いつかの話
付き合って一年で別れました。
そんな話、そこら中に転がっているのに、まるで世界で一番の悲劇みたいな顔をして、彼女は会社の喫煙所の前で泣いていた。
僕は正直、理解できなかった。
一年なんて、人生から見ればちょっとした寄り道みたいなもので、その先にはいくらでも分岐がある。
それでも彼女の肩は震えていて、目の縁は真っ赤で、吸い込んだ息が途切れ途切れになっていた。
「一年も一緒にいたのに。」
彼女はそう言った。
まるで一年という時間が、人生のすべてを占めているかのように。
まるでその一年が、過去も未来も押し潰すほどの重さを持っているかのように。
僕は自分が冷たい人間なんじゃないかと思った。
でも、どうしても分からない。
よくある別れじゃないか。
人はいつだって別れては出会い、少し泣いてはまた笑い、繰り返しながら進んでいく。
そんな当たり前の痛みの一つに、どうして「世界の終わり」みたいな顔ができるんだろう。
けれど、彼女が小さく息を詰まらせた瞬間、ふと思った。
僕が「よくあること」と思っているその別れを、彼女は「人生で初めての崩壊」として感じているだけなのかもしれない、と。
人は自分の痛みの尺度でしか世界を測れない。
初めての痛みは、世界一の痛みに感じる。
誰かにとっては日常の中の石ころでも、当事者には足を切る刃のように鋭い。
だから彼女は泣いている。
経験が浅いからじゃない。
弱いからでもない。
ただその痛みが、その瞬間の彼女にとっては、世界のほとんどを占めてしまうほど大きかっただけなのだ。
そう思ったら、僕の中の冷たさが、少しだけ溶けた気がした。




