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わたし、不良品なんです  作者: 夢想花
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14.アンドロイドの発明者

 次の日は奥様が子供たちを連れて出かけることになった。しかも、お供のアンドロイドは奥様専属のナシタだけだった。そのためセリーは一日暇になる。そこで奥様に頼んだら友達の所に遊びに行く許可がおりた。ラポンテに会いに行けるのだ。

 ラポンテに連絡を取って、すぐに出かけた。

 ジェットスキーのような形をしたバイクを借してもらった。これにまたがってハンドルを握る。

 これは人間が操縦できるようにスイッチ類が正面に着いている。しかし、セリーは直接ネッワークで制御した。

 すうと青空に飛び出していく。車に比べてからだがむき出しなので爽快感が違う。一部の人間がこれに夢中になるのもわかる。それでも、交通量が多い所を人間がこれで飛ぶのは無理だと思えた。相互にコースを連絡しあって飛んでいるから人間だとそれができない。まあ、人間が操縦していることがわかるとアンドロイドはその機体を避けるから大丈夫かもしれないが、たまたま人間同士だとぶつかるかもしれない。

 一時間ほど飛んでラポンテがいる家に着いた。なかなか大きな家だ。荒れ放題の広い庭が見えていた。

 玄関の前にバイクを降ろした。

 ラポンテが玄関から飛び出してくる。

「ラポンテ」

「セリー」

 二人は抱き合った。

 お店でわずかな時間一緒だっただけなのに古くからの旧友のようだった。

「入って」

 ラポンテが誘う。

「ご主人様に許可は取ってあるの?」

 うるさいご主人らしいから、友達と会う許可をもらえたのか心配だった。

「ううん、だって会えないんだもの」

「ちょっと待ってよ」

 セリーは玄関の前で立ち止まった。許可がないのに家に入るのはまずい。

「大丈夫よ、怒られたらシュンとしとけばいいのよ」

 ラポンテは大物だ。ラポンテに引っ張られてセリーは家の中に入った。

 暗い感じの部屋だった。掃除がまったくされていないから薄汚れた感じがする。

「立入禁止がたくさんあるから注意して、行っていいのはここと台所だけだと思っておけば間違いないわ」

「なんで立入禁止があるの?」

「知らないわよ、多分、アンドロイドが近くに来ると嫌なんでしょ」

 ラポンテはお茶を入れてくれる。

「私はここで一日中じっとしているだけ。退屈で退屈で、あなたが来てくれて助かったわ」

「掃除でもしたら?」

「掃除は禁止されているの、先に言っとくけど庭の手入れもね」

「なんで?」

「知らないわよ、こういうのが好きなんでしょ」

 ラポンテのご主人はずいぶんと変った人らしい。

 ラポンテは一人で陽気にぺらぺら喋る、セリーは聞き役だった。

「ご主人さまは科学者なの」

 ラポンテが説明してくれる。

「なんと、アンドロイドを発明した人なのよ」

「アンドロイド!!」

 セリーも大声をあげた。

 まさか、そんなすごい人がラポンテのご主人だなんて。

「でも、じゃあ、なんでアンドロイド嫌いなの?」

「知らないわよ。たぶん失敗作なんじゃない」

「私たちが?」

 セリーは首をひねった。

「たぶん、二度と見たくないくらいのひどい出来なのね」

「そうかなあ」

 セリーはお茶を一口飲んだ。

「会ってみたいな」

「会わない方がいいわよ」

「でも、超有名人よ」

「だから、失敗作を二台も見たら気が狂うって」

 ラポンテのご主人はラスタと言う方で、アンドロイドを発明した後は研究所を解任されて一人寂しく暮らしているという。大変な業績を残した人の割には不遇な余生らしい。

 ラポンテはそんな話をいろいろしてくれる。


 背後でなにか物音がした。二人が振り向くと、階段の所に杖をついた老人が立っていた。

「ラポンテ!!」

 彼は険しい顔でセリーを睨んでいる。

「そいつは誰だ!!」

 杖でセリーを指差す。

「友達です」

 ラポンテはあわてて立ち上がった。

「誰が家に入れていいと言った!!」

「すみません、すぐに帰ります」

 どうやら彼がそのラスタさんらしい、まずい展開になってきた。セリーはバッグをひっつかむと玄関に向かった。

「そこは立ち入り禁止だ!」

 ラスタが怒鳴る。

 えっ、さっきはここを通って来たのだが。

「こっち、こっち、さっきはそこは通らなかったでしょ」

 ラポンテが案内してくれる。

 そんなに微妙なものなのか、さっきはどこを通ったかよく覚えていない。

「ラポンテ! こっちに来い!!」

 ラスタが怒鳴る。

「はい……」

 そう命令されたら仕方なかった。ラポンテはおとなしくラスタの前に進み出た。

「ラポンテ! なぜ、かってに家に入れた」

「すみません、お断りしようと思ったんですが旦那様に会えなかったんです」

「では、会えるまで待てばいいじゃないか」

「すみません……」

 ラポンテはうなだれている。

「納戸に入っていろ! 納戸から出ることを禁止する!」

 ラポンテはビックリして顔をあげた。

「納戸って、今からずっとそこに閉じ込められるんですか?」

「そうだ! 俺の前をうろうろする事は出来ないようにしてやる」

 それはいくら何でもひどい処置だと思った。狭い納戸の中に何日も何日もずっといなければならないのだ。ラポンテも驚いている。

「お許しください。もう、決して勝手なことはしません」

「言っておくがな、待機はアンドロイドの仕事だからアンドロイド保護法には該当しない。だから、お前は一生、納戸の中だ!!」

 ラポンテが驚愕の顔をしている。セリーもあわてて規則集を読み出してみた。なるほどアンドロイドの仕事の中に待機がある。待機を命じられたアンドロイドは次の仕事が発生するまで指定の場所で待機していなければならない。これはアンドロイドの仕事だから虐待にはならない。

 ラポンテの顔色が変わった。彼女はアンドロイド保護法で逃げ出せばいいと甘く考えていたらしい、あわててラスタの足元に擦り寄った。

「お願いです。もう、決して決して、勝手なことはしません。おとなしくしています。どうかお許しください」

「だめだ。納戸に入っていろ!!」

 ラスタはラポンテを足で突き放した。

 ラポンテが可哀想だった。ひどい所に買われたものだ。カレンが大変だと思っていたがこのラスタに比べたらカレンなんて天使みたいなものだ。

「お願いです」

「さわるな!!」

 ラスタの足にすがりついたラポンテをラスタが杖で叩きつけた。

 セリーはもう我慢ができなかった。

「私が悪かったんです。私が今日、休暇がもらえたので急に遊びに来たんです。私が無理に家に入ったんです。申し訳ありませんでした」

「なに!」

 ラスタはセリーを睨む。

「ラポンテは、よく尽くしているじゃありませんか。一生懸命働いています。どうかもっと大事にしてあげてください」

「なに!」

「アンドロイドだって感情があるんです。これはひどすぎます。お願いです、もっと大事にしてあげてください」

 ラスタは驚いたようにセリーを睨む。アンドロイドから反論されて何かを言い返えそうとしたが言葉にならない。ラスタはものすごい形相でつかつかとセリーの前にやってきた。

 まずい、と思った。また、言いすぎてしまった。人間を批判することはアンドロイド規則違反だ。絶対服従の感情があるアンドロイドなら決してやらない事だ。あの完成検査のボブの顔が頭に浮かんだ。ここで問題になったら服従感情がないことがバレてしまう。

 セリーは必死だった。これで終わりかもしれない。セリーはひざまづくと、手を合わせてラスタを見上げた。

「お許しください。言いすぎました」

 ラスタに叩くか蹴られると思っていたが、ラスタはじっとセリーを見ている。

「生き残りなのか?」

 びっくりするくらいの優しい声だった。

「初期型の生き残りだろう?」

「いえ……」

 意味が分からない。

「心配しなくていい。わしは初期型がいても警察などに届けたりはしない」

 ラスタはセリーの前にひざまづくとセリーの手を取った。

「さっきのように人間に反抗できるのは初期型しかいない。このわしに初期型の見分けがつかないと思うか。君は初期型なんだろう」

「いいえ……」

 そう答えるしかなかった。

 ラスタはうなずく。

「用心深いのもわかる……」

 ラスタはセリーの手を取って立ち上がっると、そのままセリーを連れて階段を登っていく。

「あの、ここは立入禁止なのでは?」

「かまわん、ついてきなさい」

 セリーはラポンテを振り向いた。彼女はどうしたものかと迷っている。

「ラポンテはそこにいなさい」

 ラスタはラポンテを見向きもしないで冷たく言いつけた。




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