00 プロローグ(敗北)
プロローグ ~ 敗北
双竜盆地の大水門スタジアム――。
両陣営の旗がゆらめき、観客席はレッド派とブルー派の色に分かれて湧いていた。魔導師の紋章旗、工匠ギルドの鉄鎚印。どちらも一歩も譲らぬ喧騒が渦巻く。
主人公、“茶園の娘ナナシィ”は小柄な体で堂々と立っていた。手に握るのは、祖母から受け継いだ《升仕掛け》の釣具。機械も魔法も頼らない、ただ人と魚との真剣勝負。それを誇りにしていた。
「勝てる。今日こそ、私が――」
観客の中にも期待は広がった。セラフィーナ嬢が真紅の扇子を振り、「この子こそが真の釣り士ですわ!」と声援を送る。
だが対面に立つのは、ブルー派代表バランタイン卿。
漆黒のスーツに金属光沢の竿。機械仕掛けのリールには、プロセッサが幾重にも組み込まれている。
「人の感覚など時代遅れだ。魚は数で測れる、結果がすべてだよ」
冷ややかな声。
試合開始。
ナナシィは湖面に仕掛けを放つ。水門から流れ込む水のきらめき。魚影が集まる。彼女の手は迷いなく竿を操り、観客から歓声が上がった。
――だが次の瞬間。
轟音とともに、バランタインの機械竿が唸りを上げる。
光の糸が水中を走り、魚群が一斉に引き上げられた。たった一度の操作で、ナナシィの何倍もの獲物が網にかかっている。
「……っ!」
唇を噛み、血が滲み出る。
戦力は圧倒的な差。
審判が掲げた旗は、無情にもブルー派の色だ。
観客席がざわつく。「これが時代の流れだ」「古臭い釣り方に未来はない」
セラフィーナ嬢は憤然と立ち上がった。「不正ですわ!こんな試合は認められません!」
だが、審判団は首を振るだけ。
そして宣告が響いた。
「ナナシィ選手。大会登録を抹消し、本大会から追放とする!」
歓声と嘲笑。
世界がひっくり返る音を、彼女は確かに聞いた。
――悔しい。
――でも、これで終わるものか。
湖面に散った涙のしずくを、夕陽が赤く照らしていた。
ナナシィの再起の物語は、ここから始まる。
補足
升:
チートの略で、初心者には竿とプロセッサにしか見えない構成を指していたが、人格「クマちゃん」により、初心者装備という意味合いで解釈されて、現在に至る。形状は多分、四角い。
プロセッサ:
仕掛けの頭脳部。本編開始前の設定ではAIやスマホ機能も含まれていたが、やはり無効に。




