『死亡報告書:明日』
地下一階、埃とカビの匂いが支配する記録保管室。私の仕事は、毎日届く「死亡報告書」を日付順に入力・整理するだけの、死者の名前を数える作業だ。
その日、指先を滑り落ちた一枚の紙に、私は凍りついた。
提出日は「明日」。記載された死亡者の名は、私自身のものだった。
「……死因、交通事故。場所は駅前の交差点。時刻は午後三時」
心臓が早鐘を打つ。
……私は明日、駅前へ行く予定だった。
書き損じを疑い、上司に詰め寄ると、彼は感情の失せた目で私を見た。
「外れることはないよ。どうズレても、最後は同じになる」
翌日、私はすべてを拒絶し、アパートの自室に鍵をかけ、引きこもることに決めた。
駅前に行かなければ、事故など起きるはずがない。
午後二時五十五分。
私は部屋の中央で膝を抱え、時計の針を凝視していた。三時になれば、この悪夢は終わる。
——午後三時。
静寂を切り裂いたのは、断末魔のような衝突音だった。
窓もドアも閉め切った自室に、場違いなアスファルトの焦げた匂いと行き場を失った野次馬のどよめきが滲み出す。
それらと呼応するように部屋の「内側」から、空間が湿った軋みを上げて裂け、その歪んだ空間の裂け目から、何かが“落ちてくる”。
瞬間、視界を埋めたのは「血まみれの私」だった。
トラックに轢かれたかのように四肢が歪み、潰れた顔の男。それは、本来あちら側の世界で死んでいるはずの、昨日予定されたはずの私だった。
「……来なかったな」
「だから、ここに来た」
それ(私)は、ひび割れた声で笑った。
逃げ場のない密室で、私は自分自身に押し倒される。首を絞める自分の指先。抵抗する私の指先。二つの指が、パズルのように完璧に噛み合い、絞まり、視界が白濁していく。
意識が途絶える寸前、傍に一枚の紙が舞い落ちるのが見えた。
そこには、今この瞬間の「事実」が、冷徹な活字で刻まれていた。
死亡者: 私
死因: 侵入者による絞殺
備考: 犯人は被害者本人
最後の一行、「本人」の文字だけが、まだ生々しく黒いインクを滲ませていた。




