01 敗北後の釣具店
敗北後の釣具店
街はまだ大会の余韻に湧いていた。
通りを歩けば「準決勝進出者モデル」「バランタイン愛用リール」などの旗がはためき、子どもたちが歓声を上げながら模造品の竿を振り回している。
ナナシィはうつむき、足を止める。
小さな釣具屋《翡翠堂》の店先。そこに積まれていたのは、彼女が使ってきた竿と同型の廉価版――値札には赤い字で「在庫処分・半額」と書かれていた。
箱の中には、茶葉パウダーの袋も混ざっている。湿気で固まったものは無造作に廃棄用の籠に突っ込まれ、子どもが棒でつついて遊んでいた。
「これ、ナナシィの仕掛けじゃん。もういらないんだってさ」
「だって、負けたんだろ?」
笑い声が刺さる。胸の奥が軋む。
祖母から受け継いだ器と工夫、そのすべてが「時代遅れ」として捨てられていく光景――。
「……器じゃなかったのは、私の方なのかな」
唇が震え、声にならない言葉が漏れる。
そのとき、店の奥から明るい声がした。
「ナナシィ!」
振り返れば、友人のティナが小さな手を振っていた。
「うちじゃ廃棄なんかしないよ。あんたの仕掛け、私は好きだから」
ナナシィはかすかに笑った。だが、笑顔の奥には熱い悔し涙が滲んでいた。
補足
茶葉→お茶の葉。今回の物語に於いては、獲物を釣り上げる確率を上げる為に使われる。
通常、パウダー状に加工される。




