はじまりの街
周りには似たような服を着た人たちがちらほらと立っていた。
大方今しがたキャラメイクを終えたプレイヤーであろうと予想がつく。
「パーティー募集中だよー! 近接戦闘積極応募中ーー!」
「女性限定! パーティー枠残り2名!!」
「君たち初心者? βテスターの俺たちが教えてあげようか?」
「......とりあえずここから離れるか。変に声掛けがあるとめんどくさいしな」
初心者らしきプレイヤーに声をかけている人や、お手製の看板を持ってパーティーメンバーを募集している集団から急いで離れる。
ソロでマイペースにやりたい自分にとって集団行動は結構きつい。
そうして勧誘の喧騒から離れ大きい道に出ると一般人らしき人たちが露店で買い物をしているところに出た。
綺麗な装飾のアクセサリー店や、瑞々しそうな果実を並べた露店など、様々な店が軒を連ねている。
りんごっぽい果実を並べている露店に近寄ると店主のおばちゃんが声をかけてきた。
「いらっしゃい! どれか買ってくかい?」
「すみません、このりんごっぽい果実は何ですか?」
「もしかして旅人様かい? これは『アプルの実』だよ」
そう言って指差したところには小さな木の板がありそこに『アプルの実150G』と書かれていた。
見たこともない言語だったがそのすぐ下に日本語で翻訳されている文字が出たことからスキル『共通語』のおかげだろう。
「ここいらではよく食卓に並ぶデザートさ。とれたて新鮮だからこのまま食べてもおいしさには太鼓判を押すよ」
「それじゃせっかくなのでアプルの実を1つ買わせてもらいます。それと『旅人様』とは?」
「先月からここいらでは話の種になってるよ。創造神様が選んだ人たちの総称だよ。私らが子供の頃、遠いところで召喚されたって聞いたけど、今度はその倍くるって各地の聖女様、聖人様が予言を受け取ったからいろいろあったのさ」
「ここまで語り継がれるくらいすごい人たちなんですね」
「そうだねぇ。なにせ召喚されたところは小さな街だったんだけど、そこがスタンピードに襲われたのさ。誰もが街は壊滅するって絶望したけど旅人様達がそれを避けたってことで吟遊詩人が語り歩いているのさ」
「そうだったんですね。お話ありがとうございます」
「こんなおばちゃんの話でいいなら買い物ついでに話してあげるよ。今後もご贔屓に!」
そう言って笑顔で見送ってくれたおばちゃんを今後も時折話したい人だと認定してその場をあとにする。
「それにしてもVRってここまで進化していたのか。買ったアプルの実もしっかり味がするし、ちょっとした旅行地みたいだな」
アプルの実を片手に宛もなく街を見ていく。
チラホラと遊んでいる子どもの姿が見え始めておそらく住宅街に来たのだと察する。
そしていかにも怪しい店が目についた。
「怪しさを全面的に押し出したかのような店だな。もしかして錬金術関連の店か?」
思い切って店の扉を開けると陳列されているものは干されている植物やきのこ、瓶詰めされているよくわからないものなど色々だった。
「おや、客とは珍しい。なにかいりようかね?」
「え、いや何の店か気になって入っただけの旅人です。ここは錬金術関連の店ですか?」
「そうさ若い旅人さん。老後の手慰みとしてやっている。お前さんは錬金術を嗜んでいるのかい?」
「スキルは持っています。まだ1回も使っていませんが」
「それならちょうどいい。ちょいと手伝ってくれれば錬金術のイロハを教えてあげるよ。どうする?」
その問いかけに少し考える。
攻略サイトに主要のポーション類の作り方はすでに載っている。
わざわざ時間を潰してまでやる必要性は本来ないが……
「手伝います。レシピは一応知っていますが先人のイロハは知っておきたいですし」
「カッカッカ! 素直な子だねぇ。それじゃわしのことは……師匠とでもよびな。こっちだよ。あとその敬語はなしだ。そんなへりくだられると背筋がむず痒くなる」
そう言って師匠は店の奥へ進んで行った。
陳列されているものに当たらないように慎重に進んでいくと理科の実験室のような1室に着いた。
「さて、早速だがお前さんには『塗り薬』を作ってもらうよ」
「塗り薬? ポーション類ではなく?」
「わしら一般人にはそれで十分さ。そういったものは冒険者ギルドの職員が作るからここらでは需要がないよ」
そう言いながら棚から道具と材料らしきものを次々と机のうえに並べる。
「それじゃあ作り方を説明するよ。まずこの乾燥薬草をすりつぶすんだ。終わったらふるいにかけてつぶしきれないものを除くんだよ」
「わかった。すりこぎを使えばいいのか?」
「お前さんにはまだ薬研は早い。丁寧にやりなさい」
そう言って師匠は筋トレ道具のようなものに大量の薬草を入れていた。
自分もそれにならってすりこぎの器に薬草を入れたが、量を考えず適当に入れてしまったせいで擦り切れない薬草が器から飛び出してしまった。
なんとかこぼさないように慎重にやったが、その間に師匠は自分の倍の薬草の下処理を終えていた。
「や、やっと終わった……で、これをふるいにかければいいんだな」
近くにあった小さな茶こしに擦り切った薬草を今度は少しずつ入れる。
今度は零すことなく終われたが茶こしに擦り切れなかった薬草が思いのほか残ってしまった。
ちょうどそのタイミングで師匠が様子を見に来て薬草の粉を見る。
「まあ初めてならこんなもんだよ。それじゃ次はこれと均一になるように混ぜ合わせるんだよ。薬草粉と蜜蝋の割合は1対2だよ。間違えるんじゃないよ」
そう言ってワックスのようなものが入っている瓶を渡してきた。
机に上にはすでに秤があったのでそれを使って慎重に必要な蜜蝋の量をはかる。
「よし、あとは均一に混ぜるだけだな。理科の実験で上皿天びんのを使ったがこんなところで使い方を復習することになるとは......」
適当な器に材料を入れてヘラでしっかりと練っていく。
そうして全体的に緑かかったクリームが完成した。
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治癒軟膏 Rank E
毎秒最大HPの3%を回復する。効果時間30秒
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そこに作業がひと段落したらしい師匠ができたての軟膏を確認する。
「とりあえず完成ってところだね。売り物にするには最低Dランクはほしいけど自分用なら問題ない」
「ちなみに師匠のは?」
「わしかい? こんなもんだよ」
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治癒軟膏 Rank C
毎秒最大HPの5%を回復する。効果時間120秒
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差し出した軟膏は自分のものとは効果時間も回復量も違っていた。
おまけに作成した量が自分とは比べ物にならない。
「一般人はランクCぐらいでちょうどいいから、今後薬の頼み事をされたらこのくらいの出来を狙うんだよ。決して粗悪品を渡すんじゃないよ」
厳しい言葉でそう警告する師匠。
ゲームでは品質によって報酬が変化するタイプとそうじゃないタイプがあるが、ここでは『信用度』とかに直結するらしい。
「さて、ひとまずの目標としてランクDの軟膏を10個作ってもらうよ。材料はこの棚にあるものなら使ってもいいが別の材料を混ぜるんじゃないよ」
「別の材料を加えれば品質が上がるのか?」
「上がりはするがお前さんのような殻のついたままのひよっこ錬金術師のうちは地道にやりな。下手したら違う効能がつくからね」
そう言って師匠は別の棚から別の材料を取り出していつの間にか洗浄した薬研と理科室にありそうな機材を使って別の作業を開始した。
「よし、それじゃあ地道にやっていきますか。とりあえずすりこぎに入れる薬草の量を少し分けるか」




