サスペンスホラー~『八咫乞村(やたごいむら)』~
※本作には軽度のホラー描写・流血表現が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
【八咫乞村】
「みなさーん? あのー?八咫乞村のみなさーん?」
村を歩き回りながらあちこち向いては誰かに声を掛けるように声を出した。
しかしどこにも村人の姿は見当たらない。
(なんで誰もいないんだ?数時間前まではみんな普通にいたのに…)
数時間前の記憶を遡ってみる…。
今朝早く村に辿り着いた俺は、村人のみなさんに挨拶をし、
軽く村を見て回った後、疲れたので民泊予定だったお宅に向かい、
ご夫婦に挨拶してから部屋に案内され、眠気があったのでそのまま昼寝をした。
正午過ぎ、目を覚ました俺はご夫婦のいないことに気づく。
まあそれはいい。出掛けたんだろうなって思った程度だったし。
俺も出掛けようかと思って外に出た。ただそこからが問題だった。
昼寝前までにはあんなに村のあちこちにいた村人が
誰一人としていなくなっていた。
…いや、正確に把握してるわけじゃない。
ただ、村を歩き回っても誰にも会えなかった。
そして今に至る。
静まり返る村落。不気味なくらいに静かだ。
カーッ、カーッ。
数羽、カラスが飛んでいった。
辺りを見回しながら村を歩いて回る。
しかし一向に誰にも会わない。人の気配も感じられない。
(どういうことだ?なんで誰にも会わない?
昼寝前はあんなに色んな人に会ったはずなんだが…)
不思議に思いながら村を歩いていく。
ある民家を覗き見てみる。
「あのー? すみませーん!」
しかし返事は返ってこない。
玄関先を見ると開け放たれていて、
引き戸のそばには白いビニール袋に土のついた複数の野菜が入っている。
自宅の畑から採ったばかりの野菜だろうか?
横に目を向けると縁側のある小さめの庭にあった物干し竿に、
干していた途中らしき洗濯物がかかっていた。
近くには洗濯カゴも置かれている。
何か急用でもできて出掛けたのだろうか?
「すみませーん! どなたかいらっしゃいますかー?」
庭から民家の方へ声を掛けてみる。
…が、やはり何も返事は返ってこない。
その民家の外周をぐるっと回ってみたものの、結局村人には会えなかった。
また村を見て回ることにする。
相変わらず人の気配を感じられない。
まるで、村人全員が突如として一斉に夜逃げでもしたかのように
感じられるほどだ。
「みなさーん? どなたかいらっしゃいませんかー?」
村のあちこちにまた声を発する。
しかし、いくら声を出しても返事は返ってこない。
一体何があったというのだろうか…。
そうして村を歩き回っている時…
「ガタンッ」と、
ある民家から何か物音が聞こえた気がした。
振り向いてその民家を見るがやはり誰もいない。
不思議に思いつつも誰かいるのかもしれないとその民家へと近づく。
「すみませーん! こんにちはー!」
声を掛けて周りを見回すもやはり誰もいないし返事もない。
玄関を見ると引き戸が数センチだけ開いている。
しかしそこからは僅かに暗い玄関の床が見えるだけだ。
ここも人がいないのだろうか?
その時、またガタッと物音が聞こえた気がした。
この民家のずっと奥の方で。
「誰かいらっしゃいますかー?」
「…」
相変わらず返事はこない。
でももしかしたらこのお宅には誰かいるのかもしれない。
そう思い、僅かに開いた玄関の引き戸を開けて
民家に入ってみることにした。
「こんにちはー。どなたかいますかー?」
玄関先に入るが、中は真っ暗でほとんどまともに見ることができなかった。
やはりここも誰もいないんだろうか?
そう思いつつも外の陽光を頼りに辺りを見回すと、
近くの壁に部屋の電気のスイッチを見つけた。
これで室内が見えるようになると思い、自然にスイッチを押す。
一気に明るくなった室内。
改めて声を掛けて室内を探ろうと玄関の奥を振り向く。
…がーー。
「ーーーーっっっ!!!!!」
その光景に思わず声なき叫びを上げる。
全身の血が一気に引く。体がガタガタと震えだす。
目の前に見えたのは、おびただしい数の村人の死体だった。
折り重なるように床に伏す村人たち。
鼻をつんざくほどの強い鉄さびのような匂い。
真っ赤に染まった室内…。
「ぁ……ぁ……」
あまりのショックな光景に腰が砕け、その場にくずおれる。
ひどく体も震える。
胃の奥から吐き気も催してくる。
目が泳ぐ…動悸がする…。
どうしたらいいのかわからない…。
何とか立とうとした。
しかしガタガタ震える足はまるでまともに動かない。
必死に何度もチャレンジした。
でもどうしても立てない。
そんな時、背後からまるで砂利を踏んだような足音が聞こえた気がした。
でもなぜか振り向いてはいけないような気がした。
一気に血の気が引く。激しい動悸がする。
止めてしまいそうになる呼吸にゴクリと唾を飲むと、
ゆっくりと音の根源の方を振り向く。
大柄な体に赤黒い液体が大量に付着してる服の太ったお腹が見えた。
ゆっくりと視線を上げる。
手元には血に染まった大きな…
「…(ニヤッ)」
同時に、その後ろに怪しく笑った口元が見えた気がした。
直後、大きく振りかぶられたソレが目の前に…
ーーーーーザシュッ!!!
ーーーーー。
ーーー…。
……。
………………………………………………………………『狂気に濡れた八咫乞村』




