28 準決勝 ― 赤き湖面の激突
# 準決勝 ― 赤き湖面の激突
湖面に、火花が散った。
巨大な観戦水晶に映し出される準決勝の舞台は、双竜盆地の中央に広がる深き湖。
空には白銀の雲が垂れ込み、風は荒く、波は常より高い。
決戦の舞台に相応しい、自然の厳しさが選手たちを試すかのようだった。
対するは、ブルー派が誇る大手スポンサーの代表。
名をグレゴール。
開発者であり、名高きプロ釣り師。
竿に組み込まれた機構は彼自身の工房で鍛えられ、さらに背後には令嬢の騎士が控え、魔術のサポートを惜しまない。
「ナナシィ・クローバー! 今日でおまえの快進撃も終わりだ。」
湖岸から響く声は、観客を沸かせ、また圧倒した。
ナナシィは黙して竿を構えた。
翡翠玉がかすかに光を返し、風向きと水流を指先に伝えてくる。
それは「まだ勝機はある」と囁く声のようにも思えた。
湖面が割れる。
水を蹴破って現れたのは、銀と黒の鱗を持つ《鋼牙魚》――機械と魔法を融合させた戦闘魚。
その巨体が跳ねるたび、湖面は荒れ狂い、ナナシィの竿は危険な角度までしなる。
「支えろ!」
グレゴールの背後で、漁師風の従者が動いた。腕力で竿を助けようとする――だが、プロ釣り師は冷たく振り返った。
「手を出すな……これは俺の勝負だ!」
一方、令嬢の騎士は詠唱を終え、湖面に幻惑の魔法陣を描き出す。
水流が変わり、鋼牙魚の突進はさらに鋭くなった。
負ける。
観客席でも、そんな囁きが走る。
だが、その瞬間。
ナナシィの耳に、祖母の声が響いた。
『升は器だよ。どんな魚を受け止めるかは、お前の心次第』
竿を握る指に力がこもる。
翡翠玉が緑に輝き、湖面の風がわずかに変じる。
観客席からは誰も気づかぬ微風。だがその一瞬が、ナナシィの仕掛けを魚の進路へと誘導した。
銀の巨体が跳ね上がる。
竿が弧を描き、世界が張り詰めた。
「……来い」
ナナシィの声とともに、鋼牙魚は湖面から引き抜かれた。
空を裂き、光を浴びて踊るその姿に、観客席から割れるような歓声が起こった。
勝敗は決した。
グレゴールは額の汗を拭い、深くため息をついた。
「認めよう。今日の勝者はお前だ、ナナシィ・クローバー……」
彼女は小さく頷いた。
歓声の渦に包まれながら、胸の奥で確信する。
まだ、終わりじゃない。そう。決勝が待っている。




