25 嵐の前触れ ― ブルー派サロン
# 嵐の前触れ ― ブルー派サロン
水晶会館の一角に設えられた「青の間」。
深い群青の絨毯と青薔薇の刺繍を施した壁掛けが、重苦しい空気をさらに濃くしていた。
ワインが卓上に並べられているものの、誰一人手を伸ばす者はいない。
「……許しがたい」
重鎮の一人が拳を握り締め、低く唸った。
「セイラス殿を取り込み、庶民娘に勝利を与えるとは。あれはただの幸運か?」
「幸運などでは済まぬ」
別の議員も声を荒げる。
「市場を見よ! 庶民どもが“英雄”などと彼女を持ち上げ、我らの商品は売れ残っている。スポンサーは顔色を失い、商会は不安を募らせておるのだ」
会場の片隅で、青いドレスを纏った若い令嬢が扇子を握りしめる。
「それでも、事実として彼女は勝ち続けています。裏切り者と呼ばれたセイラスさえも……。では、次は誰が彼女を止めるのです?」
問いかけに、誰も即答できなかった。
沈黙の中、蝋燭の炎が揺れる。
「技術の流出かもしれぬ」
「いや、魔術師の介入だろう」
「だが証拠がない。証拠なしに糾弾しては、かえって我らが笑い者になる」
議論は迷走する。責任を擦り付け合う声が響き、卓上の杯は冷え切ったまま。
やがて、最年長の重鎮が重々しく口を開いた。
「……いずれにせよ、このままでは大義も威信も揺らぐ。次の戦いでは、必ずあの娘を討たねばならぬ。敗北を重ねれば、青の名は地に堕ちるぞ!」
その言葉に、誰もが黙って頷いた。だが胸の奥に広がるのは確信ではなく、不気味な違和感。
“なぜ彼女は勝ち続けるのか”――その答えを掴めぬまま、夜は更けていった。




