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わたし、不良品なんです  作者: 夢想花
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7.喧嘩の裁定

 食堂には家族が集まっていた。それぞれの専属のアンドロイドも一緒だ。ここなら親がいるからちょっとは楽だろう。

「大変でしょ」

 他のアンドロイドがネットワーク経由で声をかけてくれる。

 カレンを椅子に座らせると、すぐに食事が始まった。

 案の定、カレンがスプーンを床に落とした。この子はどうしてこう落ち着きがないんだろう。すぐに新しいスプーンをカレンの所に持っていった。

 食べ方もひどい、そこら中にこぼしまくっている。もう七歳なのにこの食事のマナーはひどすぎる。しかも、親は子供たちをまったく見ていない。一緒に食卓にいるが子供にまったく関心がないようで夫婦でおしゃべりをしている。

 カレンが荒れるのは親の愛情不足が原因かもしれない。

 カレンが食べ物をそこら中にまき散らしながら食事をしているのに対して、兄のセロルドの方はそれほどでもない、この二人の差はこの二人が幼いころ担当したアンドロイドの能力の差もあるのかもしれない、カレンはしつけがうまくいっていないのだ。

「セリー」

 ふいに旦那様に呼ばれた。

「どうだね、一日目の感想は?」

「はい…… なんとかやっています……」

「逃げ出さないでくれよな。アンドロイドが逃げ出すと新しいのを買う時に罰金を取られるんだ」

 罰金? 何のことだろう。

「カレン」

 旦那様がカレンにちょっと厳しい口調で声をかけた。

「セリーをいじめるんじゃないぞ。今度逃げたら罰金が法外な金額になる。とても払えない。だからもうアンドロイドは買えない。セリーが逃げたらお前はアンドロイドなしだ」

 そうなのか。セリーは罰金の制度を調べてみた。アンドロイドが虐待で逃げると補充のアンドロイドを買う時に罰金を払わなければならない制度になっていた。そして、回数が増えると罰金の金額がどんどん大きくなる。ラン家ではその金額がかなり巨大になっているらしい。

「ねえ、あなた」

 奥様が旦那様の肩に手をあてた。

「アンドロイドを交代したらどうかしら。セリーは今日できたばかりだからカレンの世話は無理だわ。ナシタを担当にしましょ」

 ナシタは奥様専属のアンドロイドだ。もし、カレンの専属を代えてもらえるのなら助かるが。

「しかし、セリーはカレンが選んだアンドロイドだ。カレンが気に入っているだろう」

 旦那様が反論する。

「しかし、とても無理だと思うわ」

「セリーはなかなかしっかりしているように見えるが」

 夫婦で議論がはじまった。

「おい、どうする?」

 突然、ネットワーク経由でバラッサの声が聞こえた。

「あたしはOKよ、奥様の命令なら代わっていいわ」

 ナシタの声だ。

「セリー、君はどうだ?」

 どうだと聞かれても、いったい何の事だろう。ナシタと交代するかと聞かれているように感じるが、アンドロイドは人間の命令に絶対服従じゃないのか、アンドロイドが好きな方を選べるわけがない。

「代わってもらえよ」

 誰かの声が聞こえた。

「カレンは君じゃ無理だ。十日もたないぞ」

 もう一台の声。

 しかし、もし代わってもらったとしても、今度はナシタがあたしの代わりに苦労することになる。それは甘えではないか。それに、もし代わってもらったら、ナシタが苦労しているところをいつも恐縮しながら見ていなければならない。それなら自分が苦労する方がいい。自分が新米なんだから一番悪い仕事を引き受けるべきだ。

「あたし、カレンの担当で大丈夫です」

 セリーは答えた。

「無理だと思うがな……」

 誰かの声。

「大丈夫です何とかやります」

「わかった。それでいいんだな」

 バラッサの声がした。

「はい」

 セリーはそう答えたものの、アンドロイドの間でこんな事を決めても意味がないだろうと思えた。

 夫婦の議論はしばらく続いていたが、奥様の方が強いらしく議論に言い負けて旦那様は黙ってしまった。

「じゃあ、担当を代えるわ。ナシタとセリー交代ね」

 奥様はそう言ったが、バラッサがおもむろに進み出た。

「ご主人さまのお考えは違うようですが……」

「違っていないわ。ね、あなた」

 奥様は旦那様を厳しい目で睨む。しかし、旦那様は困った顔をしているだけで首を縦に振らない。

「アンドロイドといたしましては、お二人のご命令を統一していただきませんと……」

 バラッサがいかにも困ったような顔をして言う。しかし、今のは奥様の命令が夫婦での議論の結果だと解釈すべきだと思うが……。

「それに、ご主人さまのご意見に理があると存じます。担当を代えるのでしたらアンドロイドを購入される時に、そのような計画で購入されるべきです」

 バラッサが丁寧に説明するように言ったが、ご主人さまの意見が正しいと言っているのと同じだった。

 奥様はむかっとしたようにナプキンをテーブルに投げ捨てた。

「あなたたちはいつもそうなのね」

 ガタンと席を立つと奥様は食堂を出て行く。

「おい、自分の意見が通らなかったからって、怒るなよ」

 旦那様が奥様の後を追いかけて食堂から出て行った。

 驚きだった。これって、人間の喧嘩の裁定をアンドロイドがやっている。アンドロイドが人間より上に立っているなんて……

「こんな事していいんですか?」

 セリーはネットワークでみんなに聞いてみた。

「アンドロイド規則には、『人間の命令が違った時は、より適正だと思われる命令にしたがうこと』とあるんだ。ぜんぜん問題ないよ」

 誰かが平然として答えた。とんでもない事だ、これではアンドロイドが人間を支配することになってしまう。

「こんな事、普通に行われているんですか?」

「もちろん、どこでもやっている事さ」

 セリーは唖然としていた。人間もアンドロイドがこんな事をしても怒る様子もない。アンドロイドが人間を支配している部分もあるのだ。セリーは高揚感のある不思議な気分が沸き起こってくるのを感じた。アンドロイドもそれほど悪くないのかもしれない。


 しばらくして二人は食堂に戻ってきた。

 奥様はもう怒っていない。

「折衷案よ。担当は代えないが時々交代させることにするわ。明日はラスタとセリーが交代ね」

 名案だと思った。セリーとしてもこれならそれほど引け目を感じないですむ。辛い事はみんなで負担しようと言うわけだ。ラスタは旦那様担当のアンドロイドだ。じゃあ、明日は旦那様に一日つくことになるのだ。

 これは人間の命令が一つしかないので逆らう事はできない。

「承知しました」

 アンドロイド全員が頭を下げた。

 カレンの食器はもう空になっていたが、彼女は物足りないような顔をしている。回りに飛び散っている食料から推測するにカレンはほとんど食べていないんじゃないだろうか。コックのアンドロイドがお代わりをカレンの食器に注いでいた。



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