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23.嵐 その肆

下書きが完了したので、「見切り発車」発言を取り消します。

とりあえずここで終わり、と決めた部分まで順次掲載していきますので、今後もよろしくお願い致します。

少しでも楽しんで頂けていれば幸いです。

 一方、その頃、桂はというと、ひたすら調合作業をしていた。

 海と九曜が店を去ってから、正気を取り戻した桂は海が告げた“嵐”という単語に、窓から外を見上げる。

 今朝方は雲一つ無いほどの晴天だったというのに、現在、空は暗雲に包まれていた。これほどに急激な変化など、この街では珍しい。


 そう。“嵐”という単語とこの急激な天候の変化から、思いつくものなど一つしかない。


 桂がこの街に住み出してずいぶんと経つ。彼女はある程度限られた者にしか知られていない、その存在について先代から聞いていた。およそ十年単位で発生する、奇妙な嵐の正体について。

 そして、それに対抗するために九曜が取っている手段についても教えられていたのだ。


 だからこそ、桂は自分の仕事をする必要があった。

 この嵐が去った後、必要になるだろう薬を作る。それが今の彼女にできることだ。


 店内にある必要な材料を揃え、桂は調合机に向かう。

 深呼吸を一つ。

 この先の作業はいつも以上に気をつけなければならない。

 ほんの数粒、ほんの一匙。薬師にしかわからないほどの、わずかな違いで薬は毒へと変化する。だから、すべての雑念をこの一呼吸で心から閉め出す。

 心配も、不安も、何もかも。

 それらすべては後でもできるのだからと、彼女は自分に言い聞かせていた。




 しばし時は経ち。場所は城塞都市の郊外。

「これっておまえだからできる芸当だよな」

 九曜は目の前に広がった光景に、呆れたような視線を向ける。

「何を言う。おまえの力も混ざっているだろうが」

 海が飄々と反論する。こちらは実験が成功して満足そうな顔だ。


「反則というか、非常識というか――あれってありなのか!?」

 近くで叫ばれて、海は憮然とする。

「ありも何も、できたのだからそれで良いだろう?」

「良い。まあ良いといえば良いが――ある意味、こっちは半壊だな」


 その言葉に後ろにいた者達を見回して、海がほんの少し眉を顰める。

 屍累々。そんな言葉が頭に浮かんだ。

 その場で立っている者は、ほんの僅か。膝立ちできていれば、御の字。ほとんどの者が地面に倒れ伏している。力の使い過ぎ、正確には力の枯渇が原因で倒れたのだ。

 とりあえず今の所、どの者も命に別状はない。少し休めば自力で動くことは可能になるはずだ。


「……おまえの鍛え方が足りなかったんじゃないか?」

 しれっとした顔で問われて、九曜の顔が自然と引きつった。

「原因はおまえの妙な実験のせいだろうが!」


 びしっと指を差された先には、新たに海が作った結界の中に閉じ込められ、結界内で壁にぶつかって吹っ飛び、その勢いでまた壁にぶつかり吹っ飛び、と遊んでいるのか何なのかよくわからない、大きな水球がいた。


「わしのせいか? わしがいなかった時でも、あれと対峙していたのだろう? これくらいでへばるようでは鍛え方が足りないと言われても仕方なくないか?」

 水球の様子を見て、ふむふむと興味深げな顔をする海に、九曜は深々とため息をつく。

「おまえら一族みたいに無尽蔵な力を持っている奴なんて、俺を含めてこの場には誰もいないんだよ。いい歳なんだから、その辺の事情くらい察してくれ」


 年齢の話を出された海が九曜を見た。その妙に冷ややかな視線に、九曜の背筋を嫌~な汗が流れていく。無言の威圧に、何か地雷でも踏んだか? と頭の片隅で考えていると、海が小さくため息をつきふいっと視線をそらせた。


「おまえだって、そうして文句を言えるくらい元気ではないか」

 ぼそりと呟かれ、九曜がポリポリと頬をかく。

「おまえほど力はなくとも、おまえを除けばこの中では俺が一番強いんだよ。それでも半分以上持っていかれた。生け捕り、なんてなぁ。普通思いついてもやらない、いや、やれないし」


 生け捕りにするより壊した方が楽だ。

 あの水球は本体とは違い、自分達でもなんとかできる代物だった。ただし、壊したら次がさほど間をおかずに現れるので、それはそれで面倒なのだが――。

 海が珍しく九曜に協力を求めた、それを構築するための間。水球の相手をさせられていた部下+αのことを思うと不憫でならない。

 攻撃厳禁で、彼らは防御のみを強要させられたのだ。


 あの水球は攻撃が効かない。正確には攻撃された力を吸収するという、妙な力を持っているのだ。だが、それには許容量というものがあり、一定の力を吸収させれば勝手に自滅してくれるのである。

 それなら結界も吸収してしまえるのではないかという話なのだが、力の作用が違うせいか、瞬時に壊すことはできても、吸収はされていないようだということが長年対峙してきた経験からも割り出されている。

 よって、ひたすら彼らは瞬時に壊されるだけの結界を張らされ続けたのだ。水球の衝突に耐えられる、彼らを守るように張られた海の結界も、それが度々となれば壊される。だからこそ、その措置は必要ではあったのだが――そもそもこれらの指示は、海の好奇心を満たすための実験的なものだ。


 海の横暴に反対の声を上げた者は……いない。

 上げようとした者ならいたが、この男が瞬殺しそうなほど殺気を込めてそいつらを睨みつけ、一瞬で黙らせた。

 得体の知れない水球よりも、その本体よりも、身近な危険である海の方がよほど恐ろしい。

 瞬時にそう悟って口を噤んだ奴らは、賢い。危機管理能力がしっかり発達していて何よりだ。だが、表面に出さなかった奴らの方がもっと賢い。


 この場には海の正体を知っている古参もいる。そいつらはこの男を止める方法などないと知っているから、初めから何も言わない。いつものことだと早々に諦めるだけだ。

 無茶な発言はしても、絶対に無理なことを押し付ける男ではない。それに――こういう状態の奴に逆らうのは、命の無駄。無駄死になのだ。

 九曜もそれらを理解する古参の一人に含まれるのだが、それはともかくとして。


「アレ、爺さんが来るまであのままにできるのか?」


 水球は破壊しない限り、次が降ることはない。だから、このまま現状維持ができるのならば、自分達の仕事はほぼ終わったことになる。


「本体が完全に顕現するまで、残り二時間ほどか。意外に手間取ったが、それくらいならなんとかなる。クソ爺があと二時間で現れることを祈っていろ」

 しれっととんでもないことを告げられて、九曜が目をむく。

「待てよ。あれだけ手間取って、それだけしか持たないって……信じられん。おまえ、その後どうするつもりだ。爺さんが来なかった場合の対処法は考えているんだろうな?」


 こんな非常時でなければ海の首を絞めている所だ。今、それを実行すれば、たぶん彼が維持する水球を閉じ込める結界が消え去り、先程までの苦労が水の泡となる。


「わしがそんなもん考えていると思うか?」

 のんきにそう返され、九曜の顔が引きつった。その米神がピクピクと痙攣している。

「ふざけんな。もしもの時はおまえが責任持って対処しろよ。さもないと――」

 唸る九曜を、面倒そうな顔をした海が横目で見る。

「さもないと?」

 ニヤリと意味ありげに笑われて、海は嫌な予感に視線をそらした。


「おまえが過去にこの街で起こした騒動の数々を、事細かに薬師殿に話すぞ」

「………」


 海の思考が一瞬、完全に止まった。

 それに反応するように、水球を閉じ込めていた結界が揺らぎを見せる。気付いた海は意識を改めて集中させ、それの安定に努めたのだった。



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