07 庶民広場エピソード「映写幕に映る怪物」
庶民広場エピソード「映写幕に映る怪物」
双竜盆地の広場に設置された大映写幕。
そこに映し出されたのは、ナナシィとギルバートの第三戦だった。
集まった庶民たちの目は真剣そのもの。出店の湯気も忘れて、皆が息を呑んでいる。
「さぁ始まりました、注目の第三戦!」
映写幕の前で司会役が声を張り上げる。隣には解説を任された老釣り師が座っている。
「うわっ、なんだありゃ!」
「鉄の魚!? いや、あれは怪物だろ!」
観客から悲鳴と笑いが同時に上がる。
老釣り師は口ひげを撫でて唸った。
「あれは“機械魚”じゃな。ブルー派の技術を総動員して造った試作品よ。まさか大会に持ち込むとは……」
「つまり反則、なんですか?」
「いや……規則上は“魚であればよい”としか書かれておらん。狡猾な抜け道じゃな」
観客がざわめく。
「ずるいぞブルー派!」
「でも見てみろ、《鋼鱗》に仕掛けが決まってる!」
「ナナシィは……おおっ! あの娘、《赤眼》を捉えたぞ!」
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映写幕に映るのは、荒れ狂う二体の鉄の怪物。
ギルバートの竿がしなり、《鋼鱗》を抑え込む姿に歓声が上がる。
だがナナシィが《赤眼》の動きを読み切った瞬間、広場全体が爆発するように沸いた。
「すげぇ! なんで分かったんだ今の!」
「偶然じゃないぞ、あれは!」
「いや、あの子の“勘”ってやつだ!」
司会が慌てて声を張る。
「ナナシィ選手、まさかの読み! これは大波乱です!」
決着の瞬間。
《赤眼》が宙を舞い、桟橋に叩きつけられたシーンが大映写幕に映ると、広場は地響きのような歓声に包まれた。
「勝ったあああ!」
「やったぞナナシィ!」
「これでスポンサー連中も黙るだろ!」
老釣り師は腕を組み、深く頷いた。
「あれが、本物の釣り手じゃ。魚が機械であろうとなかろうとな。心で受け止める者が勝つ!」
司会は涙目になりながら叫んだ。
「第三戦、勝者はナナシィ選手。 皆さん、拍手をーー!」
拍手と歓声、そして夜店の太鼓までが重なり、広場は祭りのような熱気に包まれた。
誰も知らない。ナナシィを導いた翡翠玉の存在など。
ただ一人の少女の勝利として、この瞬間は庶民の胸に刻まれたのだった。




