通学 4
「私たちって気が利くでしょ?」
と嬉しそうに笑う二人。かなり赤くなっている自覚のある私だけれど、
「ありがとう。」
と二人の気遣いにお礼を言う。
「なんか、あんまり浮かれてないけど、どうしたの?学校まで一緒に歩いていくと思ってたから私たちも距離とってたんだけど、くまおさんどっか行っちゃうし。」と奈々。
「どうしたん?」と美咲。
同じ高校へと向かう学生たちの流れに沿うようにして歩きながら、
「拓海君、ちょっと寄るところがあるからって駅前で別れることになった。」
「???」
二人の顔に学校に行く前にどこに行く必要があるんだ、という疑問が浮かんではいるけれど、それは私も思ったことで、でもそれに対しての答えは出ない。
美咲がとても誇らしげな顔をしてスマホの会話を見せてきた。
「ほら、これ見て!!褒めて!褒めて!」
という美咲に奈々が
「ほんと、いい仕事したよね。見事だった。」
とよしよしと頭をなでてあげている。
渡されたスマホを見てみると
『ちょっと、待て。』
『近寄るな、声かけるな。』
『馬鹿、そこで立ち止まれ!!』
『隣の車両だよ。』
『いいから。あとで説明する。』
かなり一方的な乱暴な言葉が並んでいる。
会話の相手を見てみると
吉蔵
「須藤先輩??」
うん、と頷く二人。
「吉蔵、乗り込んだらくまおさんがいたからかなりうれしそうな顔して近寄って行こうって動き出してたから。混んでるのに、それでも行こうって、どう思う?吉蔵、くまおさんのことかなり気に入ってるみたいなんだよね。だからちょっと激しめな言葉になっちゃったけど急いで送ったんだ。」
「美咲、すごい勢いで打ってくれた。吉蔵を阻止したんだよ。」
奈々も興奮しているのか、須藤先輩をさらっと吉蔵呼びにしている。
そんなことがあったとはつゆ知らず。なんか、ありがとう、と二人の気遣いにまた感謝。かなりきつめの言葉遣いであることは少しばかり気になったけれど、二人の関係はこんなかんじなんだな、とスマホを返そうとしたら着信音。
受け取った美咲が画面を見ながら、
「あ、吉蔵からだ。後ろ歩いてるって。」
暗黙の了解から振り返ってたしかめたりしないし、須藤先輩も私たちに追いついてきて話しかけたりすることはしない。
『で、説明は?』
「どうしよう。考えてなかった。これって吉蔵に説明しちゃってもいい件?」
説明って、私のことだよね。それはちょっとばかり恥ずかしい。
『俺のこと馬鹿呼ばわりしたんだから、それなりの理由はあるんだよね?』
という須藤先輩の少しばかり怒ったようなメッセージを読んだ美咲。ちょっと焦りだす。
「焦ってたから、怒らせたかも。あいつ、外面いいけど私には容赦ないから。」
という美咲に
「とりあえず保留で。学校で落ち着いて相談しよう。」
と返す奈々。
『歩きスマホは危ないからやめたほうがいいよ。あとでちゃんと説明するから。』
なんだかもっともらしい正当な返答をしてお茶を濁すことにした。
後ろで女の子から
「おはよう、須藤君。」
とハートがそこら中に散らばっているかのような声をかけられてさわやかに挨拶を返す須藤先輩の声が聞こえた。途中で合流して一緒に歩いていたらしい須藤先輩の友達が
「唯ちゃん、ぼくは?おはよう?」
と挨拶をしてきた子に絡んでいって小さな笑い声が上がる。
「吉蔵、いい友達が周りにいるんだな。良かった。」
と嬉しそうな美咲。スマホの着信音が聞こえて、
『昼休み、弁当持って音楽の準備室まで。』
「吉蔵、めっちゃ短気。本当のことを話すか、なんかそれらしい理由付けをするか。早く考えないと。」
*********
話し合いの末、昼休みは3人で行くことになった。
須藤先輩と拓海君が友達なのであれば、情報共有をした方がよいかもしれない、と。男目線でも意見を聞けるかもしれないし。美咲にが言うには、須藤先輩は大事なことは絶対に言わないと約束したらそれをちゃんと守ってくれるらしい。恥ずかしいけど、本当のことを言う事にした。美咲は
「それらしいことを言っても、あいつ、ヘンに頭がいいから、そういう事察して絶対に問い詰められるんだよね。で、事実を吐くことになる。嘘つこうとしても、絶対にばれるんだ。変な方向に勘繰られて面倒なことになるくらいなら、桐子がいいなら事実を言ったほうがいいかも。」
美咲と奈々の良かれと思ってとった行動から、なぜだか拓海君の友達に私の思いを告白しなければいけない、という状況に追いやられた私。美咲がついてくるのは当然のことだけれど、奈々もどうなるか心配だから、といいながら好奇心のほうが絶対に大きいと思われるうれしそうな顔をしてついてきてくれた。対岸の火事。気持ちはわかる。
準備室の扉を開けた先輩は、こわばった顔で立ち上がる私と不安そうに見つめる奈々、楽しそうに弁当を食べ続ける美咲を見比べて、フーっとため息をついた。
「大変申し訳ありませんでした!!」
と謝罪する私に、
「僕が怒ってるのは美咲に対してだから。桐子ちゃんが謝るのはおかしいでしょ。」
須藤先輩、私の名前知ってるんだ、とびっくりしたけれど、それはとりあえず後回し。
「私がらみの問題なんで。美咲は良かれと思ってとってくれた行動だったんです。嫌な思いをさせてしまいすみませんでした。」
頭をあげた私の後ろに座って弁当を食べている美咲をのぞき込んで、
「お前、俺に言う事あるだろう。」
「須藤先輩、ごめんなさい。」
と上目遣いのあざとい感じで目をぱちぱちしながら謝る美咲。結構いい音がする勢いでバシッと頭をたたかれて
「あ、マジで叩いた。痛ったーい。」
「お前が悪いと思ってないからだろう。理由はどうであれ、友達に謝らせて実行犯のお前が謝らないでどうする。」
「実行犯とかなんか言い方がひどい。今謝ったでしょ!!うわ、ごめん、ごめん、言い方が悪かった。本当にごめん。今後気を付けます。」
「礼儀は大事。」
二人のやり取りを見て、少しびっくりする私と奈々。美咲から話を聞いてはいたので学校内でのかなりの王子様な振る舞いは建前であると知ってはいた。でも、美咲をお前呼ばわりして叩いたりするとは思わなかった。
「あ、ごめん。でも、二人とも美咲の友達ってことはこいつ二人のこと信頼してるんだろうって思ったから。別に取り繕わなくてもいいかなって。」
「「ソウデスネ。」」
王子さま。もう少し取り繕ってくれても良かったかも。
「ほら、とりあえず座って、ご飯食べながらでいいから話してよ。昼休み終わっちゃうよ。」




