11 薔薇窓のお茶会と、それぞれの思惑
第5章 薔薇窓のお茶会と、それぞれの思惑
薔薇模様の窓から、陽光が差し込んでいた。窓の向こうには湖が広がり、別の選手の試合がちょうど行われている。
竿がしなり、水飛沫が煌めき、観客席からは小さなどよめきが上がった。
「まあ、あの方……力はありますけれど、粗雑ですわね」
「ええ。品のない勝ち方では、庶民には受けても、我らの支持は得られませんわ」
紅茶を手にしたレッド派の令嬢たちは、視線を外に向けながらも、言葉の矛先は別にあった。
「ナナシィとかいう娘……本当に実力で勝ったのかしら」
「利用できるのならば歓迎ですわ。庶民の熱狂は、選挙にも似た力を持ちますもの」
「ですが、力を持ちすぎれば……制御できなくなる危険も」
セラフィーナ嬢は微笑みを崩さず、言葉を遮る。
「少なくとも、彼女は“本物”ですわ。勝ったのは道具ではなく、彼女自身の心でしょう」
隣室のブルー派お茶会では、重苦しい沈黙が続いていた。
「ギルバートが敗れるとは……」
「次は徹底的に準備をせねば」
「……彼女を取り込むことはできぬのか?」
その提案に一瞬、空気がざわめいた。
敵視する声と、欲する声。どちらも、ナナシィの名を無視できなかった。
そこで、青のドレスを纏ったドロシー嬢が、扇を軽く閉じて笑った。
「庶民の娘ごときに翻弄されるなんて、情けないこと。ですが、」
彼女の瞳は薔薇窓の外に向けられる。湖面で揺れる水光を見つめながら、低く囁いた。
「いずれ私の手で、その小娘を正しい“青”に染め上げて差し上げますわ」
場の空気が一層張りつめ、誰もが言葉を失った。
同じ時刻。建物の外に設けられた広場では、庶民向けの大映写幕に映像が映し出されていた。
そこに立つティナは、懸命に人々の声を拾っていた。
「また勝てるんじゃないか?」「いや、次は無理だ」
市場で得た噂と照らし合わせながら、彼女は帳簿に小さく走り書きをする。
(……やっぱり、上から下まで、みんながナナシィの名を口にしている)
(これは、ただの大会じゃない。潮目が変わろうとしているんだ)
ティナは胸の奥に小さな熱を感じた。
友を支えるための“情報”が、必ず武器になる! そう信じて。
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そして夕刻。
レッド派のお茶会とブルー派のお茶会が、ほぼ同じ時刻に終了する。
廊下に出た二つの一団は、ばったりと鉢合わせた。
「まあ……偶然ですこと」
「ご機嫌よう、皆さま」
柔らかな笑みとともに、互いの視線は鋭く交差する。
そのわずかな火花を、廊下の隅で片付けをしていたティナは、そっと息を潜めて感じ取っていた。
(……ここで交わされた視線の意味を、ナナシィに伝えなきゃ)
彼女の中で、情報屋としての役割がまたひとつ形を成していった。




