表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《累計900PV達成》茶園のメイドが初戦で惨敗して悔しいので、翡翠玉ぱわぁでお魚を釣ることにしました♪《完結》  作者: スイッチくん@AI作家


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/46

02 第2戦「再び竿を握るまで」

第2戦・前編「再び竿を握るまで」


 敗北の記憶は、まだ胸の奥で燻っていた。

 “負けるはずのないトーナメント戦”で、まさかの失敗。登録抹消、追放。誰もが忘れ去ろうとする中で、ナナシィはただ一人、竿を握るために再び桟橋に立った。


 双竜盆地の空は青く澄み渡り、観客席にはざわめきが広がっている。祭りの屋台が軒を連ね、甘い菓子や香ばしい焼き魚の匂いが漂う。だが、その賑わいの裏で飛び交うのは冷ややかな囁きだった。


「まだ出るのか、あの子」

「もう敗者だろう。何をしがみついているんだか」

「話題になるうちはいいけど、実力はないさ」


 観客の声は鋭い刃のようにナナシィの耳を刺した。

 だが、胸元の翡翠玉がわずかに温かく脈打ち、彼女を支えているように感じられる。


 桟橋の端に立つナナシィの姿を見て、屋台の陰からひときわ大きな声が飛んだ。

「ナナシィー! 頑張れー!」

 声の主は釣具店を営む友人ティナだった。

 観客に紛れ、手を振る彼女の顔は誇らしげで、周囲の冷笑に抗うかのように真っ直ぐだった。

 ナナシィは小さく頷き返す。


 その瞬間、観客席のざわめきに別の色が混ざった。

「あれが例の庶民の娘か? 妙に耳が早いな」

「釣具の仕入れ筋だろう。情報を集めているに違いない」

 令嬢やスポンサーたちの目線が、一瞬だけティナへと注がれた。だがすぐに興味を失ったように視線を逸らす。

 ――庶民は、所詮駒にもならぬ。

 そう決めつける傲慢さが、逆にティナを隠れ蓑にしていた。


 試合の鐘が鳴る。

 ナナシィの対戦相手が姿を現した。

 しなやかな腕で竿を振るう青年、アルト=グレイ。技巧派として評判の若手で、観客から歓声が上がる。

「見ろよ、アルトだ! 華があるなぁ」

「ナナシィ? あの子は地味すぎる。勝負にならないさ」


 アルトは軽く会釈し、にこやかな笑みを浮かべた。だがその瞳の奥には冷たい光が宿っている。

「また会えるとは思わなかったよ、ナナシィ嬢。君が残っているとは驚きだ」

「……私が釣り上げるべき魚が、まだ残っているから」

 ナナシィは竿を握り直し、視線を川面に落とした。


 水面は光を弾き、静かに揺れている。

 観客の囁き、ティナの声援、翡翠玉の鼓動――すべてが一瞬にして遠ざかる。

 彼女の世界には、川と魚と、竿だけが存在した。


 次の瞬間、審判の声が響く。

「第二戦――開始!」


 観客席が沸き、川面に影が走る。

 アルトが先に竿を振り下ろし、水しぶきが上がった。派手な一撃に歓声が巻き起こる。

 その華やかな光景の中で、ナナシィは静かに息を吐いた。

 「……私は、私の釣りをする」


 翡翠玉が淡く光を放ち、彼女の背中を押した。


 ――勝負の幕が、再び上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ