14 水晶会館のお茶会
# 水晶会館の茶会
湖畔広場にそびえる水晶会館は、外壁にまで透き通った装飾が施された眩い建物だった。庶民たちは通りすがりに見上げ、ため息まじりの声を漏らす。
「ここでお茶会が開かれるんだってさ……」
「ナナシィ嬢の名も、きっと話題に上るんだろう」
内部の大広間は、光を反射する水晶の柱が立ち並び、無数のランプの灯りが宝石のようにきらめいていた。中央には淡い光を投影する魔導映写装置が据えられ、湖上で行われる試合の様子が紅茶のCMと共に半透明の映像で映し出されている。
紅茶の香りと小菓子の甘さに包まれた空間。だがそこに漂うのは安らぎではなく、探りと計算の気配だった。
「あの庶民の娘、また勝ったそうですわね」
扇を軽く揺らしながら、ブルー派の令嬢ドロシーが口を開く。
映像に映るナナシィの姿に、会場の視線が自然と集まった。
「勝利を続けることは称賛に値しますが、庶民の熱狂が過ぎれば制御を失う危険もある」
彼女の言葉に頷くのは、同派のスポンサー商人たち。
「人気を利用するのは簡単だが、裏返せば炎上の種。取り扱いには細心の注意が必要だ」
すぐさま反論の声が挙がる。
「しかし、あれほどの喝采を受ける選手を切り捨てるのは愚策ですわ」
レッド派の令嬢セラフィーナが微笑を浮かべ、静かに扇を閉じる。
「人々は彼女を“希望の象徴”として見始めている。これを押さえつければ、反発はむしろ強まるでしょう」
紅と青、二つの派閥が言葉を交わすたびに、会場の空気は熱を帯びていく。
魔導映写の湖面に、別の選手の戦いが映し出される。魚影が大きく暴れ、歓声が漏れた。だがそれすら政治の駒として論じられる。
「ほら見なさい。あれこそが実力。人気だけで勝ち上がれるものではない」
「いいえ、実力に人気が加わって初めて人は動くのです」
会場の外から、庶民のざわめきがかすかに聞こえる。
「ナナシィ! 次も頼むぞ!」
「きっとやってくれる!」
壁越しの声は、お茶会の空気に新たなざわめきを運び込んだ。
ドロシーは唇をわずかに歪め、低く呟く。
「……やはり危うい。炎は、近づけば己も焼かれるのだから」
一方でセラフィーナは、紅茶を口に含みながら遠い視線を映写の光に重ねた。
「いいえ。炎は道を照らす光にもなり得ますわ。彼女がどちらに転ぶか……それを見極めるのが私たちの役目ですわ」
紅と青の声が交錯する水晶会館。その空気の張り詰めた糸は、やがて次の試合と政治の渦へと繋がっていくのだった。




