錬金術入門
「......ランクE、か。練るのに時間をかけすぎたのか?」
あれからログアウトもはさんで軟膏を作り続けているがランクDに達したのは1つだけだった。
工程を一度見直し、すり潰し方を変えたり、比率を確認したり、練る時間を数えてみたりと試行錯誤した結果、いくつか分かったことがある。
・薬草の茎の部分は入れても問題は無いが、すりつぶすのに時間がかかるため取り除く、もしくは先にナイフで細かく刻んでからすり潰す方が良い。
・練る時間は短い方が良いため全体の量を少なめにする。
・練るときは空気を含ませる様に手早く混ぜる。
現状確認できる中でこれだけのことをしたがそれでもランクDになる確率はかなり低い。
だが、反復練習をしているおかげか錬金術スキルはぐんぐん上がっていた。
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スキル:
・共通語Lv5
・短剣 Lv1
・錬金術 Lv1→Lv6
・採取 Lv1
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βプレイヤーはスキル引き継ぎでLv15のスキルを最初から持っていると攻略サイトに書かれていた。
おそらくそのあたりが初心者脱却のラインだと考えるとまだまだ伸ばすことができるだろう。
そう考えている間にまた一つ完成したが合格ラインに届いていなかった。
また失敗という事実にため息をつき、新しい材料を手に取る。
「......そう言えば、材料を出されていたからじっくり調べなかったが材料の品質も関係あるのか?」
一旦作る手を止めて手に取った乾燥した薬草をまじまじと見る。
枯れた植物は総じて茶色っぽくなるが手順をちゃんと踏んだ乾燥方法のおかげか綺麗な緑色の状態だ。
「ん? なんだコレ?」
よく見ると葉っぱに何か白い粉のような物がついている。
触ると簡単に取れ、指についたそれをこするととても細かい粉のような感触だった。
「まさかカビか? これのせいで品質が安定しない可能性があるのか?」
現実の食材等で基本カビが生えたものは棄てるのが吉だ。
試しにカビらしき物がついている薬草と、きれいに取り除いた薬草を分けてなるべく同じ工程で加工していく。
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治癒軟膏 Rank D
毎秒最大HPの3%を回復する。効果時間60秒
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「できた! カビは取り除いたほうがいいのか。手間がかかるが品質のためだ丁寧にやっていくか」
工程が増えて時間がかかったが、やっとランクDの塗り薬が10個できたので師匠に報告する。
私が悪戦苦闘している間に師匠は様々な容器に入った薬を大量に作っていた。
「師匠、塗り薬できたぞ」
「やっとかい。薬草の品質まで気づくのは遅かったね。手順は丁寧だったからギリギリ普通品が作れたようだけど、まだまだだね」
「最初から材料の品質の重要性も教えてくれればここまで時間かからなかったのに......」
「こればかりは自分で気づかないといけないからねえ。腕によっては逆に『精霊のきらめき』を使ったほうが良い時があるから」
「『精霊のきらめき』? もしかしてこの白いカビのことか?」
「アンタにはまだ見分けがつかないだろうけど、その白い粉のことさ。わしがちゃんと管理しているからカビは出てこないけど間違えるひよっこは多い。まあ殻のとれていないうちは品質を上手く安定させられないから取り除くほうがいいね」
なかなか重要そうなものであることがわかり安易に捨てなくて良かったとホッと息を吐く。
貴重そうな素材がそれなりに手に入ったので自分用の薬調合で使えないか色々考えていると、師匠が何かに気がついたかのように声を上げる。
「ああ、丁寧にとって置いて何だが、一度素材から取り除くとただのごみになるよ。ちゃんとそこの燃えないゴミに分類しておくんだよ」
「使えないのかよ!!」
「一部のレシピではカビを使うのがあるから一概には言えないよ。見分けがつかないひよっこにはまだ早いものじゃ。さ、出かけるよ」
「出かけるってどこに?」
「近くの教会さ。お前さんが作った薬もそこに売りに行くよ」
そう言って器具を手早く片付ける師匠。
それに習って自分で使った道具を洗浄して片付け中の師匠に手渡す。
片付けが終わったかと思ったら、店の方に向かってカウンター下にあったバスケットを2つ取り出してきた。
「お前さんのはこっちのバスケットに入れな。割れないように注意するんだよ」
「え? 師匠、インベントリがあるから必要ないぞ?」
「ああそうだったね。旅人には空間倉庫を持っているんだったね。容量の方は大丈夫かい?」
「こっちに来てから持ち物はこのナイフと服だけだからな。問題ないよ」
「そうかい。それじゃ出発するよ」
扉にかかっている札を閉店中に掛け変えて師匠の先導のもと街を歩く。
閑散とした雰囲気が漂うなか今から行く教会について尋ねる。
「教会ってもしかして孤児院と併設しているのか?」
「そうさ。面倒を見きれない子が教会に預けられるのさ。寄付金でなんとか回しているがギリギリだからねえ。薬買うのも一苦労しているのさ」
「孤児院と併設しているなら支援金とかもありそうだが」
「今でもあるにはあるさ。ただ領主様が替わって旅人の支援を優先するようになったから少なくなっちまったのさ」
「それで師匠が薬の支援をしているのか」
「老後の手慰みだから儲けを度外視しているからね。ほら着いたよ」
そう言って師匠が指さした先は一歩間違えればボロ屋と判定されるような建物でとても教会とは思えなかった。
壁にはつる系の植物がところ狭しと這っており明らかに手入れがされていない。
門から玄関までの道だけが人によって踏み固められたお陰で雑草は生えていないが、周りに生えている雑草によってその道はところどころ隠れていた。
「......師匠、ここが教会なのか?」
「そうは見えないだろう? 街の中心に新しい教会が立ったからねえ。寄付金はそっち行くようになったし、支援金もそちらにかける様になったからここまで寂れちまったのさ」
慣れたかのように隠れた道を進んでいく師匠。
少し錆が浮いているドアノッカーを叩くとすぐに扉が空いた。
「はい、なにか御用で......ああ、オルばあちゃんでしたか。いつも貴重な薬をありがとうございます」
現れたのは成人したてぐらいの若いシスターだった。




