灰色の声の向こう
むかし、むかし。
あるところに、お花が大好きな女の子がいました。
街の近くの山には、
一年中、光を放つように咲く、不思議なお花がありました。
誰にも届かない場所で、
ただひとり、静かに咲き続けるその花が、
女の子は大好きでした。
ある日、山を登ると、
その花に、いくつもの小さな種がついていました。
見つめていると、一粒の種が、
ポロン……と、足元に転がってきました。
女の子は思いました。
「この花を、自分の手で咲かせたい。」
街に戻り、女の子は土を耕しました。
けれど、そこに集まった大人たちは言いました。
「どうせ無理だ。」
「あの花は、山でしか咲かないんだよ。」
それは、
かつて諦めた人たちの、
重たく、灰色の声でした。
それでも女の子は、
泥まみれになりながら、種を守り続けました。
月日が流れました。
けれど芽は、出ません。
大人たちの言う通りなのか、
心が冷たくなりかけた、その時。
一匹の黒猫が、そっとやってきました。
「どうして、山で咲くのか。
その理由を、考えたことはあるかい?」
そして、去り際にこう言いました。
「声を塗り替えるのは、花ではなく、君自身だよ。」
それから女の子は、考えました。
水を変え、土を変え、肥料を変え、
何度も山へ行っては、確かめました。
諦めずに、
雨の日も、風の日も、
ただ一生懸命に。
そして――ある朝。
外から、たくさんの声が聞こえてきました。
「ありがとう。」
「よくやった。」
それは、
温かい色を持った声でした。
女の子が外に出ると、
庭いっぱいに、光が広がっていました。
そこには、
あの山の花が――
まばゆい光を放って、咲き誇っていたのです。
灰色の声の向こうに、
ほんとうの色が咲いた朝でした。




