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わたし、不良品なんです  作者: 夢想花
10/19

10.旦那様

 次の日は、旦那様の担当をすることになった。担当といっても何もしないのが仕事だった。旦那様は書斎で調べ物をしているから、書斎の隅に立って、何か用を言われるまでじっとしているのだ。カレンの担当と比べると楽だが、退屈でこれはこれで大変な仕事だった。

「さて、政務省に行くぞ」

 旦那様は立ち上がった。旦那様は建築デザインの提案をしていて、その説明に行くらしい。

 旦那様の後ろについて行くと車庫についた。車庫には、きのう乗った大型車と個人で乗って行くための小型車が置いてある。旦那様はその小型車の横に立ってじっとしている。

 そうだ、ドアーを開けなきゃいけないんだ。

 セリーはあわててドアーを開けた。旦那様が乗るとその後について車に乗り込んだ。

 旦那様は前の席に座ったのでセリーは後ろの席に座った。座ったのはいいが車は動かない。まさか、この車を私が操縦しなきゃいけないのか。

「あの、私、操縦は無理です」

 冷や汗をかきながら言った。

「ゆっくりでいいよ、君はアンドロイドだからできるだろう」

 アンドロイドだからできる? なぜ、そうなるのだ。あわてて操縦の説明書を頭の中に読み出した。パパッと読んで、およそ操縦の仕方はわかった。しかし、いきなり操縦なんて。

 まず、原子力エンジンをスタート、続いて反重力装置を起動。緊張で手が震える。徐々に反重力をかけていって車を浮かせる。車が少し浮き上がったので、そのまま車庫から引き出した。

「うまいもんだ、さすがだね」

 旦那様がほめてくれる。うまいって浮かんだだけじゃないか。

 次は政務省の位置が必要だ、頭の中に地図を取り出す。さらには交通法規、それにも目を通す。

「では、ゆっくり動かします」

 少し上昇させて進み始めたが、前がよく見えない、そうだカメラに切り替えなきゃ。

 前方のカメラに切り替えると、まるで自分が空を飛んでいるような感覚になってきた。すぐに、思うだけで思う方向に動かせるようになった。

 どんどんスピードを上げて高く飛び上がる。すばらしい気持ちだった。青い空の下、風の中を突き進んで行く、地上の家や木々が後ろに流れていき、前方に湖が見え湖面が朝日に輝いている。

 車がまるで自分のからだそのものだった。風が当たる肌触りさえ感じられる。風を切って右へ左へと向きを変え宙返りをする。

「わっ!!」

 旦那様が座席の上でひっくり返っていた。

「すみません、すみません。不慣れなものですから……」

 そうだ、車の中には旦那様が乗っていたんだった。セリーは必死で謝った。


 今度は政務省の方角に向かって真面目に飛ぶ。

 徐々に周囲が混雑してきた。交通法規に合わせて衝突しないようにしないといけない。空には道路なんかないから、衝突防止は周囲の車とお互いのコースを調整することによって行う。

 自分がどこを通るつもりなのかを周囲の車に送信しておく、周囲の車からも情報が入るからお互いにコースを調整しながら飛ぶ。

 不意に流れを横切る車から連絡が入った。

 ほとんどの車はほぼ同じ方向に向かって飛んでいた、この方が調整が楽だからだ。しかし、流れを横切る車が出てくると調整が大変になる。細かく情報を交換してコースを決めなければならない。調整の結果セリーの車のすぐ下を通過する形で交差することになった。絶対にコースを間違えられない。間違うと衝突してしまう。

 右からものすごい早さで一台の車が突っ込んでくる。緊張の一瞬だった。

 あっと言う間に交差した。セリーの車の下を横切って左後ろに遠ざかって行く。ちょっと怖かったが、車の操縦がこんなにもおもしろいとは。



 政務省に到着した。

 政務省の正面に車をつけると、車を降り旦那様と一緒に政務省の階段を上がっていく。しかし、一方で車を政務省の駐車場に入れなければならない。マルチタスクになる、つまり同時に二つの処理を行うのだ。

 旦那様の後ろを歩きながら、車を操縦し駐車場の空いた場所に降ろした。セリーも徐々にいろんなことができるようになってきた。


 打ち合わせの時間まで控え室で待っていた。旦那様は今から説明する書類を見直している。

「これ、デザインなんだ」

 セリーにデザイン画を見せてくれた。

 それは、不思議な形をした工場だった。

「家具製造工場のデザインなんだ。私は建物のデザインをやっている」

 デザインは何枚もあった。旦那様は順に見せてくれる。

「生活に必要な物は全部アンドロイドが作ってくれるから人間は働く必要がない。遊んでいても暮らせるんだ。ただ、遊んでいては生きがいがないから何かやりたいと思う人は多い。やるとしたら芸術的なことしかないから、私は建築デザインをやっている」

 旦那様はポケットから数枚の写真を出して見せてくれた。

「これが、私がデザインした家だ。なかなかのものだろう。今までは個人の家だったが、今度始めて大きな建物のデザインをしたんだ」

 始めて人間の事情を知った。アンドロイドに生まれたことがショックだったが人間も大変なんだ。それでも、この工場のデザインはどうもピンとこなかった。工場なら普通の建物でいいのに。

「そうだ。ちょっと目を通しておいてくれないか、間違いがあるといけない」

 書類を渡された。今日、旦那様が説明に使う資料だ。人間が作った書類をアンドロイドの私がチェックするなんて恐れ多いと思ったが、命令だからともかく受け取った。

 稚拙な文章だった。意味がよくわからい上に結論がない、何が言いたいのかよく分からない文章だった。こんなものを人間が書くのか。

 おかしな所だらけだが、意味が完全に逆転している所がある。ここは客観的に見ても間違っているから指摘してあげないとまずいだろう。

「あの、ここがおかしいですが……」

「どれどれ」

 旦那様は書類を受け取った。

「ここです。前のページの説明と意味が逆になっています」

 場所を指差してあげた。

 旦那様は指摘したページを眺めている。最初は何をしているのかわからなかった。なぜ書類を読まずに眺めているのか、三十秒ほどたった時旦那様がページをめくった。

 読んでいるんだ!! 驚きだった、人間は文章を読むのにものすごい時間がかかるのだ。さらに三十秒ほどかかってページをめくる。

 さっきの車の操縦法の説明書は三百ページほどあったが、あれを読むのに0.1秒しかかからなかった。

「なるほど、逆になっているね」

 旦那様が納得してくれた。

「訂正して印刷してくれないか」

 印刷!! プリンターが必要だ。あわててネットワークからここの政務省の図面を引き出した。最寄りのプリンターの位置を調べ、そこに印刷を行う。この程度の文章は完全に頭に入っているから、間違っている所を訂正して出力する。よっぽど文章全体を書き直してやろうかと思ったがそれはひかえた。

「プリンターから取ってきます」

 セリーはプリンタのある場所に向かって走り出した。プリンターから文書を取ると旦那様に渡した。

「ありがとう、たいしたもんだね」

 どこか、寂しそうに聞こえた。人間はアンドロイドより劣っている。人間の知能はアンドロイドよりかなり低い。人間は何もかもアンドロイドに依存している。そんな事を自覚しているように見えた。


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