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わたし、不良品なんです  作者: 夢想花
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5.新しい家へ

 店を出ると、車と言う、空を飛ぶことができる自家用の乗り物が待っていた。広い窓があって窓からシートが五列くらい並んでいるのが見えた。家族四人で乗るにはかなりの広さだ。

 お供の紳士が素早く車の横の行くとドアーを開いた。

 家族はそのドアからどんどん乗り込んで行き、思い思いの席に座っている。家族の後ろからついてきたセリーは彼の前で立ち止まった。

「あの、あたし、セリーです」

「ラン家へようこそ。私は執事のバッサラです」

 先輩だ。これから彼にいろいろと教えてもらわなければならない。

「よろしくお願いします。あたし頑張ります」

「こちらこそよろしく」

 彼はやさしく微笑んだ。その笑顔にどこか心が高鳴った。

「さあ乗って」

 バッサラはセリーに乗るように手を差し出した。

「いえ、あたしが最後に乗ります」

 先輩を差しおいて先に乗るなんて失礼だ。

「私はこれが仕事なんだ。さあ乗って」

 バッサラに諭されてセリーは車に乗った。中は広く中央が通路になっている、空いた席がたくさんあってどこに座ったらいいかわからない。

「お嬢様の横に座りなさい」

 後ろからバラッサが教えてくれた。

「それと、場所が変わったらすぐにそこのネットワークに繋ぎなさい。アンドロイド同士、常に情報交換をしなきゃいかんからね」

 ハッとした。そうなんだ。今のも本当はネットワーク経由で人間にわからないように教えてくれようとしていたのだ。

「すみません」

 セリーはあわててネットワークに接続した。

「だから、人間に聞かれないように!!」

 ネットワーク経由で頭の中にバラッサの怖い声がした。人間の前ではアンドロイド同士で会話をすることは良くないのだ。


 カレンは顔を窓につけて外を眺めていた。

「では、やって」

 旦那様がそう言うと、車はすーと浮き上がり、すごい速度で飛び始めた。バラッサが操縦しているのだ。

 始めて見る景色はすばらしかった。緑の平原がはるか彼方までひろがり、青い空には白い雲が浮かんでいる、横にいるカレンみたいに窓の顔をつけて眺めてみたかった。下には建物なんかが見えているのだろう。

「ここに接続してごらん」

 頭の中でバラッサからの声がした。なるほどこれは便利だ。人間に悟られることなくアンドロイド同士で会話ができる。教えてくれたポイントに接続してみた。

 頭の中に景色が広がった。車の前方にあるカメラに接続したのだ。窓枠などの障害物なしに前方がすべて見える。すばらしい景色だった。わりと低空を飛んでいるので、地上の家や木々が滑るように通りすぎていく。前方には山があって青く霞んでいる。思わず息を飲むような景色だった。

 やがて別の情報があることもわかってきた。この車の速度や高度、現在位置、さらには近くを飛んでいる別の車の位置などがわかる。

「君もお嬢様を車にお乗せすることがあるだろうから、車の操縦方法を覚えておきなさい」

 バラッサが厳しい声で言う。びっくりだった、これを操縦しなきゃいけないのか。


「おまえ、景色を見ているのね!」

 不意にカレンが怖い声で聞く、セリーは頭の中の景色を見ていたが顔は窓の外を見るような向きになっていた。意味が分からなかったが思わずうなずいた。

「おまえは景色を見ちゃだめ。目をつぶんなさい」

「えっ、はい」

 なんと答えたらいいか分からなかったが、セリーは言われたとおり目をつぶった。

 アンドロイドは人間の命令には絶対服従だ。たとえそれが幼い子供の命令であってもだ。

「アンドロイドのくせに景色を見るなんてもってのほかよ」

 カレンが厳しく言いつけるように言う、カレンは相当にひどい子らしい。

「車の室内のカメラはここだよ。車内の様子がわかっていないと動けないだろう」

 また、バラッサから声がした。

 そこに接続すると、車内の様子が見えた。目をつぶっている自分も見える。車内の前方天井付近に車内を写すカメラがあるらしい。

「ありがとうございます」

 バラッサは本当に親切なアンドロイドだ。

「いい、あなたはアンドロイド。アンドロイドのくせに生意気な事をしたら蹴飛ばすからね」

 カレンは強い口調で言う。わがまま放題に育っているのだろう、ちょっと困ってしまう。

 カレンにどう対応したらいいのか分からずもたもたしてる間に車はラン家の家に着いてしまった。

 みんなは降り始めた。しかし、セリーが席を立たないとカレンは降りられない。

「あの。もう目を開けてよろしいでしょうか?」

「いいわよ、さっさとどきなさい」

 いらいらしたようにカレンが怒鳴る。どうもカレンとはうまくいきそうにない。

 ラン家の屋敷は木々に囲まれたすばらしい所に建っていた。玄関には数台のアンドロイドが出迎えに出ている。

 セリーは素早くこの家のネットワークに接続した。さっきみたいなミスはもうしたくない。

「みんなを紹介するよ」

 バラッサの声がする。ネットワークを使って自己紹介が始まった。表面ではラン家の人々に「お帰りなさいませ」と言って頭を下げているのに、その裏で自己紹介をしている。

 家族四人がそれぞれ専属のアンドロイドを持っている。そして、その他に料理の担当や掃除家事の担当、庭師、そして全体を取り仕切る執事と全員で十台のアンドロイドがいた。

 セリーはもちろんカレン専属のアンドロイドだ。

「あなた、二ヶ月もてばたいしたものよ」

 一人が言うとみんなが笑った。

「そんなに、ひどいんですか?」

 セリーは心配だった。

「ひどいも何も、殴る蹴飛ばすだからなあ」

「前任のアンドロイドはどうなったんですか?」

「もちろん、逃げ出したよ」

 表面では、ラン家の人々の後に続いてしずしずと家の中に入っていく裏でこんな会話が行われていた。


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