18 水晶会館の議論
# 水晶会館の議論
湖畔から少し離れた高台に、光を帯びて建つ水晶会館。
内部の大広間は赤い絨毯と水晶柱に囲まれ、レッド派の議員や商人たちが集まっていた。
その空気は試合の余韻に揺れながらも、鋭い緊張を孕んでいる。
「――オルフェン殿が敗れるとは、予想外であったな」
ひとりの議員が声を低くする。
「だが逆に好機ではないか。庶民の娘が勝ったとあれば、我らの世論工作に利用できる」
その言葉に、隣の商人が肩をすくめた。
「利用と言うが……本当に庶民は歓迎しているのか?」
その時、広間の片隅に置かれた小さな水晶板が淡く光った。
魔術符を扱う中堅魔術師が一礼し、声を響かせる。
「市場の声が届いております。ティナ嬢の店を拠点に集められたものです」
水晶板に映し出されたのは、ざわめく民衆の声。
『ナナシィ嬢こそ希望だ!』
『オルフェン様はすごいが、もう時代が違うんだ』
『庶民でも戦えるんだな!』
議員たちは顔を見合わせた。
「……まるでそこに庶民が座っているかのようだな」
「なるほど。彼女の戦いは、すでに我らの派閥の旗印になりつつある」
一人の老議員が扇子をぱたぱたと動かしながら口を開いた。
「ただし浮かれすぎるな。庶民の声は移ろいやすい。次に敗れれば、同じ舌で叩かれるであろう」
広間に一瞬の沈黙が流れる。
やがて別の若手議員が拳を握りしめ、勢いよく叫んだ。
「ならば我らが支えるまでだ! 彼女に力を貸し、勝利を確実にすればよい!」
賛同の声が広がり、議論は熱を帯びていく。
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その様子を見届けながら、片隅の魔術師は小さく呟いた。
「……ティナ嬢。あなたの店が、今やレッド派の心臓部になっているのですよ」
水晶板は再び光を収め、庶民のざわめきを沈黙へと還していった。




