26 赤の間に響く声
# 赤の間に響く声
紅蓮のカーテンと豪奢な燭台が並ぶ「赤の間」。
勝利の余韻に包まれるはずの空気は、思いのほか重かった。
ナナシィがまた勝利を収めた――それ自体は誇らしい。だが、庶民の娘が看板となっていくことに、重鎮たちの心は複雑だった。
「市場の声は、彼女を英雄と呼んでおります」
ティナが帳面を広げ、静かに報告する。
「一方、青の間では責任を擦り付け合い、スポンサーの顔は青ざめておりました」
「ふむ……良い傾向ではないか?」
進歩派の若手が頷く。
「世論を味方に付けられるのは強みだ。大陸の流れを決めるのは、剣でもなく術でもなく、人の声なのだから」
「浅はかな!」
年配の重鎮が低く唸った。
「庶民の歓声など移ろいやすい。今日の英雄も明日の笑い者になる。赤の名を軽々に託すべきではない」
室内に緊張が走る。
ティナは給仕に扮した侍女の手から杯を受け取りつつ、口元を隠して小さく笑った。
重鎮の誰がどちらに傾くかで、明日の流れは変わる。
彼女の役目は、その兆しを逃さず拾うこと。
「……次戦は、正念場だ」
中央の席に座る長老が声を発した。
「勝利すれば、青を一歩退けることができる。だが敗北すれば、これまでの歓声も水泡に帰す」
その言葉に、場にいた全員が黙って頷いた。
祝杯はまだ挙げられない。
炎がゆらめく赤の間には、勝利の喜びより――次に向けた重い覚悟が漂っていた。




