36 決勝戦・序盤「竜影の出現」
# 決勝戦・序盤「竜影の出現」
決勝戦を前に、水晶会館の一室は重苦しい空気に包まれていた。
レッド派の重鎮たちは口々に言葉を交わしながらも、最終決断を渋っている。庶民の声がどれほど高まっても、彼らの胸に残るのは「本当に勝てるのか」という疑念だった。
そのとき、扉が勢いよく開かれた。
真紅のドレスを纏ったセラフィーナが、堂々と足を踏み入れる。
「……あなた方の逡巡は、ナナシィを見くびることに他なりませんわ」
鋭く澄んだ声が響き渡り、広間を満たしたざわめきがぴたりと止まる。
「私は彼女を認めます。庶民出の娘などと笑ってきましたが……今や彼女は私の誇り。レッド派の代表として、胸を張って推します!」
その言葉は、重鎮たちの心を大きく揺さぶった。驚きと困惑の表情が交錯する中、ティナが片隅から微笑を浮かべ、短く呟く。
「……やっと、庶民の気持ちが分かってきたってわけね」
セラフィーナはちらりとティナを見やり、口元だけで小さく笑った。
――そして、決勝の舞台。
双竜盆地の最奥に広がる湖は、凍りつくように静まり返っていた。観客席の熱狂すら、底知れぬ緊張に包まれていく。
やがて湖底から響く振動。水面が激しく揺れ、金属の咆哮が轟いた。
水飛沫を割って姿を現したのは、全身を金属鱗で覆った巨竜――竜型メカフィッシュ。九つの眼が赤く光り、会場全体を圧する。
「……これが、最後の相手」
ナナシィは竿を握りしめる手に力を込める。翡翠玉が脈動し、微かに右手へと導く暗示を送ってきた。
庶民席では緑の旗が大きく揺れ、声援が湖面を渡る。だがブルー派の来賓席では、ドロシーが立ち上がり、冷ややかに宣言した。
「新時代を切り拓くのは、この竜のみ」
観客の熱狂と冷酷な宣告――二つの力が交錯する中、決勝戦の幕が静かに上がった。




