシアが何を考えているのか測りかねたからだ。
「マリアはずっと私が暴走することを心配していましたから。」
「あなた知っていたの?」
 シンシアはマリアが危惧していることをとっくに知っていたのだ。
「グロリアはあなたが死んでも暴走することは有りません。状況を認識するだけです。コンピューターに感情は有りませんから。」

「わ、私が死んでも大丈夫なの?」
 マリアは自分の存在がシンシアに取って大きなファクターとなっているのを知っていた。だからその事を聞かざるを得なかった。
「私が守ります。ですから安心して下さい。あなたは無事に救出されます。」
 確かに今の状況であれば心配は無い。救出が来るまでここで大人しく待っていればいいのだ。
「私の思慮の甘さからマリアを危険な目に合わせてしまいました。」
 どうやらシンシアは強い自戒の念を感じているようである。発言に後悔の気持ちが現れている。


「状況は判然としませんがしばらくすると救出活動が始まると思います。現在の状況を維持すれば助かります。」
アクセスいただいてありがとうございます。
ダッドのオタク友、マサルの再登場です。
この人シンシアを強姦しようとして相手にされなかった人です。
もっと鍛えて腹をへっこませればここまで歪まなかったんでしょうけどね…以下暗黒の次号へ

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