20-1 第5戦 裏切りの騎士 ~ 前編
# 裏切りの騎士
試合場に入った瞬間、観客席がざわめきで揺れた。
「まさかの……セイラス殿だ!」
「裏切り者め。赤の旗を捨てたのか!」
次々と飛ぶ罵声。
その中心に現れた男は、鋼色の鎧をまとい、長身の影を湖面に落としていた。
セイラス・ヴァンデル。
かつてはレッド派の名を高めた剣士であり、英雄と讃えられた存在。
だが今、その胸には青の紋章が輝いていた。
「……なぜ?」
ナナシィの口からも思わず漏れる。
彼女と同じように、多くの観客が問いを抱いていた。
観客席では……
「聞いたぞ。レッド派の長老たちが彼を疎んだんだ」
「力を持ちすぎた者は、派閥の秩序を乱すと……」
「それでブルー派に迎えられたのか……なんと愚かな」
観客の声が試合場にまで届き、セイラスの背中に突き刺さる。
だが彼は振り返らない。
ただ静かに剣と竿を両手に構え、前を向くだけだった。
そして、試合開始。
審判の声とともに、水面へ仕掛けが放たれる。
セイラスの剣がひと閃すると、湖に走る魚影が切り裂かれたように軌跡を変え、竿に誘われる。
剣術と釣技を融合させた華麗な技。
観客席からどよめきが起こる。
「さすが……裏切り者と呼ばれようと、あの技量は本物だ」
一方のナナシィも竿を振るい、升仕掛けを展開する。
翡翠玉がかすかに光を放ち、〈器を信じ、お前の手で受け止めろ〉という祖母の声が胸に響いた。
水面で二つの仕掛けが交差し、魚影が翻弄される。
やがて一匹の大魚が跳ね上がり、二人の竿に同時にかかる。




