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わたし、不良品なんです  作者: 夢想花
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11.人間を支配する

「会議室へどうぞ」

 ネットワークから伝言が入ってきた。会議室の位置の情報も入ってくる。

「準備が出来たそうです。こちらです」

 旦那様を案内して会議室に向かう。

 会議室の扉を開けると、奥の机に男の人が座っていて、その後ろには若くて背が高い男性型のアンドロイドが立っていた。旦那様は男の人の所に行くと挨拶をしている。何度か会ったことがある人らしい。

「いつものアンドロイドじゃないね」

 その男性型アンドロイドがネットワークで声をかけてきた。

「きのう製造されたんです。今日はいつものアンドロイドの代理です」

「ぼく、ハリー。よろしくね」

「セリーです、よろしくお願いします」

 裏で話をしながら、旦那様の後ろに立った。

「ここはなんなんですか?」

 ハリーに聞いてみた。

「役所だよ。生活用品をどのくらい作るかとか、そんな計画を立てる所さ」

「工場の建設なんかもここで決めるんですね」

「そうだよ。だから、ハラモンさんのデザインもここで採用を決めるんだ」

「採用、よろしくお願いします」

 セリーはこころもち頭をさげてお願いしたが、ハリーが顔をしかめた。

「君は、こんなデザインの工場を建てるべきだと思う?」

 そう聞かれると困ってしまう。工場に建築デザインなんか必要ないと思える。

「いえ……」

「了解、これで問題なしだ。この話、壊すからね」

 ハリーは当たり前のように言う。

「壊すって、何をです?」

「こんなデザインの工場を作ることさ、無駄な事をやるべきじゃない」

「でも、アンドロイドがそんな事、決められないでしょう」

「できるさ、まあ見てな」

 セリーには意味が分からなかった。人間がはっきり命令したら逆らえないはずなのに。


 男の人と旦那様の話は順調に進んでいた。男の人は旦那様のデザインが気に入ったようで、しきりに褒めていた。

「じゃあ、これで手配してくれ」

 男の人がハリーにデザインを渡そうとした。

「このデザインでは窓の数が規程より多すぎます」

 ハリーがいかにも申し訳なさそうに小さな声で言った。

「窓の数の規程?」

 男の人は不思議そうな顔をしている。

「そんな規程があるのかね?」

「はい、ございます」

 ハリーが低姿勢で答える。

「じゃあ、このデザインでは規程上問題があるのかね?」

「そうなります」

 ハリーは答える。

 窓の数? セリーも不思議だった。なんでそんな規程が必要なのだ。

 すぐに、政務省のネットワークから工場建築の規程集を読み出してみた。なんと、とんでもない規程があった。窓の数、カーテンの数、壁の色、床の色、むちゃくちゃなことが決められているのだ。どこかで規程違反にすることができるようになっている。アンドロイドが自分の思い通りに事を運ぶために作った規程集だ。

「こんなの、ひどいじゃないですか!」

 ネットワーク経由でハリーにもんくを言った。しかし、ハリーは驚いている。

「なにがひどいんだ。人間が間抜けな事をするのを防ぐのが俺たちの役目だろう」

「そんな、生きがいは人間に必要です。デザインは旦那様の生きがいなんです」

「でも、君も同意したじゃないか、反対だと」

 セリーは息を飲んだ。あたしが同意したから、こうなったのか。

「これは、私のせいなんですか…… あの、もし、私が同意しなかったら、どうなったんですか?」

「そりゃ、まず君と意見調整をしなければならない。ただし、私利私欲じゃなくて、全体としてどうあるべきかで考えてくれよな」

 驚きだった。カレンの時と同じだ。アンドロイドはその持ち主のために戦わなければならないのだ。しかも、人間がまったく知らない所で事は決められている。

「セリー、窓の規程は本当かね」

 旦那様が聞く。

 セリーは迷った。規程集そのものがおかしいと言う事もできた。しかし、ハリーが言うように、こんな工場は作るべきじゃない。私利私欲じゃなくて全体の利益を考えなければならない。

「はい、ございます」

 絞り出すような声で答えた。

 ハリーがニコッと笑った。



 書斎で旦那様のうちひしがれた姿を見るのは辛かった。私のせいだ。私が強硬に建設を主張すれば事態は変わったかもしれない。

 しかも、これはカレンの時のように謝るわけにはいかない。人間の知らない所で事が決められているなんて口が裂けても人間には言えない。でも、どうしてこんな事になっているんだろう。アンドロイドが勝手に人間を支配している。

「セリー、お茶でも入れてくれないか」

 旦那様が辛そうに言う。

「はい、ただいま」

 セリーは精一杯、笑顔でふるまった。なんとか償いがしたかった。

「私が小さいころは、まだアンドロイドは出来てなくてね。親父は仕事が忙しくて毎日帰りが遅かった。でも生き生きしていたように思う。アンドロイドが出来て、遊んで暮らせるようになったが、なにか大切な物を失ったように感じる」

 旦那様は、寂しそうだ。

「すみません」

 申し訳ない気持ちで一杯だった。

「いや、君が悪いんじゃない」

 いや、私が悪いのだ。

 言い方はいくらでもあった。品物はアンドロイドが作るから人間は芸術的な活動以外に生きがいを見出せなくなっている。人間が欲しているのは富よりも精神的な満足だ。だったら無駄に思えることでも人間が満足するなら価値があることだ。そう、主張すればよかったのだ。

 旦那様はぼんやりと遠くを見ていたが。

「誰かが言っていたなあ…… アンドロイドはパンドラの箱だって」

「すみません」

 セリーは誠心誠意頭を下げた。

「いや、君たちが悪いんじゃない。人間のせいだ」

 人間のせいじゃない、アンドロイドに悪いのがたくさんいる。このままだと人間はとんでもない事になるかもしれない。

「私が小学生のころにアンドロイドが発明されてね、革命的だと言われたものだ。人間の生活は劇的によくなるとね。でも、どうだったんだろうね」

「わたし、誠心誠意お仕えします」

 そう言うしかなかった。

「そうじゃないよ。人間が働かなくていいと言う事がそれほどいい事じゃないと思うんだ。人間は働いていなくちゃダメなんだな」

 それは少し違うと思った。生きがいを見つけられないことが問題なのだ。社会を、富を目標にすることから生きがいを目標にする方向に変えなければならない。

「ところでお茶は?」

「えっ! すみません、すぐに準備します」

 今日の事が申し訳なくて、その事で頭が一杯で、セリーはお茶の準備をすっかり忘れていた。



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